■月の分かつ絆■ 明け方特有の淡い光に包まれた部屋の中、ルシフェルは自らの額に触れた優しい感覚によって その重い瞼を開いた。日が昇るまでにはまだ暇があるのか、部屋の中は薄暗い。 けれどずっと眠っていたルシフェルにとってはひどく眩しく感じられ、イマイチ上手く目を開けていることが 出来なかった。眉を顰めつつ、瞳を閉じたり開いたりを何度も繰り返してみる。 するとようやく目が慣れてきたらしく、徐々に視界がハッキリとしてきた。 そして真っ先に目に入ってきたものは悲しげに微笑むブラムの顔だった。 (・・ブラムさん・・・良かったぁ・・・大丈夫だったんだ) 彼を見るなり無意識のうちに顔が緩む。瞳の色も戻っているし、具合ももう悪くなさそうだ。 ルシフェルは思わずという風に安堵した。先ほど自分の額を撫でたのがブラムなのだと分かって尚更。 「ルシ君・・・・」 不安げな表情を浮かべ、ブラムが呟く。 (・・・ブラムさん・・・? ) どうしてブラムがそんな顔をしているのかルシフェルには分からない。なのに、ブラムを見ていると ルシフェルも切なくなってきた。胸の奥がざわついて、何だか泣きそうな気持ちになる。 (そんな顔しないで・・・・笑って下さい) 言葉に出してそう言いたいのに、どうしてだか思うように声が出てくれない。 ブラムに触れたいのに、身体が少しも動こうとしない。 (・・どうして・・・・? ) ルシフェルは眉を顰め、必死にもがこうとしてみる。それでもやはり、ルシフェルの身体は ピクリとも動かなかった。 「愛してる」 ルシフェルの額を再度撫で、ブラムは消え去りそうな声で囁く。 手を伸ばして、ブラムを抱きしめて・・・・自分も同じ気持ちでいることを伝えたい。 ブラムの悲しそうな顔をこれ以上見ていたくないのだ。 「・・・・ごめん」 泣きそうな顔でブラムがふっと微笑む。謝罪の言葉を口にしつつ、ゆっくりとルシフェルに口付けた。 (・・・どうして謝るの・・・? ) 柔らかい唇が触れた瞬間、ルシフェルの頬に涙が伝う。重ねられたその箇所からブラムの悲しみが 流れ込んできたような心地がした。 ブラムが離れていってしまう・・・・キスが終わったその時、何故かそんな気がしてしまった。 (・・・嫌・・・嫌です。ブラムさん・・・・) 手を伸ばして、呼び止めて、ブラムを引き止めていたいのに・・・・何も出来ない。 ブラムはルシフェルから身体を離し、背を向けて部屋を出て行ってしまう・・・。 (・・・どこにも行かないで・・・) ボロボロと涙が零れる。心から願っているのにそれは叶わず、扉は音を立てて閉じた。
これは・・・夢?
ルシフェルが目を開くと、そこには心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいるリギィとユディトがいた。 「ルシフェル・・・目、覚めたんか!? 」 「くぃっ!!(●^o^●)」 パァッと溌剌とした表情を浮かべ、飛びついてくるリギィ&ユディト。すぐさまバタバタと走り出し、 ルシフェルが起きたぞ〜〜〜!!≠ネどと叫び回った。 「やっとお目覚めになられましたね」 「ルシフェル、大丈夫なのだ? 」 フィアルと所長も駆け寄ってくる。所長は瞳を輝かせ、フィアルも何処と無くホッとしたような表情を 浮かべて。 「心配を掛けてすみません」 苦笑を漏らしつつ謝ってみるルシフェル。ギュッとしがみ付いてきたユディトを撫で、ズラリと並んだ 三人を見やった。 一人足りない。 「あの・・・ブラムさんは? 」 ふと嫌な予感を覚え、うわ言のように尋ねる。三人は顔を見合わせて首を傾げた。 「そういえば今日はまだ見てないのだ」 「部屋にいるんじゃねーの? まだ寝てるとか」 「くぅ〜〜(~_~)」 所長とリギィが口々に言い、ユディトも大きくそれに賛同する。 けれどルシフェルは・・・どうしても嫌な予感を拭うことが出来ない。今の今まで見ていた夢が単なる夢では 無いような気がしたのだ。 「探して・・・下さい」 震える声でそう呟く。 「ブラムさんの部屋、早く見てきて!! 」 不思議そうな顔をしている三人に縋りつくように、ルシフェルは必死な表情を浮かべた。 「どうしたんだよ、ルシフェル」 「きゅ(・・? 」 取り乱すルシフェルに益々困惑するリギィとユディト。唯一ルシフェルの真剣さを感じ取ったらしい フィアルはいち早くブラムの部屋へと走った。 ルシフェルもベッドから抜け出し、ふらつく足取りで必死にフィアルの後に続く。 そこにブラムの顔がありますようにとひたすらに懇願しながら。 ・・・・けれど、 「部屋は・・・空になっています」 既にブラムの部屋から出てきたところだったらしいフィアルが沈痛な面持ちで言った。 「荷物ごと、彼の姿もありません」 気の毒そうに、ゆっくりと首を振る。 その言葉を聞くなり、ルシフェルは力を失ったようにしゃがみ込んで膝を付いた。 夢なんかじゃなかった。ブラムのあの悲しそうな顔も、謝罪の言葉も・・・・全てが現実で・・・。 「・・・どう・・して・・・? 」 大粒の涙が後から後から流れてくる。ブラムが自分の傍から離れていってしまった・・・・この現実を 信じられなくて、信じたくなくて・・・ルシフェルはただずっと泣き続けていた。
「なるほど、面白いことになった」 木陰から見つめていた人影がクスクスと笑った。 「思いがけない展開だけど・・・まぁ、好都合だね」 サングラスの男も同じく微笑む。実に満足そうに。 「そろそろ、傍観者は終わっていいのかな? 」 華奢な身体をねじる様にして後ろにいる男に抱きつき、甘い声で問いかける。サングラスの男は少しばかり 迷った後で、唇の端を吊り上げつつ答えた。 「そうだな、そろそろ・・・・遊んでみるか」
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