やがて来る日の昔語りBそれぞれの搦め手
■民族の相違点■
「身分証明書の提出をお願いします」
ずらりと人々が並んでいるこの場所はリングファット領地第二地区に行くための
関所である。リングファット領地は三つの地区に分かれており(ちなみに今まで
ルシフェル達がいたのは第一地区)、それらを行き来するには関所で簡単では
あっても手続きをすることが必要なのだった。
「リギィ、身分証明書を貸してくれますか?」
「おう」
そして今回の目的地をこの第二地区に決めたルシフェル、ブラムそして
リギィとユディトもその手続きをしている真っ最中。
「オレ、リングファットの第二地区は行くの初めてなんだ♪どんなトコなのかなぁ」
手続きをしているルシフェルを待っているリギィは同じく隣で待っているブラムに
ワクワクしたような表情で話しかける。
「はしゃいでんじゃねぇっての。第三地区ならともかく、第二地区はあんまり面白ぇトコ
じゃねぇんだぜ?」
煙草を吹かしつつ、ブラムは呆れたように口を開いた。リギィと違い第二地区、
第三地区共に行った経験のあるブラムはあまり乗り気ではないらしい。
(・・・第一地区もそこまで都会ってわけじゃねぇけど第二よりはマシだもんなぁ・・・。
ってか、第二に研究所があるってトコがまず驚きだけどよ・・)
と、ブラムが思っているようにこの度第二地区を目的地に選んだ理由は
研究所があるから、というものなのだ。第一地区の研究所がある街をとりあえず
一通り回り終わり、どこも不可・・という結果になってしまったため範囲を広げて調査を
始めた所、なんと思わぬダークホースとして第二地区、中東部にあるカンルギャンダ
の町に、多少小規模ではあるものの、割と名の知れた研究所があったのだ。
どの道第三地区の大規模な研究所に行く通り道でもある訳で・・これは
行ってみる価値あり、ということになって・・現在に至る。
(・・・ま、第二も見過ごして言い訳じゃないけどな・・・。俺の目的はどんな小さな地域
であっても見過ごせば、果たせなくなっちまうかもしれねぇもんだし・・)
ブラムは荷物の中から少しはみ出していた地図を取り出し、それに
目をやりながらボンヤリとしていた。
「お待たせしました。はい、これ二人の分の通行許可書です」
「くきゅいっヽ(^o^)丿」
手続きを終えたルシフェルといつもの通りにその肩に乗っかっていたユディトが
帰ってきたため、ブラムは持っていた煙草を携帯灰皿に捨てて笑顔で迎える。
「お疲れ、すごい人だったね」
「えぇ、でもコレほどんど第三地区に行くための人だかりみたいですけどね」
(・・・やっぱいないだろうな・・第二地区目的でここを通る奴は・・)
ブラムは勿論ルシフェルもそう思っているらしく、二人顔を見合わせて
苦笑いをした。それでもリギィとユディトの二人は実に楽しそうにしているのだが・・。
「そういえば、さっきチラッと見たんですけどリギィって陽を鳴らす民なんですね」
関所の中で出発前の一休み、と称して三人と一匹でお茶を飲んでいると、
不意にルシフェルが口を開いた。
「・・・・・・・・・お、おう」
「へぇ、俺はてっきり海陽の民あたりかと思ってたぜ」
「・・・・そ、そうか?」
ブラムとルシフェルの台詞に、リギィはとりあえず返事をしてはいるが・・・
(・・・こいつ・・・)
「リギィ君、ちゃーんと意味分かって返事してるのかなぁ?」
「・・・・・・・・・お、お前らが訳わかんない言葉ばっか使うからだろぉ!!」
(やっぱりかよ)
ブラムが冗談交じりで核心に迫るとブラムの思ったとおり、リギィはムキになりながら
も確かにはっきりと言った訳わかんない≠ニ。
「民族の名前ですよ。陽を鳴らす民は中部の民族で海陽の民は南部地方の民族です」
「へぇ〜、お前ら物知りなのな〜」
ルシフェルが優しい笑みを浮かべながらそれぞれに対し一言の簡単な説明を
付け加えると、リギィは感心したように目を輝かせている。
「・・ってか、そんくらいは普通に知ってるもんだろ・・旅してる奴なら尚更、さ」
ブラムは心底呆れながらリギィの頭をぽふっと撫で(?)た。
「・・・・じゃあさ、ルシフェルとブラムは何の民なんだ?」
「きゅっ(>_<)」
リギィの何気ない質問に、思わずルシフェルとブラムは一瞬ではあるが表情を変える。
(・・・そっか・・自分の民族名も知らねぇのに俺らの事も知るわきゃないってか・・)
ブラムが返答を戸惑っていると・・
「僕は流浪の民という民族ですよ」
ルシフェルは少し気を回しながら・・と言う雰囲気で答えた。
「るろう・・・・?」
案の定リギィはぽややんとする。いや、色々な民族があると言う事にだんだんと
興味を引かれ始めたのか目が輝いてきた。
「僕のように銀色の髪と目を持っていて、僕みたいな例外を除いてほとんどは魔力を持っ
てないんです」
「へぇ〜・・・なぁなぁ、ブラムは?」
ルシフェルの返答を聞いて、リギィは尚の事楽しくなってきたようで
今度はその好奇の目をブラムに向け始める。
(・・・ルシ君も言ったんだし、俺も流れ的に言うべきか・・・ま、隠す事でもねぇしな・・)
ブラムはそんな風に軽く考えつつルシフェルに倣った説明をした。
「俺は血塗られた民。吸血鬼の末裔とかいう民族で、目が・・ほれ、金色」
「おぉ〜!・・・・いいなぁ、なんか二人とも目がまばゆくて・・・綺麗なのな〜」
ブラムが自分の左目を指差しながらリギィに店見せると、リギィはいよいよ
キラキラした羨望の眼差しでルシフェルとブラムを見つめる。
(・・・そんないいもんじゃないんだっての)
ブラムはバレない程度の溜息をつき、何気なく目が合ったルシフェルと
顔を見合わせ、再度どこか困ったような苦笑いをするのだった。
■スィルヴァローネ研究所■
「・・・・・・・・・・・・・なんつーか」
「・・えぇ、なんていうか・・」
カンルギャンダの町に着いたブラムとルシフェルはおそらく同じ、一つの感想を抱いた。
「緑いっぱいなのな!!」
「きゅい〜ヽ(^o^)丿」
その感想をよく言えばこの、リギィとユディトの言い分になるのだが・・・。
「く、空気は美味しくていいかもしれませんね」
ルシフェルは笑顔でそう言っているが、やはり抱いた感想はブラムと一致していたようだ。
「はっきり言うと・・緑しかない・・・ってね」
ブラムは一刻も早く第三地区に行きたいと願いつつがっくりと方を落とした。
「ブラムさん、とりあえず宿を取ってから研究所に向かいましょうか?」
「そだね〜、宿あんのかなぁ・・この町」
「なぁ、オレ走ってきたい!!」
真面目に話し合う大人二人(笑)を後目に、リギィは水を得た魚のように生き生きとしている。
「はいはい、とりあえず今日泊まる場所を確認してからにして下さいね」
「きゅいっ(^o^)丿」
ルシフェルがそういう姿も、さしずめ保母さんか母親のようだったり・・・。
「ルシ君、あっちの方にそれらしい建物あるみたいだから行ってみよう」
「あ、そうですね」
辺りを少し見回していたらしいブラムがルシフェルに声をかけると、
ルシフェルは笑顔で同意した。
「すみません、3部屋取りたいんですが・・・お部屋空いてます?」
宿屋の中に入り、ルシフェルは受付の人間に笑顔を向ける。
・・・宿屋の人間よりも営業スマイルの旨さは上のようだ・・。
「申し訳ありませんが、大部屋が一つしか空きがございません。皆さまご一緒でよろしい
でしょうか?」
受付の青年は決して愛想がいいとはいえない態度で淡々と説明をする。
(・・・・ここの宿・・従業員の教育がなってませんね・・)
ルシフェルはそう思いながらもやはり愛想の良い笑みを浮かべて答えるのだった。
「・・それなら仕方ないですね。料金もその方が安くすみますし、かまいませんよ。ね?」
「勿論」
「おう」
「くきゅい!(^^)!」
ルシフェルが尋ねるとブラム、リギィ、ユディトはそれぞれ順に良いお返事≠する。
「それではお部屋に案内させて頂きます」
よっぽど客がいないのか、受付はそう言って自らのっそりと立ち上がり、
ルシフェル達を部屋まで案内してくれた。
「こちらです」
「どうも」
案内して貰い、行き着いた部屋はとても大部屋と言える広さではなく
・・ルシフェル達は密かに驚かされながらも大人しく部屋の鍵を受け取った。
「それでは」
「あ、あの・・・」
店員はすぐさま立ち去ろうとしたが、ルシフェルが声をかけてそれを止めた。
「なにか?」
「僕たちこの町にある研究所に行きたいんですが、どう行けば・・」
──────────ガタンッ!!!
ルシフェルが目的地について口にした瞬間、店員は音を立てて体勢を崩す。
「け、研究所っ!?あんた達、スィルヴァローネ研究所に行きたいのか!!?」
それに加えて血相を変えた店員の口から発せられたこんな言葉・・・。
(・・・・な、なにこの反応?)
当然ルシフェル達は顔を見合わせて首を傾げた。
「そうだけど・・なんか問題でもあるのか?」
確信づいた問いかけをしたのはブラム。店員は突然落ち着かない態度を
とり始め、真っ青な顔で生半可な返答をし始める。
「この町で・・いや、旅人でもあんなトコに行きたがる奴なんていないよ。特に・・アン
タみたいなのはいかねぇほうがいいと思うぜ」
そう言って店員が指差したのはルシフェル・・・。勿論なぜそのような事を
いわれるのかが分からないため、ルシフェルはキョトンとして店員を見つめ返す。
「・・え・・・僕?」
どんな事でかは分からないが、ルシフェルに関係するらしい事がある・・と聞いて、
それを流す事が出来なくなったのはブラムだった。
「・・だから何があんだっつんだよ?」
不機嫌そうに煙草に火をつけ、今にも殴りかかりそうな勢いで店員に再度尋ねる。
「お、俺の口からはとてもじゃねぇが言えねぇ・・。行きたいってんなら止めねぇけど・・
気ぃつけろよ」
それでも店員は少しばかり怯えつつも具体的なことは何一つ語ろうとはしないまま
立ち去って行った。
「はぁ・・」
(・・・何があるって言うんだろう・・?)
ルシフェルは何気ない不安を感じながらも、その何かあるらしい研究所≠ノ
行くために荷物を部屋に置きに入る。