■衝突■

「ブラムさん、もうこのカッコ止めていいですか?」

「・・・せっかく似合ってんのになぁ・・・。ま、俺もこの眼鏡姿にゃ

いい加減飽きたわ」

すっかり開き直った2人は互いに溜め息をつきながら変装をとく。

(・・・どう戦いますかね・・・。街の人達を巻き込むわけにはいかないし、派手な事は出

来ない・・・)

ルシフェルは捕えられたリギィに目をやりながらキヌザズトに言われたとおりに所持して

いた銃を目の前に捨てた。

「・・・ルシ君、俺が一人であいつ等ぶっ飛ばすから・・・その隙にリギィつれて出てて」

ふわりとルシフェルの髪に触れ、ブラムが微かな声でそんな事を言う。ルシフェルは抗議

を含んだ瞳でブラムを見返した。・・・自分の実力を信じてもらえていないような気がして

ブラムの提案に反対しようとしていたのだが・・・

「そのかわり、廊下に集ってきた奴らは任せる。俺も出来るだけすぐに手伝うけどね」

そんな付け足しをされてしまえばルシフェルは頷くしかない・・・。

(・・・・ブラムさんは大丈夫なのかな・・・)

ブラムの言葉にあったあいつ等≠ニは、キヌザズトの他にリギィを捕えている男たちが

三人、キヌザズトを取り囲むように立っている男たちが四人・・・全員スーツに身を包

んではいるが、その上からでも分かるほどに内側に武器を仕込んでいるのだ。それに加え

て、ルシフェルの銃とは違いブラムの武器である刀は目立つので潜入には向かないと言っ

て持ってこなかった・・・つまりブラムは素手でその男たちを倒さなければならないのだ。

(・・あ、でも・・こないだみたいに魔法剣を使うのかも)

こないだの魔法剣とはダルテ・アリュールと戦う時にブラムが用いた武器(?)のことである。

実はそれが魔法なのかなんなのかよく分かっていないのだが、ルシフェルはそう呼ぶ事に

していた。ブラムが魔法剣≠使うのならば、キヌザズト・リヌスとあと何人いた所で

楽に勝ててしまうだろう。そう考えたルシフェルは少し安堵したような表情になり、ブラ

ムの合図を待った。

「・・そちらのリーツェフォード司祭・・・のニセモノは武器は所持していらっしゃらな

いんですか?」

ルシフェルの銃を拾い上げ、それをブラムに突きつけながらキヌザズト・リヌスがそうい

うと、ブラムはルシフェルに目配せをしながらゆっくりと手を突きつけられている銃に差

し伸べる。・・・そして、次の瞬間・・・

「ニセモノ臭くて悪かった・・なっ!!」

「・・・っ!?」

ブラムがキヌザズト・リヌスの銃を持っている方の手を掴み、決して華奢とはいえない

キヌザズトの体を一瞬にして投げ飛ばしたのだ。驚いたのは護衛達で、

一気にブラムへと向ってくるが、それでもブラムは慣れた手つきで確実に彼らの

急所を狙っていく。それを見てリギィを捕えていた男たちの手が一瞬緩んだ。

それを合図に、ルシフェルは一目散に捕えられているリギィの元へと駆け寄った。

「リギィ、早くこっちへ」

「・・・え!?」

「・・・てめぇ、待・・・・ぐぁっ!?・・」

リギィの手を力いっぱいに引っ張り、ルシフェルは廊下へと駆け出す。

無論リギィを捕らえていた男たちはそれを追って来ようとするがブラムの蹴りが炸裂する方が早い。

「・・・妙だな・・護衛のクセに手ごたえがな・・っ!?」

「ブラムさんっ!!」

ルシフェルたちと共に廊下に出ようとしたブラムは突如背後から何人もの

大男たちに捕らえられた。それらは先程ブラムに攻撃された箇所がめり込むようにへこみ、

皮膚は剥げ落ち、肉は溶けて・・・まるでゾンビのような井手達をした男たち・・・。

「・・・こいつら・・・ゾンビだったのか・・?」

「ブラムさん、僕がなんとか・・」

すぐにブラムに駆け寄ろうとしたルシフェルだったが、それはブラムによって止められた。

「俺は大丈夫。それよか、リギィをちゃんと外に送り出すのが先だろ」

(・・・確かに・・リギィを此処に留めておくのも危険ではありますね・・)

そう考えたルシフェルは不安げな瞳でブラムを一瞥し、すぐにリギィの手を引いて部屋を出た。

「俺の今まで稼いだ金で作り上げた可愛い産物共だ。たかが賞金稼ぎの攻撃なんぞに負け

はせん・・」

雁字搦めにされているブラムの背後で、キヌザズト・リヌスは自らの顔を剥ぎ取りながらそう呟いた。

■覚醒■

「・・・って・・・離しやがれっつってんだろーが。男で俺に抱きついてイイのはルシ君

だけなんだよ」

尚もゾンビの腕によって拘束されているブラムはとても余裕には見えないのだが、

そんな軽口を叩き始めていた。

「俺の作ったゾンビがお気に召さないかね?」

「あぁ、とっても。・・・・てめぇ、その汚ねぇツラ・・・人工皮膚で覆っていただけで顔

そのものの造りは変えてなかったんだな・・・」

ブラムの顔を覗き込んできたキヌザズト・リヌスの顔を見て、ブラムは一瞬だけ驚愕の表

情を浮かべた後で確信的な笑みでそんな事を言い放つ。

「俺はこの顔が気に入ってるからな。賞金首の中じゃ一番のイロオトコだろう?」

「・・・賞金首はほとんどが人間の顔じゃねぇもんなぁ・・・っ!!・・」

ブラムの顎に触れながら自惚れた発言を聞いたブラムは憎まれ口を叩くがキヌザズトに腹

部を強く殴られ、思わず息を詰まらせた。

「もう少し、自分の状況を考えて物を言うんだな」

キヌザズト・リヌスは鋭い眼光をブラムに向けながら幾度となく拳を振り上げる。ゾンビ

達に手足を掴まれている所為で避ける事が出来ないブラムはその口元に血を滲ませていた。

「仲間を逃がしても無駄なことだ。この屋敷の中は俺の創ったゾンビ達が警備をしてるか

らな。勿論、人間と変わらぬ姿で・・だが。どうせすぐに・・」

「心配なんかしちゃいねーよ。ルシ君は云わば対魔のプロフェッショナルだからな・・・

職業上。・・それに何より、俺が惚れるほどの相手なんだ・・・信頼する価値は有る」

口の中を切ったらしいブラムは咳き込みながら血を吐き出し、キヌザズト・リヌスを

睨みあげながら言葉を発し始めた。

「お前に、一つだけ聞いておく。穢れの紋章=E・あれはどうやって付けるもんか知っ

てるか?」

「・・・・・穢れの紋章=H・・・知らないな」

ブラムの突然の問いかけにキヌザズト・リヌスは目を顰めながら答えた。

知らない=E・・その答えを聞いたブラムは先程とは明らかに違う殺気すら感じる

強い眼差しを真っ直ぐとキヌザズトに向け、再度口を開く。

「まずボールペンほどの大きさのこてを業火で熱し、それで右の掌に火傷の痕を逆十字に

つける。そして次にその痕にそって釣り針みてぇなモンで少しずつ少しずつ抉っていく

んだ。血が黒くなって・・その色がどんなに洗い流しても消えなくなるまでずっと・・・。

それがどれほどの痛みだか分かるか?そんな痛みを・・絶対に、赤ん坊に味合わせちゃ

いけねぇんだよ」

「・・・何の話をしているのかいまいち分からないな・・」

ブラムの穢れの紋章≠フ説明にキヌザズトは興味無さ気に返事をした。

しかし、その態度は彼がブラムの姿を直視した事で瞬時に変化する。

「一つイイ事教えてやるよ。穢れを払うにはな、陽の力を使うよりもそれ以上に強い穢れ

を使う事の方が有効なんだぜ」

そう言ったブラムは両目共にいつもよりも光の強い黄金色で、その頬には徐々に

真紅の紋章が浮かんできた。・・それは血塗られた民の紋章・・・

「作り物のゾンビを操れるってだけで、ホンモノの穢れに敵うと思うなよ」

ブラムが笑みを浮かべると形の良いその唇の隙間からは白く鋭い牙が見え、

その瞬間彼を拘束していたゾンビ達はヘドロのような液体へと姿を変えていた。

長く伸びた爪を舐めるブラムのその姿はまさに吸血鬼そのもので・・・。

■魔法科学・・・?■

(・・・さっきからキリがありませんね・・)

「永久に眠れ悪しき魂、吾聖の加護を持ちて汝らを浄化せん。神に叛きし愚かなる者達に

裁きという名の滅びを与える」

リギィと共に廊下を走りながら、ルシフェルは先程から幾度となく向ってくる

ゾンビ達を片付けていた。

「・・・な、なぁ・・さっきから人間っぽいヤツも攻撃してるけど大丈夫なのか?」

何の躊躇いもなく警備員に扮したゾンビ達を倒していくルシフェルに、

リギィは不安そうに尋ねてくる。激しい光と共に一気に皮膚が溶け、燃え尽きるように

消え去っていく彼らの姿を見て少し怖くなったのだろう。

「心配しなくていいですよ。この魔法は人間には意味が無い物ですから」

「そっか・・・マホウってすごいのな・・」

ルシフェルがあっさりと答えるとリギィは感心したように溜め息を漏らし、

そしてすぐさまキラキラした眼差しでそんな台詞を口にした。

(あぁ・・もぉ、また出て来た・・・)

玄関に向う曲がり角を曲がる度に出現するゾンビ達をいい加減鬱陶しく思いながら、

ルシフェルは再度詠唱する。

「・・・・あのさ、ルシフェル・・・さっきからオレ等同じトコばっかグルグル廻ってね?」

再び走り始めると、リギィが不意にそんな問いかけをしてきた。それを聞いたルシフェルは

聊か溜め息混じりのにっこり笑顔で返答をする。

「そうですよ。キヌザズト・リヌスはこの屋敷にも魔力を宿らせているようですね」

「・・ま、魔力?」

リギィはそれを聞いてもポケ〜ッとして・・・理解出来ていないらしい・・。

「・・・・つまりはこの屋敷自体が魔法科学によって作られたものだということです」

「・・・・ま・・?」

ルシフェルが補足をするが、それでもリギィはポヤヤン・・としたまま・・・。

「え・・っと、魔法科学というのは言葉の通り、あらゆる科学技術に魔力を加えて・・・

例えば動力にする場合もあるし、魔物の破片を手に入れて人工の魔物を作り上げる事も

出来る・・それはすごく危険な事ですから法律上はごくごく一部の人物しか研究を許可

されていないはずなんですけどね」

足を止めて、今度はのんびりと歩きながらルシフェルは説明を続けた。

リギィはそれを真剣な表情で聞き入っており、説明が終った頃には何かを

考え込んだ様に黙ってしまう。

「・・・僕も流石に体力の限界ですし、ブラムさんがキヌザズト・リヌスを服従させて此

処に来てくれるのを待ってましょうか?ゾンビ達を一掃しようと思って走ってたけど・・

もぉさすがに気配もしなくなりましたからね」

「お、おう」

ルシフェルの言葉にリギィは少し焦ったような態度を取りつつ同意した。

(・・・あれだけ走ったのに息が上がってないなんて・・・体力がある・・なんて言葉で片

付けられる物でしょうか・・・)

床に座り込んだルシフェルは隣に座っているリギィの様子を見ながら何気ない違和感を感

じていた。少なくとも20分は全力疾走をしていたというのに、いくらルシフェルの様に

戦っていたわけではないといっても息一つ乱していないリギィの姿は不自然だといえるだろう・・・。

「なぁ、ルシフェル・・」

ルシフェルが疑問を抱き始めていると、リギィが突然口を開いた。

「はい?」

「ま、魔法科学って・・・魔物とかの・・合成だって出来る・・・のか?」

「・・・可能な事ですよ。でも、その場合の方法は二つあります。魔法科学での合成と、呪

術での意図的な憑依・・・」

ルシフェルが答えるとリギィは不安げな表情を尚いっそう曇らせてルシフェルに

向き直るようにして、また別の問いかけをしようとした。
「・・・そ、それってさ・・元にもどす方法とかって・・・」

■リギィの正体■

─────────ガタンッ。

「・・・・っ!?」

リギィの台詞が最後まで言い切らぬ時、突然背後から物音がし、リギィとルシフェルは

緊張した面持ちで振り返る。

「・・・ブラムさん・・・」

「お待たせ」

しかし現れたのはせっかくの正装が台無しになってしまったブラムだった。

血まみれのブラムを見て、ルシフェルは慌てて駆け寄ろうとするが・・・

「近づくなっ!!」

「・・・・え・・」

ブラムに突然怒鳴りつけられ、思わず戸惑いの表情を浮かべた。

「・・・ほら、・・・血・・付くといけないからさ・・」

ブラムはすぐにいつものような笑顔も見せてくれたが、明らかに張り詰めた空気を

身に纏っていて・・・。

「ブラムさん、あの・・キヌザズトは・・?」

「あっち」

ブラムがそういって指さした方には生きているのがオカシイというくらいに

血まみれにされたキヌザズト・リヌスの姿・・・。

「・・・な、なぁ・・あそこまでやっても賞金もらえんのか?」

リギィのこの疑問も当然の事・・と思われのただが、

「ありゃあアイツの血じゃねぇよ。コレも俺の血じゃないし」

「・・へ?」

リギィは勿論ルシフェルもブラムの返答に不思議そうな表情を浮かべる。

「コイツ、色んな手で金集めて魔法科学の研究に勤しんでやがったんだ。人工ゾンビもそ

の産物。ま、それは大した事は無かったんだけどさ他にも魔獣の研究をしてたらしく

て・・・ホルマリン漬け(?)にされてた合成獣共がいきなり暴れ出したんで相手にしてた

わけよ」

「ごうせいじゅうっ!?」

ブラムの言葉に過敏に反応を示したのはルシフェルではなくリギィだった。

「それホントか?なぁ、合成獣を元に戻す方法教えろっ!!そういう事も研究したんだろ?

なぁ、言えよ!キマイラはどうやれば元通りになるんだっ!?」

一目散にキヌザズトの元へと駆け寄ったリギィは感情的にそんな事を怒鳴り続けている。

(・・・リギィ・・?)

あまりにも鬼気迫るリギィの姿に圧倒され、ルシフェルとブラムはただ茫然とそれを見守っていた。

「俺は研究を進めていただけだ。より強力なキマイラさえ完成すればそれでいい。元に戻

す方法など調べても意味などない」

「・・・・・・・・」

キヌザズト・リヌスの返事を聞いて、リギィは落胆したようにその場に座り込む。

(・・・まさか・・リギィ・・・)

リギィの態度と先程の違和感を考慮した上で一つの信じがたい結論に至った

ルシフェルは、それを確かめようとリギィに声を掛けようと試みた。しかし、それよりも早く

ブラムがリギィの背後にそっと近づき、何の前ぶれもなくリギィの帽子をつかみ取る。

「・・・り、リギィ」

「・・やっぱなぁ」

白い帽子を取ったことで露わになったのは、ぴょこんっと飛出したリギィの・・猫耳(?)!!

「な、な、な、な、なんって事すんだよっっ!!!」

その次の瞬間、リギィは真っ赤な顔をして片手で耳を隠しつつブラムに取られた帽子を

必死に取り返そうと、わたわたしまくっている。

「ブラムさん、どうしてお気づきになったんです?」

「薬品と獣の匂い・・かな。コイツいっつも帽子で頭隠してたし、何か有るなーって思っ

てさ。さらに、さっき合成獣共相手にしてて確信したんだ。この薬品の匂いは間違いないって」

「ぼうしっ!!かーえーせーよぉっ!!」

30cm近く身長の違うブラムに必死に食い下がるリギィを後目に、ルシフェルは

すっかりいつも通りの雰囲気に戻ったブラムを見つめてホッとしていた。

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