■答え■

翌朝、大した睡眠時間も得ぬまま目を覚ましたルシフェルは体を起こすなり

すぐに隣のベッドの方に顔を向けた。

(・・・・いない・・・)

それでも望んでいる人物の姿は見つからず・・・ルシフェルは深々と溜息をつく。

「・・く・・きゅ〜?・・(-_-)zzz」

ルシフェルが急に起き上がったためびっくりしてしまったらしいユディトが

うつらうつらとした目でルシフェルを見上げてきたため、

ルシフェルは慌ててユディトに布団を掛けなおした。

「・・・・ごめんなさい。まだ寝ていていいんですよ」

「きゅ(-_-)zzz」

優しくそう言って撫でてやるとユディトは秒殺っ!!≠ニいう位の

スピードで眠りについたようで、規則的な寝息を立てている。

(・・・僕は・・・朝食のお手伝いでもしようかな・・・)

なるべく音と衝撃を立てないようにベッドを抜け出し、着替えながら

ルシフェルがそんな事を考えていると・・・

――――――――カチャッ。

突然部屋の扉が開き、長身の男が気だるそうに入ってきた。

「・・・あれ〜、ルシ君もう起きてたんだ」

はふっっと大きな口をあけて欠伸をしながらルシフェルに

声をかけるその人物とは勿論、昨夜からルシフェルがずっと待ち望んでいた相手・・・

ブラムである。

「・・・ブラム・・さん・・」

ルシフェルが何も言えずにブラムを見つめたまま呆けていると、

ブラムは心なしかフラついた足取りでルシフェルに歩み寄り髪を撫でた。

「はよ。・・・つか・・ただいま?」

悪戯っぽい笑みをルシフェルに向けるブラムに聊か安堵したルシフェルは

無意識のうちに顔を綻ばせる。・・しかし・・

「・・・ま、いいか。俺今からちょっと寝るから」

「・・・え・・・」

ブラムの手は予想以上に早く離れた。そしてすぐにルシフェルに背を向け、

自分のベッドに行ってしまう。ようやくの普段どおりといえる触れ合いだった所為もあり、

もう暫らくこの状態が続くだろうと思っていたルシフェルは少しばかり唖然としていた。

「俺、寝てなくってさぁ〜。スティアが朝まで飲もうとか言うから・・」

ベッドに入りつつ、立ち尽くしたままでいるルシフェルと目が合ったブラムは

再び大きな欠伸をしながら朝帰りの理由とも言えることを口にした。

それがどんなにルシフェルの胸に響く事だったかなど・・彼には到底知る由も

なかったのだろう。

「・・・スティアさんと・・ずっと一緒だったんですか・・」

ルシフェルは声が震えそうになるのを必死に抑えて尋ねた。

するとブラムは布団を自分に包ませつつ答える。

「・・・うん」

ブラムを見つめたままで、ルシフェルは尚も問いかけを続けた。

「・・・・二人で・・・お酒飲んでたんですか?」

「・・・・うん・・」

平然と返される言葉が異様なほど重くて・・・ルシフェルの瞳はだんだんと揺れていく。

「・・・楽しかった・・ですか?」

「・・・・ぅん・・」

ブラムはもはや生返事といった感じだったが、ルシフェルは尚も口を開いた。

早く眠りたいのだろうということは分かっているのに言葉を止める事が出来ないのだ。

ルシフェルの中には昨日スティアに言われた台詞とリギィ達の会話、

そればかりが渦巻くように行き来している。

フィアルの説明してくれた特別な存在≠ニいう言葉が最も響いて・・・

・・・胸を痛いくらいに締め付けて・・・。

「・・・ブラムさん・・は・・・・スティアさんのこと・・・」

「・・・・ぅん・・・」

ルシフェルが一番気にかかっている問いかけをしようとした時・・・それが言い終える前に、

ブラムは気の抜けた生返事をした。

「・・・?・・ブラムさん?」

少しばかり勢いを削がれたような思いがして、ルシフェルは首をかしげながら

ブラムに歩み寄る。すると・・・

「・・・・ぅ・・・ん・・・」

(・・・・寝ちゃってる・・)

ブラムは実に心地よさそうに寝入っていた。

(・・・ちゃんと・・・聞いて、答えて欲しかったのに・・・)

熟睡しているブラムの寝顔を見つめながら、ルシフェルは拗ねたような面持ちになる。

拗ねた≠ニいうよりは泣きそう≠ニいった方が正しいのかもしれない。

いつもよりも数段幼く見えるような無邪気なブラムの表情を見ていると、

どうしてかは分からないのに鼻の辺りがツンとして、目元が熱くなってくる気がする。

「・・・寝る暇も惜しんで・・・スティアさんといるからいけないんですよ・・・?」

気が付けば、ルシフェルは普段は絶対に口にしないような聊か自分本位な言葉すら

口にしていた。分からないのに苦しくて、ただ痛くて・・・・だんだんとルシフェルの

視界が揺らいでいく。

「・・・っ・・・」

ボロボロと零れる水滴を戸惑うように必死で拭いながら、ルシフェルは部屋を出て行った。

            

              

■成長する地図■

洗面所に着いたルシフェルはバシャバシャと無造作に顔を洗い、涙に火照った顔を

覚ましていた。

(・・・なんで・・あれくらいの事で泣いちゃったんだろ・・)

タオルで滴る水滴を拭いつつ、ルシフェルは鏡に映る自分を覗き込みながら眉を顰める。

別に涙腺が弱いという訳ではないのになぜ・・・目元を拭うような仕草をしながら

そんなことを考えていると・・・

「・・・あれ、ルシフェル君」

突然背後から声をかけられた。そのよく通る低い声の主はズカズカと

洗面所に入ってくると満面の笑みでルシフェルの髪を柔らかく撫でる。

「・・・ダイトさん。おはようございます」

ルシフェルが微笑みながらの丁寧な挨拶を返すと、ダイトも人懐こい笑みを返した。

「随分早いね。お客様なんだからもう少し寝ててもいいんだよ?」

「・・いえ、習慣になってるので」

自分を気遣うようなダイトの言葉に、ルシフェルは誤魔化すように

少しばかりの苦笑をする。そうこうしていると、ダイトが不意にルシフェルの顔を

覗き込みなにやら目元に触れてきた。突然のそれにルシフェルは目を丸くしたが、

ダイトは真面目でルシフェルを見つめる。

「・・・・・なんか目赤いけど・・・。もしかして泣いてた?」

その言葉に内心ドキリとさせられながらも、ルシフェルは得意の笑顔を

作ってあっけらかんと答えた。

「いえ、単なる寝不足なんです。ひどい顔でしょ」

自分の顔に触れながら冗談っぽく言ってみせるとダイトもそれを信じてくれたらしく、

すぐに軽い表情へと変わった。

「全然。潤んだ瞳が色っぽいって感じだけど?」

「・・・・はぁ・・・」

調子よくそんな事を言うダイトに苦笑するルシフェル・・。

気分が滅入っていた所為もあり、彼とのテンポ良い会話でルシフェルを

大分和まされていった。

「けど偶然だね〜、俺も寝不足」

「・・え・・」

顎に手を当ててもしかして運命?≠ネどと大げさに言ってのけたダイトの言葉に

ルシフェルは思いがけないほどに反応を示す。彼の寝不足の理由が気にかかったのだ。

(・・もしかして・・・ブラムさんやスティアさんと一緒に・・3人で飲んでたんじゃ・・?)

そんな期待を抱いたのだが・・・それも虚しく、ダイトの答えは

全く予想だにしないものだった。

「地図、描いてたんだ」

「地図・・?」

意外な言葉にルシフェルは首をかしげてみる。

地図を描く≠ニいう行為など日常からかけ離れているといっても過言ではないため、

疑問を抱いたのだが・・・

「そ。ブラムのヤツちゃっかり依頼して来やがるんだもんな」

ダイトが更に付け足してもやはり意味がよく分からず、ルシフェルはぽややんとしたまま。

「・・依頼・・ですか・・・」

「あ・・言ってなかったっけ?俺の本業、地図描く事なんだ」

そんなルシフェルの様子にハッとした様子のダイトがようやくキチンとした説明を

してくれた。

「そうなんですか」

ルシフェルは頷きながら、前にブラムが知り合いに地図職人がいるといっていたのを

思い出していた。そしてそれがダイトのことであったのだと気付く。

・・だとするとダイトが寝不足なのは自分達の所為なのではと思い、

ルシフェルは慌ててダイトを気遣った。

「すみません・・・僕達のために遅くまで・・・・」

しかしダイトは全く気に留めていないようで、そんなの慣れっこだから≠ニいう風に

ルシフェルの髪を再び撫でる。

「仕事だからね。俺が描くのは成長する地図だから・・・普通のよりちょっと体力が

いるんだわ」

「・・・成長する・・地図?」

ダイトの台詞にあった聞きなれない言葉にルシフェルは再び?≠掲げた。

元々好奇心は強い方であるため、分からない事があればすぐに

知りたくなってしまうのだ。ダイトにもそれが伝わったらしく、

なにやら熱心なルシフェルを微笑ましく見つめながら説明を始めた。

「地図にあらかじめ生命にも似た魔力を宿らせて描くんだ。

そうすればどんなに地形が変わっていってもその土地土地の魔力を察知することで

地図が自分で形を変える。それが俺の作ってる成長する地図なんだよ」

一通り話し終えたダイトに、ルシフェルは尊敬の眼差しを送る。なぜかって・・・

「物に魔力を宿らせる能力があるというのは聞いた事がありましたけど・・・

こんな身近にいるなんて・・・」

と言うわけである。攻撃や回復といった一般的な魔力の使用法しか

活用出来ないルシフェルにとって、ダイトのような特殊能力を持つ存在は

羨むべきものといえるのだ。

「そんな大したモンでもないよ?買い替えいらずの地図を作るのが俺のお仕事」

余裕の笑みを返すダイトだが、ルシフェルにはそれよりも気になることがあった。

「・・・あ、あの・・・それっておいくら位するんでしょうか?僕たち一介の旅人なので、

 あまり持ち合わせは・・・」

そう、その成長する地図≠フ値段である。しかしダイトは不安げなルシフェルの

髪に触れ、気楽に子供っぽくウインクなどして答えた。

「そんな事気にしなくていいよ。ブラムに散々友達のよしみだろ〜〜≠チて

言われてるし。美味い食事のお礼も兼ねてね」

「・・え・・・でも僕達が泊めていただいてるのに・・」

嬉しい申し出ではあるのだが・・・ルシフェルはオロオロしながらダイトを見つめ返す。

その上目遣いがどれ程罪作りかを知らない分ルシフェルは本当にタチが悪い・・・。

いや、ネコだけど・・・(爆)

「いいの。お兄さんに任せなさい」

「・・・・・」

悪戯っぽい表情でそんな風に言うダイトを、ルシフェルは呆けたようにぽ〜〜っと

見てしまった。

「・・・ん?」

突然のルシフェルの警戒心ゼロな表情に流石のダイトも違和感を感じたらしく不思議そうに

顔を覗き込んでくる。

「・・あ・・いえ。・・・・なんかブラムさんみたいだな・・って」

ルシフェルが聊か恥ずかしそうに思ったままの感想を口にすると、

ダイトは一瞬だけ唖然とした顔をした。そしてすぐに困ったような、

不機嫌そうな表情に変わり言葉を発する。

「・・・心外だなぁ・・・。アイツが俺をパクったんだよ?」

冗談めいたその言い方にルシフェルはクスクスと笑い、

再び髪を撫でようと降りてきたダイトの掌もすんなりと受け入れた。

初めの頃は戸惑っていたこの馴れ馴れしさに、ルシフェルは慣れ始めていたのだ。

懐き始めた≠ニいってもいいかもしれない。その証拠に・・・

「良かったら・・・仕事見に来る?」

「・・え・・・いいんですか?邪魔じゃないですか?」

ダイトのこんな申し出にもルシフェルは嬉しそうに返事をした。

これからそのように過ごすかを迷っていた事もあり、それは願ってもない事だったのだ。

「んな事ないない。おいで」

「・・・はい」

差し出されたダイトの手を取り、ルシフェルは手を繋ぐような格好でダイトの部屋へと

向かった。

                     

                    

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