■大司教のロザリオ■

「ルシフェル君・・・怒ってる?」

「いえ・・・・・・べつに」

(・・・・・怒ってる・・)

リギィ、ユディト、そして赤ん坊が寝静まりブラムは予備の毛布をソファに

運びながら自分のベッドに腰掛けているルシフェルに話しかけた。

ルシフェルの暗い表情・・・そうさせてしまったのは自分・・・。

それに堪えられなくなってしまったのだ。とりあえず謝ってしまおうと、先手を

打ったつもりだったのだが・・・やはりルシフェルの返答は思わしくないもので・・・。

「ゴメン・・・・あの、でもさ・・・それが一番手っ取り早いわけだし・・」

(ヤバイ・・・マジで怒らせたのなんか初日以来・・・)

「ブラムさんは今、どうして謝ってくださってるんですか?」

ブラムはオロオロしながらも、とりあえず頭を下げてみたがルシフェルは

真剣な眼差しでそんな事を聞いてきた。

(・・なんでって、ルシ君が怒ってるからに決まってるんじゃ・・・・・?)

ブラムはそれを聞いて尚いっそうオロオロとしながら返答に困る。

するとルシフェルは思いがけないほどに痛々しい笑顔を浮かべて再度口を開いた。

「僕のロザリオに彫られた忠誠の言葉を見てしまったから?」

ルシフェルの問いかけにブラムはただ何も言えずにいる。

確かに、それこそがブラムの抱き、確かめたかった疑問の元だったのだ。

「このロザリオに刻んである忠誠の言葉を見たから・・・・・僕に不信感を抱いたんでしょう?」

懐からロザリオを取り出し、ルシフェルは寂しげな表情でブラムを見つめている。その姿

を見て、ブラムは今まで以上に変えがたいほどの罪悪感を抱くのだった。

「違う・・・・そうじゃない。そうじゃなくて・・」

(・・・こんな表情・・・・させるつもりじゃなかった・・・)

ブラムはルシフェルの側にゆっくりと歩み寄る。隣に腰掛けようとも思ったが、ルシフ

ェルの表情を間近で見てしまったためにそれは憚られた。

「ゴメン・・・ルシ君。俺・・無神経過ぎた・・・よね」

ブラムはルシフェルの傍らに立ち尽くして真剣な眼差しで謝罪をする。けれど・・・

(・・それでも・・・俺は知りたいんだ。ルシ君の事を・・ちゃんと・・・・・ルシ君が好きだから・・・)

その痛切な思いを抑える事をしなかった。

「でも、俺は君のパートナーなんだよ?ちゃんと君の事・・・色々話して欲しい・・」

ルシフェルの瞳を真っ直ぐに見つめ真剣な思いを伝えるが・・・そんなブラムの言葉を聞

いたルシフェルはただ不安そうな表情を浮かべて俯いてしまう。

「このロザリオは・・・正真正銘、他の誰でもない僕のものです。・・・それは信じて貰えますか?」

「・・・あぁ」

ロザリオは修道士にとっての存在証明のようなもの。その造りは実に精密であるために複

製は不可能であるとされており、他人のものを手にする事も同じく不可能なのだ。そのた

め、ルシフェルのロザリオが本人の物であるという事に間違いはない。

「・・・でも、どうして・・・・その忠誠の言葉は・・・まるで・・・」

ブラムは少しばかり控えめに尋ねる。この疑問こそがブラムにとって引っかかっていた事

なのだ。ロザリオに刻まれた言葉・・・それはブラムの物がそうであった様に通常は《こ

こに神への永遠の忠誠を誓う》というもの。・・・しかし、ルシフェルのロザリオに書かれ

ていたのは《神にこの身を捧げ、永遠の清廉を誓う》・・・・・これは所謂神の花嫁である

修道女に与えられるはずのものなのだ。

「流浪の民としての僕が生きていくために・・・・女性のフリをして・・・修道女として

生活する必要があったんです・・・」

ルシフェルはその瞳を曇らせながらも、おずおずとブラムに語り始めた。

(ルシ君が・・・修道女として?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・似合うかも・・)

思わずルシフェルの修道女姿を想像してしまったブラムは気を取り直してルシフェルの隣

に腰掛ける。

「だから・・・あの・・・」

「じゃあ明日はちゃんと女装していかないといけないよね。大司教サマとして行く訳だし」

尚いっそう不安気な表情になったルシフェルに、今はまだこれ以上言わせてはいけないよ

うな気がして・・・ブラムは冗談めいた物言いをした。そしてその瞬間・・・ルシフェル

の顔が青ざめたように凍りつく・・・・。

「・・・え」

「俺がすっげぇ可愛くしてあげるからね〜♪薄く化粧して、衣装も気合入れて・・清楚なイメージで・・・」

ブラムがキラキラした眼差しでルシフェルの髪に触れながら自分のイメージを口にしてい

くと、ルシフェルは泣きそうになりながらも必死に食い下がった。

「そ、そんな事しなくたって・・・別に・・」

「ダ〜メ。ちゃんとそれらしい格好しなきゃでしょーが」

(マジ楽しみだな、ルシ君の女装♪)

ブラムは浮かれながらルシフェルの髪をまとめてみたり等して構想を練るが・・・

「ちゃんとした格好って言うなら、ブラムさんのその長ったらしい髪も問題ですよね」

ルシフェルは半ばやけになっているような面持ちでうわ言のようにそう言った。

「僕がちゃんと真面目っぽく見えるように切って上げますから」

にっこり笑顔でブラムの髪に触れたルシフェルは何処と無く殺気すら放っている。

(・・・じょ、冗談・・・・)

こうして、その夜は静かに(?)慌ただしく更けていくのだった。

■頼ることが出来るから・・・■

「ブラム・・・どうしたんだ?その髪・・と格好」

「似合うだろ(泣)」

翌朝、起こされたリギィが目にしたのは昨晩までのうっとおしそうな髪型の

ブラムではなく、キチンと整髪を済ませて左目を隠すための眼鏡をかけ、司祭の

衣装に身を包んでいる真面目そうな彼の姿。

(はぇ〜・・・昨日までが嘘みてぇ・・・。コイツってこんなにルックス良かったのな)

リギィはブラムの姿をまじまじと見つめつつそんな事を考えていた。

「くきゅい〜\(^o^)/」

ユディトも同じような考えを抱いたのか、そんなブラムにじゃれ付いて嬉しそうにしている。

・・・この部屋に居るのは正装を済ませたブラムに寝起きのリギィとユディト、

そしてまだ寝ている赤ん坊・・・一人足りない。

「なぁ、そういえばルシフェルはドコ行ったんだ?散歩とかか?」

リギィもそれに気がついたらしく頭から布団を被ったままで手だけを出して

帽子を取りながらブラムに尋ねる。

「・・・・いい加減観念してくれねぇんだもんな。ルシく〜ん、そのカッコで

外歩く事になるんだから、もぉ開き直っちゃいなって」

ブラムは笑いを含んだ表情で脱衣所の扉に向って呼びかけた。リギィはブラムが何を言っ

ているのか分からずに、ただその扉を見つめていると・・・

「そんなこと言われたって・・・恥ずかしいものは恥ずかしいんですもん・・・」

そしてそこから出てきたのは淡い色の法衣に身を包んだ、絶世の美女・・・・顔負けのル

シフェルだった。

(・・・すっげ・・・キレー・・・・)

リギィは思わず口を開けたまま、ルシフェルの艶姿に見とれる。それですぐさま不機嫌な

様子のブラムに頬を抓られたのは言うまでもないが・・・。

「もぉ、ブラムさん。早く行きましょう」

顔を真っ赤にしたルシフェルがブラムの袖を引っ張ってそう言うと、ブラムは悪戯っぽい

笑みを浮かべつつそれに同意する。

「じゃ、行って来っからよ。お前は赤ん坊とユディトと一緒にちゃんと留守番してんだぞ」

(・・・・え・・・まぢで・・・?)

何気ないブラムの言葉にリギィは驚愕の表情を浮かべた。

「ちょ、ちょお待てよ!!何でオレが留守番なんだ!?」

ブラムを力任せにひっぱり、リギィはそんな風に怒鳴りつける。赤ん坊のためなのだから

自分だって何かしたいという気持ちがあるのに、ただ留守番をしているだけなんて絶対に

嫌だと思ったのだ。

「言ったろ?俺たちは仕事なんだよ。お前がくっ付いて来たら宗教研修なんかじゃないって

バレちまうだろーが。大丈夫だから、俺たちに任せてろって。」

必死な表情で食い下がるリギィに、ブラムは優しい笑みを浮かべてそう答える。それでも

リギィは納得できなかった。

(・・・オレだってコイツのために・・・)

リギィは赤ん坊を抱きかかえ、居た堪れない気持ちでいっぱいになって・・・。

「リギィ、安心していいんですよ?教祖を捕えてこの街の人々に謝罪させて・・・

全てが旨くいくように・・・・必ず僕たちが手を打ちますから」

「でも、オレだって・・絶対なんか出来る。なんか手伝う!」

ルシフェルの暖かい言葉に対しても、リギィは駄々をこねる子供のように反論し続ける。

「信じろよ、俺たちのこと。言った事は絶対実行するんだぜ?」

「ここで、赤ちゃんが不安にならないように一緒にいてあげる事だって大切だから

・・・そうしてあげていて下さい」

自信に満ちた表情でブラムとルシフェルはリギィにそう伝え、部屋を出て行った。リギィ

も二人の気持ちくらい分かる。自分を気遣ってくれている気持ちも、彼ら自身がそれ程に

真剣に仕事≠しているのだという事も・・・。それでも、リギィは何も出来ないでい

る自分を不甲斐無く思っていた。自分ひとりでは何も解決策を練ることも出来ず、二人の

手伝いをする事だって出来ない・・・リギィはそんな自分が歯痒くて堪らないのだ。

■静かなる潜入■

「これはこれは大司教様御自ら直々にいらして頂けるとは、まさに光栄で御座います」

街中で不慣れな法衣の裾を踏み危うく転びそうになる等いろいろな事はあったものの、ル

シフェルはブラムのエスコートの元、無事教祖の屋敷にたどり着くことが出来たのだった。

正装した二人を迎えてくれたのは思いがけないことに教祖本人であり、さらに彼は調子よ

愛想を振りまいてくる。

「ユアン様共々、この街の噂を聞いて以前から教祖様のお話をお聞きしたいと

考えていた次第で御座います」

応接室のような所に案内されてからは、ブラムも教祖に負けじと極上の笑みを浮かべて品

の良い話し方で対応をしている。

(・・・ブラムさんが敬語って・・なんか変な感じ・・)

ルシフェルはそんな様子を見ながら少しばかり苦笑いを浮かべるのだった。

「教祖様、お電話で御座います」

「分かったすぐ行く。・・・申し訳御座いません、少々お待ちいただけますか?」

2、30分話を聞いた後で秘書のような女性が教祖を呼びに来た。ルシフェルとブラムは

教祖の出て行く姿を笑顔で見送る。そして、すぐに賞金稼ぎの顔へと戻るのだった。

「はぁ〜あ、疲れるな。ったく、自慢話ばっか聞かせてんじゃねぇっての」

ブラムはソファに項垂れて早速愚痴を零し、ルシフェルも解放されたというように

女性らしい振る舞いをやめる。

「ブラムさん、どう思いました?あの教祖」

ルシフェルは隣にいるブラムに少しばかり近づき小声でそう尋ねた。

「どうって・・・そだね、厭味くさくて天狗になってるただの馬鹿って事くらいかな」

「・・・・・そういう事じゃなくて・・」

ブラムのあっけらかんとした返答にルシフェルは呆れた面持ちで言い返そうとするが・・・

「顔を変えてはいるけど、ありゃあキヌザズト・リヌス本人だね」

(・・・そうやって真面目に考えてるんなら最初から言って欲しいな・・・)

その台詞はブラムの真剣な声によって遮られ、ルシフェルはそんな事を思いながら

溜め息をつくのだった。

「でも、どうしましょうか・・・確か、顔を変えてしまっている場合が最も手続きが

厄介なんですよね?」

ルシフェルが手続きの面倒さに頭を悩ませ、溜め息をつきながらブラムに尋ねると彼の答

えは開き直りともいえるもので・・・・

「まぁ確かにね〜。それでも今更諦めましょうって訳にもいかないし・・・・もぉこの際

力押しで自供させるって事でいいんでない?」

(・・・・ブラムさん、個人的な感情だけで言ってませんか?)

ルシフェルはそれを聞いて、ブラムのあまりに分かりやすく教祖を毛嫌いする態度に思わ

ず苦笑い・・・。

「なに?ルシ君は反対?・・力押し」

ルシフェルの困ったような表情を見たブラムに確信的な笑みで尋ねられる。ルシフェルの

答えは勿論初めから決まっていた。

「心のそこから大賛成です」

ルシフェルの方も教祖・・・基、キヌザズト・リヌスの様な輩はあまり好きではないのだ。

「この館にいるのは、ざっと数えて20人足らず。一般市民が殆んどだとすると・・・

下手に騒ぐのはよくないよね・・・」

「えぇ。キヌザズト・リヌス本人だけをなんとか・・・」

───────────ガチャッ。

完全に聖職者の顔を剥ぎ取り、賞金稼ぎとしての作戦会議をしていた最中・・・突然乱暴

に応接室の扉が開けられる。そしてその瞬間ルシフェルとブラムの目に入ってきたのは・・・

「・・・・リギィ・・」

拳銃をこちら側に向けたキヌザズト・リヌスと黒いスーツに身を包んだガタイのいい男達

に捕まっているリギィの姿・・・。

「大司教様に司祭様、この様な輩が我が館に潜り込んでいたのですが・・・

よもやまさか貴女方のお知り合いでは・・・御座いませんよね?」

教祖は薄い唇の端を吊り上げ、飛出そうなほどに大きな眼をギョロギョロとさせながらル

シフェルに問いかける。それは実に確信的な笑みで・・・ルシフェルとブラムの神経を逆

なでするには十分すぎる物・・・。

「った〜く、留守番してろっつったろーが」

「だ、だって、オレだってなんか手伝いたかったんだ!!」

「リギィ・・・赤ちゃんとユディトはどうしたんです?」

「あの・・ソフィアって奴に頼んできた」

開き直った様子のルシフェルとブラムは一瞬にして態度をいつもの通りに戻し、リギィに

向って軽い嗜めの言葉を投げかけた。リギィは泣きそうな顔をしながらそれに必死に答え

ている。

「リギィの横にいる奴・・・さっき入り口んトコでアポイントメントは御取りでしょうか?

とか言ってた奴らだよね。・・・って事はこの館にいる20人は一般市民だなんて

考え甘かった・・・・かも?」

ソファから立ち上がったルシフェルはブラムの言葉に静かに同意した。ルシフェル達は教

祖を・・・いや、詐欺師キヌザズト・リヌスを少々見縊り過ぎていたのかも知れない。

(・・・たかが詐欺師風情といえど・・・流石はランクBと言った所ですか・・・)

自分の存在を嗅ぎ付けられた時のために普段から館内には使える人間≠オか置いておか

ない・・・これこそがキヌザズト・リヌスの完璧ともいえる抜け目の無さの表れであった。

【運営会社「パラダイムシフト」サービス】

無料ホームページ   携帯ホームページ   無料ホームページ作成   レンタルサーバー   ブログ   ホテル   アンドロイド   評判   Timesell   格安国際電話   宿泊料金比較