■ 本題へ ■
「それで、あなた方の用件とは?所長は大変お忙しい方ですので出来れば
手短に願います」
紅茶が二杯目に差し掛かった頃、ぎゃあぎゃあと騒いでいるブラムと所長と
ルシフェル、そしてリギィとユディトとめぎゅに向かってピシャリと言う。
その状況を見ると率先して騒いでいる当人である所長が本当に忙しいのかどうかは
さて置いて、何か重要な用件があったからこそシュアラム草の捜索をかって出てまで所長に
会いに来たのだろうというフィアルの推測は当然の事だろう。
「それはオレが元にもど・・っむぐぐ〜」
真っ先にリギィが事情を馬鹿正直に説明しようとしたものの、ブラムがその口を慌ててふ
さぐ。
「お前は黙ってろ」
そしてルシフェルがその代わりにフィアルの質問に答えた。
「僕達は色々な科学研究所を回っているんです。・・・・・魔法化学というものについて調べたくて・・」
「・・・魔法化学って・・・また随分物騒なモノに興味があるのだな〜」
ルシフェルの膝から立ち上がりフィアルの隣へと移動した所長はルシフェルの言葉に驚い
たようにその瞳を見開く。
「・・なにか、知っている事があれば教えていただきたいんですが・・」
「確かに所長は薬学のほかにも様々な分野に成果を出しています。・・・・しかしながら・・・・」
フィアルは深刻な面持ちでテーブルの上のティーカップを見つめながら、聊か厳しい口調
で続けた。
「魔法化学は特殊なものです。その中にも更に多数のジャンルに分かれていますし
・・・見たところ素人のあなた方が興味を持つべきではない」
「それは分かっていますが・・・」
「そんな言い方すること無いのだ〜。私の知ってることでよければ何でも教えるのだ」
ルシフェルが反論をしようとすると、それよりも早く所長がのほほーんっとそんな事を言う。
「しょ、所長・・しかし・・」
「どうせ私だって魔法化学についてなんてろくな事は知らないのだ。今まで研究所を
多数回ってきたと言うなら、そのくらいの知識はすでにあると思われるしな」
抗議をしようとするフィアルだったが真面目な声へと変わった所長に、その口を噤んだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
「ルシフェル、先程フィアルが言ったように魔法化学と一口に言ってもジャンルが
広すぎる。具体的に知りたい事があるのならキチンと言ってほしいのだが・・」
「はぁ・・。じゃあ、あの・・・」
「キマイラをっ!元にもど・・・むぐぐっ・・」
またもや意気揚々と意見しようとしたリギィだったが、やはりブラムに口をふさがれる。
「だからお前は黙ってろって。・・・人工モンスターとその合成についてなんか知ってる事ねぇか?」
そしてリギィの代わりに当たり障りの無い言い方で核心に触れた。まだ完全に信頼できる
と確信できていない相手に真実を語るべきではない。特にそれが自分達にとってマイナス
となる事であればなおさら・・・これはブラムの持論だった。
「キマイラについて・・・・か。なおさら物騒なことだな・・。訳アリか?」
ブラムの言葉を聞いた所長は一行の訳≠ノ興味を引かれたとでも言うように満足そうな
笑みを浮かべた。
「えぇ・・・まぁ」
ルシフェルが苦笑しながら頷くのを見ると、所長はリギィに一瞬だけ視線をずらし確信的
な眼差しで言った。
「さしずめ、そちらの帽子の少年に関わること・・といった所かな」
「結構鋭い事言うじゃねーか。・・単なる勘か?」
「・・・まぁ確かに勘だが・・。単なる≠ナはないさ・・経験による勘とでも言おうか」
所長の台詞に少しの間緊迫した空気が流れる。彼が本当に信じられるべき人物なのか
どうか、ルシフェルとブラムは気を張り巡らせて探っていた。それはフィアルも同じらしく、
ルシフェル達に対する所長の態度をただただ不信そうにしている。
「なんか知ってんのか?」
「くきゅ(?_?)」
そんな雰囲気をぶち壊すかのように、リギィとユディトが続々と敵意の無い声を上げた。
「なに、一般常識程度だよ。キマイラの創造法とその仕組み、あとはキマイラの機能を
停止させる方法と・・・・推測に過ぎないが、キマイラの分離法など・・な」
「それの何処が一般常識だよ・・・」
リギィ、ユディトの質問に答えた所長にブラムがとりあえずのツッコミをいれる。
ブラムの言うとおり、一般≠ナあればキマイラという言葉をかろうじて知っている
程度でしかないにも拘らず、所長の詳しさは尋常ではないといえるだろう。
「ぶんりほう=E・ってなんだ?」
所長の台詞を聞いた割には妙に静かにしているとと思えば・・・リギィは眉を
顰めながらその隣にいるルシフェルに小声で尋ねた。
「・・つまりは、キマイラを元に戻す方法の事ですよ」
「え・・マジでっ!?教えろ、それっっ!!!!」
ルシフェルが教えるとリギィはそれまでがウソのように大声で騒ぎ始めた。
「なぁ、早くっ!!!教え・・ふぎゃっ!?」
「うるせーって」
身を乗り出してまで所長に掴みかからんほどの勢いで怒鳴りつけているリギィを
肘鉄で止めたのは勿論ブラム・・・。
「先程も言ったがそれはあくまでも私の推測・・・いわば仮説に過ぎないのだが・・・」
あまりに興奮しているリギィを呆れたように見据えながら所長は紅茶へと手を伸ばした。
「・・・結構です、それでも。教えていただけませんか?」
ルシフェルがおずおずとそう言うと、所長は再度溜息をこぼし、その口を開いた。
「キマイラの創造法にもよるが、多くの場合は・・・つまり科学技術を主に使用して
作られている場合は逆に魔法技術を使うのが有効だ。これは証明されている事だしな。
それをキマイラに応用するとすれば、合成された全ての媒体を用意しメスやレーザー・・・
まぁ切れれば何でもいいんだが・・それを使ってキマイラを切り分ける。
そしてその破片たちをそれぞれ適した媒体に接合させ、人為的に魔力を増幅させる。
そうすればその接合部分から、回復≠ノ似た現象が起こり一つの固体になる」
「・・随分と、過激な方法なんですね」
「あぁ。その分リスクも高い。かなり大量の魔力でなければ成功しないしな」
所長は再び紅茶を口に運び、一気にそれを飲み干すとさらに続けた。
「もう一つは魔法技術を使って合成されたものを分離する方法だが・・これに
関してはなんとも言えないというのが本当の所だな。・・というのも、魔法技術と
いう分野の幅が広すぎるからだ。呪術を使っているのならそれを行なった呪術者に
当ってみる他無いだろうし、魔物の憑依であればその道のプロに払って貰うしか方法は無い。
・・・・このほかにも最も厄介な創造法もあるしな・・。もしもそれならば、
もはや元に戻す方法などは無いだろうな」
「最も厄介な創造法・・・?」
所長の台詞にあった不可解な言葉にルシフェルは首をかしげた。
呪術、憑依などは耳にした事があるものの、他の方法など聞いたことも無いのだ。
「そんな事より、ルシフェル達は何処に泊まっているのだ?」
完全シリアスモードだった先程までが嘘の様に、すっかりいつもどおりの
話し方に戻った所長が突然そんな事を聞いてきた。
「この街の、白い屋根をした宿屋ですけど・・」
「そういえば・・・そこの店員がここの研究所には行かねー方がいいとかいってたな」
ルシフェルが答えると、ブラムも思い出したようにそれに続く。
すると所長、フィアル共々顔を見合わせて考え込むような表情へと変わってしまった。
「・・・白い屋根の宿屋といえば・・・」
「コーちゃんの所なのだ〜っ!!」
「・・・こ、コ−ちゃん?」
「・・今すぐチェックアウトする事をお勧めします」
所長の叫びに驚いているルシフェルとブラムにフィアルは珍しくも
焦っているような面持ちでそんなことを言ってきた。
「・・・いや・・でも、そんな事したら今夜俺たちが泊まるトコが・・」
「ここにお泊めするのだっ!!」
フィアルに反論しようとしたブラムの台詞を遮って、所長がキッパリと言ってのける。
「・・・なぁ、なんであの宿に泊まっちゃいけないんだ?」
その場のなにやらドタバタとした空気の中、マイペースなリギィがポツリと尋ねた。
それを聞いたフィアルと所長は一瞬だけバツの悪そうな表情に変わり、
少しばかり言いにくそうに言葉を発し始めた。
「所長は以前に彼から凄まじいほどの恨みをかっております故、この研究所に
立ち寄った事が知られればただでは済まないのではないかと」
「・・う、恨み・・・ですか」
「ん〜・・・恨んでるってよりは恐れてる・・とか脅えてるって感じだったけどな・・」
フィアルの言い方に聊か疑問を抱いたブラムとルシフェルだったが、しかし
それは所長の次の台詞によりそれははらされた。
「私はただ、コーちゃんがまだ十代の頃に何度も口説き続けただけなのだ」
「・・・幾度と無く惚れ薬や媚薬を強制的に飲ませることが口説くと言う事なのかどう
かは分かりませんがね」
フィアルの補足を聞くなり、ブラムは咄嗟にルシフェルをその腕で匿う。
宿屋の店員がルシフェルに行かないほうが良いと言っていた理由と自分の
予感が当っていたのだという事を確信したのだ。
「・・・ブラムさん?どうしたんです、急に・・」
ルシフェルはなぜブラムが突然自分を抱きしめてきたのか、不思議そうな表情をしている。
「・・・・・・・いや、別に」
「・・・・・・?」
ルシフェルの鈍さに聊か呆れつつも、ブラムは腕の力を緩めることなく
所長に警戒の眼差しを送った。