■穢れという重み■

「ブラムさん、ちょっとよろしいですか?」

「・・・ん?」

キヌザズト・リヌスを役場に突き出し賞金と引き換えた後、ブラムとルシフェル、

そしてリギィはユディトを迎えに行き、揃って宿屋に戻っていた。

そして、今はブラム、ルシフェルの順で入浴し、今はリギィの番・・・という訳で

お約束のブラム&ルシフェル和みの時間。

「腕、ちゃんと見せてください。さっきの血、ブラムさんのものじゃないって言ってたけ

 ど・・・・・怪我、してるんでしょ?」

「・・・・・・・・・・なんで分かるかなぁ?かっこ悪いじゃん、俺」

ソファに腰掛けたブラムの隣にちょこんと座り、ルシフェルがブラムの袖を

軽く引っ張ってそんな事を言うと、ブラムは意外そうな顔をした後で観念したとでも

言うようにルシフェルの言うとおりに袖を捲くって簡単に包帯を巻いていた腕を見せた。

「・・僕に言ってくれたらすぐに治せるんですから・・・怪我したら、ちゃんと言ってく

れなきゃダメですよ」

「・・・・うん・・ごめん」

ルシフェルは嗜めるようにそう言うと、ブラムの包帯をはずして回復魔法を使う。

「こんな傷・・合成獣に噛まれでもしたんですか?」

「・・・あぁ、まぁそんな感じ」

ルシフェルの質問とも言えないほどに軽い問いかけに、ブラムはお茶濁しながら答えた。

(・・・合成獣に・・か。もし・・・ルシ君に本当の事なんか言ったら・・・・

あぁ〜、情けねぇよな・・俺も・・)

ブラムの腕の傷は獣たちに付けられた傷でも、キヌザズト・リヌスに付けられた傷でもない。

正真正銘自分で自分の腕に牙を立てたのだ。吸血鬼の姿に覚醒した自分の理性を取り戻す為に

・・・自分で自分を傷つけるという手段しか使えなかった。

憤怒という感情が高まったために先祖の吸血鬼のDNAが活性化し、本来の姿に戻る。

・・・ブラムは吸血鬼の本能にまみれた自分の姿だけは、ルシフェルに見られたくないと

考えていた。それでも・・・

「・・・僕に治せるものなら言ってください。・・・それが・・・どんな疵だとしても・・・」

ブラムの左右色の違う双眸を曇りない瞳で真っ直ぐに見つめるルシフェルに、

全てを話して分かって欲しい・・・そんな想いも心のどこかに、無い訳ではないのだ。

「あの子・・迎えに来て貰えて良かったですよね」

少しの沈黙の後で、ルシフェルが不意に口を開く。あの子≠ニいうのは母親に捨てられ

ていたあの赤ん坊の事である。教祖が詐欺師・キヌザズトであったと言うことは狭い街の

中ですぐに広まった。そしてキヌザズトが役人に連れて行かれた後、宿に預けていた赤ん

坊を母親が迎えにきた、とソフィアに聞いてブラムとルシフェル、そしてリギィは少しば

かり複雑ではあったのだが・・・。

「あの人、ちゃんと母親の顔に戻ってたもんな。赤ん坊もすっげぇ笑ってたし・・・ホン

ト、良かったと思うよ」

つい先程母親が赤ん坊を連れてお礼をしたいと言ってやって来たのだ。教祖の清めたとい

う布など羽織らずに鮮やかな色合いの洋服を身につけて、やわらかい笑みを浮かべ、

その腕でしっかりと赤ん坊を抱いていて・・・それは十分に安心できるものだった。

「・・・・そういえば、ブラムさんって・・・意外と子供好きなんですね」

少し沈黙が続いた後でルシフェルが笑顔でそんな事を言う。

「・・・まぁ、そうだけど・・なんで?」

「赤ちゃんの事すっごく心配してあげてたから」

ルシフェルの答えに、ブラムは思わず黙り込んでしまった。

自分があの赤ん坊に肩入れしていた本当の理由は・・・そう考えると、

ルシフェルのまっすぐな瞳を見たままでいることすら出来ず・・・。

「・・・・・・・そ・・れは・・・・。心配なんて気の利いたもんじゃないよ。ただ・・

俺はただ、自分の古疵を重ねてただけだ・・・あんな幼い子に・・」

少しの歩み寄り・・・ブラムはルシフェルに理解してもらうための第一歩を踏み出した。

それでも、そんな台詞を言った後は後悔にも似た気持ちを抱いてしまう。

「・・・古傷・・?」

ルシフェルの瞳が不安そうに揺れながらブラムを捕らえ、そう呟くと・・

「・・・・たいしたことじゃないよ。・・・・ほら、コーヒーでも淹れてあげよっか?」

すぐに話を逸らすように仕向けた。すべてを打ち明けようとするにはやはり決心が

出来ないのだ。しかし、ブラムは次の瞬間視線をずらした先のルシフェルの表情に驚愕した。

「・・・・僕には・・言いたくないですか?」

席を立とうとしているのを引き止める様にブラムの右手を握り締めて、

泣き出してしまいそうな位不安げな表情をして・・・。

「・・・・・ってかさ・・・・情けないじゃん?俺。だから・・・・・」

「僕、さっき・・言いましたよ?どんな疵でも言って下さい・・って」

苦し紛れのブラムの台詞も、ルシフェルの真剣な眼差しによって掻き消される。

「・・・・・・・・」

ブラムが何も言えないでいると、不意にルシフェルは手の力を緩め、

ブラムの右手を離した。それに反応するようにブラムがルシフェルに視線を向けると、

「・・・ごめんなさい。無理に言わせたい訳じゃないんです。・・・コーヒーなら、僕が淹

れてきますね」

ルシフェルは痛々しいほどの笑顔を浮かべていて・・・。

「俺も・・・・母親に捨てられてたんだ。だたし、あの子と違って物心なんかとっくに付い

てる様な歳に・・・・だけどね」

今度はソファから立ち上がろうとするルシフェルの腕をブラムが掴み、自分の古傷につい

て語り始めた。

「お母さんに・・・?」

「そ。俺のこの右手にもあったんだ、逆十字。・・・血塗られた民だっていう、それだけの

理由で付けられた」

振り返ったルシフェルに自分の右手を見せながら、ブラムはさらに続ける。

「・・・どうして?ブラムさんのご両親も、血塗られた民じゃないんですか?」

ルシフェルは自分の中に浮かんだこの当然の疑問を口にした。両親と種族が

違うなどという事は普通に考えればありえないことだろう。

「・・・血塗られた民はもう何世紀も前に絶滅したって話しってるでしょ?」

「えぇ、まぁ」

ブラムの問いかけにルシフェルは戸惑いながらも頷いた。ルシフェルの手を

差し出した右手で握りながら、ブラムは続ける。

「俺の両親は、勿論祖父母やら親戚連中も、陽を鳴らす民だったんだ」

「・・・・・?」

プロローグで言ったように、陽を鳴らす民とは血塗られた民とはまったくつながりなど無い、

一般的民族の種類である。

「ちなみに俺だけ血が繋がってないなんて訳じゃない」

ブラムのこの台詞で、ルシフェルは一つの結論を思い立った。それは・・・

「・・・貴方は所謂・・先祖がえりという事ですか?」

つまり、数世紀にも渡るブラムの家系の中に血塗られた民と交わりを持った人物がおり、

そのDNAを長い時を経てブラムが受け継いだ・・・ブラム一人に数世紀前の血塗られた民の

遺伝子が現れたのだという事・・・。

「らしいね。歳を重ねるごとに左目が金色がかって来て・・なんたって吸血鬼だよ?気持

ち悪がられちゃってさぁ」

ブラムはいつも通りの軽口を叩く時の様な話し方でそんなことを言う。

どこか寂しげにも見えるような瞳をルシフェルに向けながら・・・。

「・・・血塗られた民は穢れ≠フ象徴だって言う考えを持っている人もいますからね・・」

ルシフェルがそういうとブラムは握っていたルシフェルの手を少しばかり自分に引き寄せ、

いつもは絶対に見せないような真剣な眼差しで問いかける。

「ルシ君は・・・・・?思ってる?」

ブラムの問いかけを信じられないというようにルシフェルは答える。

勿論その答えは否・・であり・・。

「まさか。思ってるわけ・・・わっ!!」

しかし、ルシフェルの誠意溢れる返答はブラムの行動によって掻き消される。

握っていた手を力任せに引っ張り、自分の膝にルシフェルを据わらせるような格好にしたのだ。

「可愛いなぁ〜、ルシ君は♪」

ぬいぐるみの様に扱われ、ルシフェルは戸惑いながらも必死に体勢を整えようとする。

「ブラムさんっ!もぉ、またくっつく〜」

「いいじゃん、くっつくの好きなんだもん。俺は〜♪」

いくらジタバタと抵抗をしても抱き込まれた体勢が悪かったために何の効果も無い・・。

「・・・っ!?いっつも何してんだよ、お前らは〜っっっ!!!」

「くっきゅーっ(V)o¥o(V)」

そして結局、風呂から出てきたブチ切れユディト&真っ赤な顔の

リギィに怒鳴りつけられるのだった。

■新しい出発■

翌朝、ルシフェルとブラム、そしてユディトはこの街を旅立つために

ソフィアや赤ん坊、赤ん坊の母親、そしてリギィに見送られようとしていた。

「ま、色々と世話になったな」

「全然えぇて。気にせんときや、これからも一情報屋として、

か・く・や・す・で・えぇお付き合いさせてもらいますさかい」

最後の最後にルシフェルにちょっかいを出そうとしたためブラムに殴られていたソフィア

は苦笑いでブラムに会釈をする。

「大切にしてあげてくださいね、この子は貴女のことが大好きなんですから」

「・・はい。本当にお世話になりました」

涙声で深々とお辞儀をしているのは赤ん坊の母親。ルシフェルは母親の腕に抱かれている

赤ん坊と握手をしながら名残惜しそうにしていた。・・・そして・・

「・・じゃあな。色々・・さんきゅ」

少しばかり控えめな笑みで握手を求めてきたのはリギィ。・・・しかし、

「何言ってるんですか、リギィとはまだまだお別れの握手はしませんよ。ね?ブラムさん」

「そ。お前はしばらく俺たちと旅を共にする事が決定した」

ブラム&ルシフェルは意地悪な笑みを浮かべながらリギィの差出した手を戻させる。

「・・・・へ?」

当然二人が何を言っているのか分からないリギィは呆気にとられつつ二人を見返した。

「お前旅してるって言ってただろ?だったら保護者くらい付いてた方がいいんじゃねぇか

なーと思ってさ。昨夜お前が寝た後でルシ君と俺で話してたんだ」

ブラムは嬉しそうにリギィの頭を帽子ごしに撫でる。

「これは僕たちの推測ですけど・・・リギィは元の体に戻るために旅をしてるんでしょう?」

「・・そ、そうだけど」

「だったら一人より僕たちと一緒にいた方が都合いいですよ」

ルシフェルもブラムに続きそんなことを言った。

「・・でも、オレ・・・」

「俺らじゃ不服かぁ?」

ブラムに冗談っぽく詰られ、リギィは慌てて答える。

「そんな訳無いっ!!・・けど・・オレがいて・・迷惑・・・じゃないのか?昨日だって・・」

不安げに、リギィは問いかけた。昨日だって・・最終的には成功したから良かったものの、

自分の所為で潜入が失敗してしまったというのに・・・。しかし、ブラムやルシフェルは・・

「バーカ、んな事気にしてんじゃねぇよ」

「ほら、もぉ早く出発しちゃいませんか?」

笑顔で手を差し伸べてきた。これからよろしく≠ニいう意味の握手を求めて・・。

「くぃ〜!ヽ(^o^)丿」

ユディトも勿論大歓迎。リギィは三人(二人と一匹)に飛び込むように抱きついた。

「サンキュな」

声にならない様な声でそう呟く。この瞬間から、リギィは四人(一匹と三人)目の

仲間となったのだ。

■当面の目的■

「ブラムさん、次の目的地はどうします?」

「そうだね・・とりあえず、当面は科学研究が盛んなとこから当たってみて・・」

宿屋内、ルシフェルとブラムは賞金首リストと地図を見ながら次の目的に

ついて話し合っている。その目的とは無論賞金稼ぎでもあるのだが、

今はリギィの元に戻る方法を探そうとしているのだった。

「なぁ、ソフィアからいい情報手に入れたからルシフェル出せって言ってんだけど」

「くっきゅ!(^^)!」

電話をもってテケテケと駆け寄ってきたのはリギィとそれにくっついているユディト。

「どうせガセだ。ルシ君を出せってトコが胡散臭い。切っとけ」

「ウッス」

テキパキと言ってのけるブラムとそれに気合たっぷりで素直に

返事をするリギィを見ながらルシフェルは思わず苦笑い・・・。

リギィがこの旅に合流してからというもの、どうもほのぼのとした雰囲気で

いっぱいになっていた。リギィにはまだ少し緊張が見られるものの、ルシフェルや

ブラムは楽しい毎日を過ごしている。

「ルシ君、とりあえずしばらくは研究所のあるような街を回ってみようか?」

「そうですね」

リギィと旅を共にすることを決めた理由は、確かにリギィ自身のためでもあったのだが

・・それよりも、ルシフェルとブラムは自分のことを考えていた・・というのもある。

第一話でも触れていたが、彼らにはそれぞれには目的があるのだ。

お互いの理解が無ければ果たせないような目的が・・。

しかし、彼らにはまだそれを打ち明けられるだけの・・所謂、勇気がない。

そのため、自分たちの目的と同じように世界中を旅しなければならない

であろうリギィの目的を利用した。・・・そういうと悪く聞こえるが今はまだ

弱い≠ワまの彼らにはこんな手立てしかとることが出来ないのだ。

・・・お互いの目的を言えるほど・・・今はまだお互いの距離が

なくなったわけではないのだから・・・。

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