■優先すべきは・・・■

「なぁ、オレせっかく見つけたんだぞ。なのに、なんでアイツの

事見逃すんだよ(怒)」

しばらく喚き散らかした後でようやく落ち着いたリギィは不服度100%と

いった風にすねた面持ちでルシフェルとブラムを見上げていた。

「あのなぁ、誰も見逃すとは言ってねぇだろ」

ぶすったれたリギィの頭をぐしゃぐしゃと撫でながらブラムは呆れたように口を開く。

「やっぱり・・目の前の賞金首を放って置く訳にもいきませんからね」

ルシフェルもそれに同意し、自分の腕の中のユディトをリギィの方へ行く様に促した。

「・・・ユディト〜(悦)・・・じゃあ、シュアラム草探すのやめてアイツ捕まえにいくのか?」

ムスクはシュアラム草を持って逃げたのだから、一石二鳥ということになりはするの

だが・・・ルシフェルとブラムの出した結論は・・・

「二手に分かれましょ〜って事。俺とルシ君はアイツを追うから、リギィとユディトはシ

ュアラム草の捜索を続けて欲しい」

・・・というもの。

「たいした相手では無さそうですから、直ぐにこちらに合流できると思いますしね」

相変わらず以心伝心といった様子の二人は顔を見合わせながらリギィにその意志を伝える。

「・・・・・・・・・・・探すの、オレに任せてくれるのか?」

リギィは少しの間沈黙したかと思えば、突如キラキラした眼差しで尋ね返してきた。

「ま、そうゆう事だな」

「よ〜しっ!オレ、めちゃめちゃ頑張るからなーっ!!!!」

ブラムが頷いてやると、リギィはその瞳の輝きをよりいっそう強くし、思い切り自分の

意気込みを叫ぶと一目散にどこともなく駆け出してしまう。

「あ、ちょっと・・リギィ・・・・・・・・・・・・・・・・・行っちゃいましたね・・」

ルシフェルがシュアラム草の資料を手渡すために呼び止めようとするも、

リギィの姿はとっくに茂みの奥深く・・・。二人が自分にまぁ割かし重要ともいえる仕事を

任せてくれた事がよほど嬉しかったのだろう・・・。

「やる気なのはいいんだけど・・・なんか不安・・って感じ?」

「ですね」

そんな様子を見ながらブラムは煙草に火を点けつつ溜息交じりでルシフェルの髪を撫でる。

ルシフェルもブラムの意見に同意するように苦笑いを浮かべていた。

・・・その苦笑いが、ブラムにはルシフェルが如何にリギィを心配しているかと

言う事の表れのように感じられ・・・・・ブラムは大人気なくも苛立ちを感じてしまった。

「・・・ルシ君ってさぁ」

「なんです?」

「なんか、リギィに・・・やたら優しい・・・よね?」

「そうですか?」

煙草を吹かして平静を装いながらも、かなりの勇気を振り絞って

尋ねたブラムのそんな心境も知らずにルシフェルはあっけらかんと答えている。

「なんで?」

不機嫌そうな・・・いや、バツの悪そうな表情をしながら尋ねるブラムを見て、

流石のルシフェルも困ったような表情になった。

「・・・・自覚の無い事に理由を求められましても・・・。大体、僕はリギィを特別扱い

なんてしてませんけど・・・・?」

「ふ〜ん」

ルシフェルのそんな返事を聞いて、ブラムは余計に不機嫌そうな態度が

露わになっている。煙草を何度も唇へと運び、ルシフェルに視線を合わせようともせず・・・・。

「・・・・随分・・・突っ掛かってきますね・・・」

「別に、何でもないけどさ」

ルシフェルに聊か拗ねたような声でそのように呟かれても視線を

戻そうとはせずに、今度は煙草をすぐ傍の木に押し付けてその火を消した。

「・・・・・・どうして怒るんですか?」

明らかに不機嫌そうなブラムに戸惑うように、ルシフェルはブラムの袖をぎゅっと握った。

「別に、怒ってないけど?」

「怒ってるじゃないですか・・・なんで・・・・?」

それでもブラムはいつものように笑ってくれない。やっと目を合わせてくれたと

思えばすぐに逸らされてしまうし・・・。ルシフェルはブラムが急に不機嫌に

なってしまった理由がどうしても分からない。だからこそ必死にブラムの

腕にしがみ付くようにして何度も同じ問いかけをするのだ。

「・・・・ってないってば。早く行かないとさっきの奴遠くに逃げちまうかもよ?」

前に落ちてくる髪を掻きあげながらブラムが再度否定をする。今度は

わざわざ話の転換のキッカケまでつけて・・・。それが余計にブラムの機嫌の

悪さをアピールしているようで、ルシフェルはもはや泣きそうにすらなっていた。

「・・・・・・やっぱり怒ってる・・・」

そんなルシフェルの表情を見てしまえば、ブラムの方も拗ねるどころでは

なくなってしまうことは、もはや言うまでもないだろう・・・。

溜息をつきながら相変わらず自分の腕にしがみ付いたままでいるルシフェルの

髪を撫で始める。

「・・・・・怒ってないって。・・・・・・・・・・ただちょっと・・」

そして、"妬いただけ"などと傍らにいるルシフェルにすら聞こえないほどの

小さな声で言うのだった。

「・・・え・・なんですか?聞こえなかったんですけど・・・。ね、なんて言ったですか?」

ルシフェルは最後の台詞が聞こえなかったと聞き返してくるが、

「やだね」

ブラムは意地悪く舌を出して見せながらそんなことを言う。

「え・・・き、気になるじゃないですか。そういうの」

リギィなどとは違い、ブラムに優しくされる事しかなかったルシフェルは

突然の彼のそんな態度にオロオロとしながらも必死で食い下がる。

「いいから、ほら行こ」

それでもブラムはルシフェルの手を引きながら、いつもどおりの優しい笑みを向けてくる。

「・・・・・・・・・・はぐらかしてる・・・・・」

手をつないだ様な状態で茂みの中を歩きながら、ルシフェルは不服そうに

呟くのだった。自分の前方を歩くこの男が、その顔をどれ程までに

赤く染めているか気づきもせずに・・・。

■悪巧みの達人■

ブラムとルシフェルがそんな掛け合いをし、なおかつリギィがユディトと

共にシュアラム草捜索をしている・・・・まぁ所謂、"ちょうどその頃"という時に

スィルヴァローネ研究所では・・・。

「所長、なぜあのような旅人たちにシュアラム草の捜索を依頼なさったんですか?」

所長室、と銘打たれる小洒落た部屋の中で所長補佐フィアル・C・ディブロンは所長を問

い詰め・・・いや、何やら怪しげな薬品調合の傍らで雑談程度に尋ねていた。

「それが必要なものだったからに決まっているだろう?」

一方、所長という人物はあっけらかんとして渋めのお茶を啜りつつ答える。

「・・・・そうではなくて・・」

意図していた事とは全く持って違う答えを返され、不本意なのだろうがやはり無表情でフ

ィアルは説明を付け足そうとするも、

「陽を鳴らす民以外の民族を見たのは久しぶりだからな。非常に興味深く感じた。

しかも旅人だ、退屈をしていた所に丁度良い。だから会う事にした。悪いか?」

それよりも早く所長なる人物はきっちりとした答えを返してきた。

「・・・つまりは・・・・暇つぶしだ、と・・・?」

フィアルは所長が暇になれば何ともなしに楽しげ≠ネ事を見つけては自分の好きなよう

に状況をもっと楽しげ≠ノしてしまう病気にも似た趣味を持っている事を知っている。

そのために・・・いや、単にフィアルだからかもしれないが・・・顔色一つ変えずに確信

づいた事を問いかけた。

「面白そうな連中だ」

所長はやはり想像通りの事を答える。しかし今回はいつもとは違い、そこはかとなく所長

の表情が真剣である。

「・・それと・・・」

「・・・・まだ何か理由が?」

思いがけず累加の接続詞を呟いた所長に、フィアルはかすかにだが驚いたように顔を上げ

て再度尋ねた。珍しくマトモな理由があるのだろうか、と思ったのだが・・・所長はすぐ

様二ヘラっと顔を緩ませ・・・

「今日の占いカウントダウンHYPERで、なんと私の星座はラッキーカラーが銀だったのだ〜♪

彼らの中に銀髪の子が混ざってたのを見たのだ〜★☆」

そんな事を答えた。無論フィアルはあまりのくだらなさに表情を凍りつかせる・・・(もと

からか・・?)

「・・・・・・・・・・・・・」

「不服そうなのだ?」

無表情なフィアルから微かな感情を読み取った所長は素直に、そして拗ねたような表情で

尋ねる。

「・・・第一、彼らは所長の探してらっしゃるシュアラム草が特殊なものであると

知らないはずでは?」

その問いに答えるのとは少しばかり違うかもしれないが、フィアルは溜息混じりに質問を

返した。

「うむ。当然なのだ」

「でしたら、彼らに依頼した事はまったくの無意味に・・・」

なぜか得意満面な表情で答えられてしまったがため、フィアルは聊か

強めに反論をする。

しかし所長はやはり得意げな表情のままでフィアルの台詞を遮って答えた。

「ならないのだ。何でかというと今から行って教えればよいからなのだ」

「・・・・承知いたしました。それでは誰か使いのものを・・・」

研究所には所長、所長補佐のフィアル、その助手のめぎゅ、

そのほかにも所謂ヒラ研究員がいる。で、あるからその中の誰かに

依頼内容の補足をする係≠頼もうと提案したの

だが、所長は尚いっそう楽しそうに顔を緩ませてまたもやフィアルの台詞を遮った。

「その必要も無いのだ。めぎゅ〜♪」

「はいさ♪」

所長が扉に向かってパチンッと指を鳴らすと、何やらトランク(めぎゅサイズ)を

抱えためぎゅが入ってきた。そして・・・

「お前達が行けばいいのだ〜☆」

所長は必死に笑いを堪えながらルンルンな態度でそんな事を言い出した。

「・・・・は?」

勿論所長の暇つぶしの要素として自分に白羽の矢が立てられている事など思いもしなかっ

たフィアルは流石にほんの少しでも動揺したらしく、手に持っていた薬品の瓶を落として

しまった。

「ほれ、ディブロンさん行くじぇ〜♪」

慌てて拾おうとするも、トランク(めぎゅサイズ)を小脇に抱えためぎゅにグイグイと白衣を

引っ張られて出口へといざなわれる。

「んじゃ、いってくるじぇ★」

「うむっ」

困惑しすぎて(?)何も言えない様子のフィアルを後目に、所長とめぎゅはさも楽しそうに笑

顔を絶やすことなく手を振り合ったりしている。

「くれぐれも楽しんでくるのだぞ〜」

所長の注意事項はこれ一つだけらしい・・・。

「・・・・・・・・・・・」

結局フィアルはそのままめぎゅに引きずられ、思いがけず出発する事に

なったのだった。ルシフェル一行と合流すべく、ヒュヴァルスター湿原を目指して・・・。

■賞金首の住処■

「ブラムさん、どうですか?」

ちょうどその頃、賞金首の住処捜索中のブラムとルシフェル。

「・・・・やっぱダメかなぁ・・。そっちは?」

「・・・こっちも全然。リギィなら僕達よりは感性が強いはずですから、

連れて来れば良かったのかもしれませんね」

先程から怪しげな暗がりやら木の上やら草むらの中やら、うろうろと探しているのにもか

かわらず全く収穫は無い・・・つまり先程出会った賞金首と遭遇する事はないのだ・・・。

「二兎追うものは一兎も得ず・・・って感じ?・・・でもどっちも放っておけない事だからなぁ」

「ですよねぇ・・」

鼻の利くリギィにシュアラム草を捜索させて自分達は本業を、などと思っていたのに・・・

早々上手くはいかないのであった。

「どうする?いっそ適当にうろついて、またさっきみたいに偶然会うのを待ってから

捕まえる事にしようか?」

うなだれていたブラムがゆっくりと立ち上がりルシフェルにそんな提案をする。・・・おそ

らく捜索に飽きたのだろう・・・。

「先程の遭遇の所為で相手側も慎重になってるでしょうから、そう簡単に

出会えるとは思えませんよ?」

「・・・それもそうなんだよね・・」

ブラムの心境はルシフェルも分かるらしく・・・困ったような面持ちになりながら、ぽふっと

後方の木に寄りかかる。そんなルシフェルの様子を見たブラムも木陰に入り、数時間

前から我慢していた煙草にようやくとばかりに手を伸ばした。

「でもさ、さっきのヤツ・・随分な軽装だったと思わない?」

煙草を吸って少しは落ち着いたのか、溜息混じりに煙を吹かした後でブラムが思い出した

ように呟く。

「・・・そういえば確かに」

その台詞を聞いたルシフェルも口元に手を当てながら少しの間思い出すようにした後すぐ

に大きく頷いた。そして今までの途方にくれるような捜索に終止符を打てるような情報を

思いつく。

「・・という事は、少なくともこの近くに隠れ家のようなものを作って住み着いている

可能性が高いってことですか・・?」

この程度の観察力は賞金稼ぎにとって常識ともいえること・・・。二人は今までの自分達

が如何に余裕が無かったのかを思い知らされながら、再度やる気を取り戻そうとしていた。

「この湿原内で身を隠せそうな所ってことかな。・・とりあえず、もっと奥に入ってみよう」

「はい」

ブラムの提案にルシフェルも勿論同意し、二人は再び湿原の奥地へと歩き始めた。

歩き続ける事数分、二人はすぐに環境の異変に気がついた。それまで荒れ放題に

伸びきっていた草や、歩きづらいほどにぬかるんでいた地面がここに来て明らかに

人の手が加えられたように整備されていたのだ。更に・・・

「・・・ブラムさん、なんだか・・・い、異様な匂いがしません?」

非情にこじんまりとした『小屋』とまでも言いがたいような建物を発見した。

「何日も風呂入ってない運動部員(笑)みたいな・・・。怪しいけど・・・俺、めちゃめちゃ

行きたくないなぁ・・」

ブラムは銜えていた煙草をもみ消し、鼻と口を手で覆うようにして塞ぎながら顔を顰める。

確かに、ブラムでなくとも見るからにむさ苦しそうな汚い小屋の中に好んで入りたがる

輩はいないだろう。それはルシフェルも同じらしく・・・

「・・誰か出てくるのを待ちましょうか?」

少しばかり後ずさりながら苦笑いでそんな提案をしてきた。

「賛成。中に入るのは耐え切れそうに無いしね」

この空気を吸いながら待つのもまた苦しいものがある・・・そんな事を

ぼやきながらも、二人は息を殺しながら草陰に身を隠した。

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