■赤ん坊と少年■

ルシフェルは突如部屋に飛び込んできたハタ迷惑な少年にとりあえずお茶などを出す。

「赤ちゃんの事・・・話して貰えませんか?」

ルシフェルがこの持ち賭けをしてから、ずっと俯いたままでいた少年はルシフェルが抱い

ていた赤ん坊を抱き渡すと、今までの表情が嘘のように顔を綻ばせた。

「貴方の名前は?」

その様子をみて、少しばかりホッとしたルシフェルはとりあえず当たり障りのない事から

聞いてみようと考え、少年に尋ねる。

「・・・・リギィ」

「じゃあ、こっちの赤ん坊は?」

リギィと言う少年が挑むような目をルシフェル達に向けて答えると今までベッドに座って

いたブラムがルシフェルの隣へと座り、そう尋ねた。

(・・・・?ブラムさん・・なんだか・・さっきまでの雰囲気とは違う・・?)

ブラムを取り巻いていた空気が、明らかに先程までのものとは違い・・・棘棘しい様な、

とても冷たい・・・。

「コイツ・・・まだ名前ないんだ。親につけてもらう前に・・・捨てられた」

少年は一瞬にして暗い表情に変わる。捨てられた=E・・そこの言葉が嫌なほどにその

場に居る全員の耳に響いた。

「・・・きゅぃ〜(-_-)zzz」

「あ・・すみません、ユディト。もう遅いですもんね、先にベッドに入っていていいですから」

ユディトがルシフェルの膝の上で眠そうな声を上げ始めたので一瞬にして張り詰めていた

空気が和らぐ。・・・それは緊張感が一気に削がれたと言うことでもあるのだが・・・。

「・・・・その生き物すっげぇ可愛いのな・・」

そしてリギィがその様子をみて、突如騒ぎ始めた。これまた、それまでとは打って変わっ

た無邪気な表情で目をキラキラキラキラ輝かせている。

「ユディトって言うんですよ」

ユディトがベッドに入っていくのを確認してからルシフェルはリギィにそう答えた。

「ほぇ〜・・いいなぁ」

リギィは尚もベッドに入ったユディトを目で追ったままでいる。ルシフェルもその様子を

見て優しい微笑みを浮かべているが・・・

「それはいいから、早くこの子についての話せって。寛ぎに来た訳じゃねぇんだろ?」

ブラムの厳しい言葉によってその和やかな空気は一括される。

(・・・・ブラムさん?)

普段の彼からは想像できないような表情をしているブラム・・・。リギィは勿論、ルシフ

ェルも戸惑いを隠せなかった。

「・・・オレは一人旅をしてて・・・そんで、たまたまこの街に立ち寄っただけだったんだ。

それで・・偶然コイツが捨てられるトコ見たから・・ほっとけなくて、オレが面倒見てたんだ」

リギィが俯きながらその重い口を開き始めると、ブラムの表情がますます冷たくなってい

く。ルシフェルはそんなブラムの様子を見ながら不安げに、ただ黙っているだけ・・・。

「・・捨てられる瞬間見てたってんなら、なんでそん時に止めようとしなかったんだ?」

「オレだって止めたに決まってる!!だけどっ!・・・だけど・・無理だった」

ブラムの質問に、リギィは必死に言い返した。その時の状況を思い出しているかのように、

今にも泣き出してしまいそうになりながら・・・。

(・・・どういう事・・?自分の子供を捨てる所を人に見られて・・それでも、思い留まら

ないだなんて・・・)

ルシフェルの抱いた疑問はおそらく誰もが行き着くものであろう。そんな所を人に見られ

て、それでも尚思い留まる事をしなかったと言う事はつまり・・・余程やむおえない事情

があるのか、それともこの赤ん坊の母親は罪悪感すら感じないような人間であるのか・・・。

「・・・・お前、この子の母親の居場所分かるのか?」

煙草に火をつけ不機嫌そうに眉を顰めたブラムが、尚も泣きそうな表情のリギィに尋ねる。

(・・・・居場所って・・・ブラムさん、まさか・・)

「一応は知ってるけど・・・・・?」

リギィは不思議そうにブラムを見上げる。ブラムの考えている事はどうやらルシフェルの

予想していたものと一致していたらしく・・・

「事情があんならそれを聞かなきゃ納得できねぇ。・・・ま、どんな事情があったとしても

・・・こんな事認めるわけにはいかねぇけどな」

煙草を吹かしながら、ブラムは自分の右手に視線を落とす。ブラムのそんな様子を見て、

リギィは驚愕に目を見開きルシフェルはブラムに感じる違和感を気にし続けていた。

「ブラムさん、行くのは・・止めはしませんけど・・・でも、明日にして下さい。

こんな夜中に押しかけたんじゃ迷惑が掛かりますし・・・長くなりそうな問題ですから・・ね?」

ルシフェルは今のブラムの袖を少しだけ引っ張り、そんな提案をする。

(よく分からないけど・・今の状態のままで行ったらブラムさん、冷静な話なんて出来ない

ような気がする・・)

ルシフェルはそう思ってこの提案をしたのだった。ブラムはと言えば、ルシフェルの言葉

を聞いてようやくいつもの様な笑顔を見せて同意してくれた。

■君に堕ちていく理由■

リギィが赤ん坊を連れ帰ってから、ブラムとルシフェルの部屋は途端に静かになっていた。

(・・・情けねけよな・・。あの程度の事で完全に冷静じゃなくなってた・・・。俺もまだ

大人に成り切ってねぇってことなのかね・・・)

ブラムは未だソファに腰掛けて煙草を吸いつつそんな事を考え続けている。・・・というの

も自分の袖を掴んだ時のルシフェルがとても心配そうな表情をしていたからで・・・。

「ブラムさん、ホットミルク淹れました。コーヒーじゃ眠れなくなっちゃいますもんね」

「お、アリガト」

カップの二つ乗ったお盆を抱えブラムの左隣へと座ったルシフェルを、ブラムは笑顔で迎

える。例えパートナーだとしても、自分の弱い一面を見せる事はしたくなかった。・・・け

れど一方では、ほんの些細な事で揺さぶられてしまう自分がいる・・・。

(・・・好きな子≠フ前ではカッコイイお兄さんで居たいもんなのにね・・・)

傍らでマグカップを両手で包み込むように持って冷まそうと息を吹きかけているルシフェ

ルを一瞥してブラムは自嘲気味な溜め息をついた。

「ブラムさん・・?僕の顔に何かついてます?」

ミルクを少しずつ飲んでいるルシフェルの姿に見入っていたブラムは不思議そうに首をか

しげたルシフェルに呼びかけられハッと我に返る。

「いんや。なんにもないよぉ〜♪」

「ほぇっ!?」

誤魔化し序でと言わんばかりにブラムはルシフェルの首元に顔を埋め、右手で思いっきり

抱きしめる。

(・・・・・ルシ君いい匂い♪)

「ブ、ブラムさんってホントにくっ付くの好きですね・・・」

ルシフェルは困惑したような面持ちでブラムにそんな事を言うが、ブラムの真意(というよ

り下心)にはやはり気付かない様子・・。

「そうそ。ルシ君は嫌い?」

(ルシ君って割かしニブイよな・・こないだから徐々に思ってたけど・・・)

ブラムがそんな事を考えながらルシフェルの返答を待っていると、ルシフェルは何やら真

剣に考え込んでしまい・・・。

「・・・こんな風にくっ付かれるのって初めてだからよく分かりません。人と接するの・・苦手だったし・・・」

ルシフェルが控えめな眼差しでそう答えると、ブラムは灰皿の中でまだ火の点いていた煙

草を揉み消して再度ルシフェルに向き合い、その髪を優しく撫でた。

「まぁ、俺みたいに人肌大好きでも時たま一人っきりになりたい時はある。

って事はさ、人と接するの苦手でも・・・たまにはめちゃめちゃ人肌が恋しくなる時も

あるって事じゃない?」

ブラムの言葉にルシフェルは不思議そうな顔をしている。

「ルシ君がそんな時は・・・俺が居るから」

ブラムはルシフェルを抱きしめて耳元で優しく囁いた。普段は絶対に使わないような真面

目な声で強い意志を伝える。・・・・かと思えば、

「・・・・・だ、か、らっ、ルシ君も俺がくっ付きたい時は我慢してね〜♪」

今度は冗談めいた笑顔を見せた後またもやギュムッと抱きつきその上ルシフェルに頬擦り

をした・・・。

「・・・もぉ、ブラムさん・・いい加減に・・・」

「・・・・・・・・」

数分沈黙が続いた後で、尚も離れようとしないブラムの手をルシフェルが引き剥がそうと

したが、ブラムは何も言わずルシフェルを抱きしめている腕によりいっそう力を込める。

「ブラムさん?」

ブラムのいつもとは違う様子を見て、ルシフェルは心配そうな表情をしてブラムの髪にそ

っと触れた。

「・・・ルシ君は・・俺のこの左眼・・・気持ち悪いと思う?」

顔をルシフェルの首筋に埋めたままブラムは尋ねる。ルシフェルとは違い、血塗られた民

は不吉を与える象徴・・・誰もが恐れる、吸血鬼の子孫なのだから・・・。けれどルシフ

ェルは思いがけない返答をした。それは、

「・・・・ブラムさんは・・・僕の眼や髪が気持ち悪いですか?」

という問いかけ。驚いたブラムは思わず顔を上げてルシフェルを真正面から見つめる。

(な、何言い出してるんだルシ君は!?)

「・・・まさか、そんな訳ないだろ?」

ブラムの必死の答えを聞くと、ルシフェルは嬉しそうに顔を綻ばせ・・・そしてブラムの

質問に答えた。

「だったら、僕だってそうです。貴方の左眼は僕の眼や髪と同じでしょ?」

そう言ってルシフェルが向けるのは・・・とても心地のいい、暖かい眼差し・・・。それ

は控えめな態度の中に見え隠れする彼なりの真っ直ぐな強い意志・・・。

(この笑顔が心地いいから・・この弱さと強さを合わせ持ったこの子に、どんどんハマって

行ってんだよな・・・・)

「ありがとう・・・・・・・・・やっぱ可愛いなぁルシ君は♪」

「・・ほにぇ!?」

困惑した表情のルシフェルを後目に、ブラムは今までよりも尚いっそう擦り寄るのだった。

■手放した真意■

翌朝、ルシフェルとブラムは宿を出ると昨夜押しかけてきた少年リギィとの待ち合わせ場

所に向っていた。

「ブラムさん、くれぐれも穏便に話し合ってくださいね」

「へ〜い」

ルシフェルが注意するも、ブラムは気の抜けた返事ばかりしている。

(・・・・大丈夫なのかなぁ・・?)

そんな様子を見ていまいち不安がるルシフェル・・。街の人間は相変わらず異様な雰囲気

をかもし出しているし、この街には情報屋等言うものが無いため賞金首であるキヌザズ

ト・リヌスの情報も全くつかめない・・・。賞金稼ぎとしての早くも簡単な行き詰まりで

ある。

「くヽ(^o^)丿!」

「お、いたいた」

待ち合わせ場所というのは昨日赤ん坊が置き去りにされていた所・・・ユディトの合図で

ブラムが赤ん坊を抱いたリギィを見つけ、手を振るとリギィの方もこちらに気付き駆け寄

ってくる。

「リギィ、赤ちゃんを抱いている時に走っちゃ危ないですよ?」

「あ、そっか・・・・ゴメン」

ルシフェルが注意すると、リギィはすぐに赤ん坊を抱き直して謝ってきた。

(・・・なんだか昨日の態度と比べると別人みたい)

「あ!ユディトだ、ユディトだ!!なぁ、オレ抱っこしてみたい」

ブラムの肩に乗っていたユディトを見つけるなりリギィは赤ん坊を

ルシフェルに預けて大はしゃぎで飛び掛る。

「うわっ!お前なぁ、俺ごと飛びついて来てんじゃねぇよ!!」

どうやらブラムがとばっちりを喰らったらしい。それでもルシフェルは後ろを

見ることなく赤ん坊にかまけていた。

「よかった・・お熱さがったんですね〜♪これからママに会いに行くから、

楽しみにしてるんですよぉ?」

赤ん坊もルシフェルに会えて嬉しそうに笑っている。

「ルシフェルって、優しいのな・・・」

ブラムとユディトとじゃれ付いていたリギィはそんなルシフェルの様子を

見てぼそりと呟いた。・・・それを聞き逃すブラムではない。

「・・・・なに俺のルシ君に見とれてんだよ!?」

「みふぉれてにゃんふぁなひらろ〜」

「きゃきゅ〜\(^o^)/」

ブラムに頬を抓られたリギィを見てユディトは大笑い・・・。

「何してるんですか?早く行きましょ」

「は〜い(一同)」

(・・全く、何してるんだか・・・)

道の真ん中で何やら騒いでいる二人と一匹をみて思わず溜め息をつくルシフェルだった。

──────そしてリギィの案内の元歩き続けること数分、目的地に到着──────

着いた場所は何の変哲も無い質素な長屋の端・・・。

─────────トントンッ。

「・・・・・・・・・・(しぃん)」

ルシフェルがその扉を叩くも、返事なし。

───────トントンッ。

「・・・・・・・・・(しぃん)」

二回目のチャレンジ・・・やはり返事なし。

──────ドンドンドンドンドンッ(怒)

「・・・・・(怒)」

今度はいささか切れ気味のブラムが蹴りで挑戦。

「ブラムさん、ご近所に迷惑ですよぅ・・・」

ルシフェルが不安げにブラムの足を止めた瞬間・・・、

──────ガチャッ。

ボロくさい扉が突然開き、中からはやはり黒い布で身を包んだおそらく女性であろうと

判断できるおそらく人間が出てきた。

(ここまで黒で体を覆う事ないのになぁ・・・ちょっと怖い・・)

ルシフェルも思わず引き気味・・・。

「・・・・・何の用でしょう?・・・・あら、貴方また来たの?」

その女性はリギィを一瞥すると不機嫌そうな声で冷たく言い放った。

「何度来ても同じ事、その子はもう私の子供じゃなくてよ。

そのことで来たのならお帰りになって頂戴」

「そ、そんなの・・・オレ、やっぱ納得できな・・・」

女性の言葉にリギィが泣きそうな顔で講義しようとすると、それを

打ち消すようにブラムの強く、穏やかな声が響く。

「何で自分が腹痛めて生んだガキをそんな簡単に捨てられんだよ・・・・。

割り切るには相当な事情があんじゃねぇの?せめてそれくらい言ってくれれば

俺らだって解決策提供するし・・・」

(ブラムさん・・・良かった。もっと感情的になってるかと思ってたけど・・・)

ブラムの冷静な物言いにとりあえずは安心するルシフェルだった。それでも、ブラムの背

中からは殺気にも似た感覚を感じていたりするのだが・・・。

「・・・・この子は禍になるの。・・・教祖様が・・ネヴィームにそう書いてあったってお教えくださったわ・・・」

ブラムの殺気・・・もとい、熱意に押されてか女性は俯いたままその重い口を開く。

(・・・ネヴィーム・・?・・・教祖・・・?)

ルシフェルは女性の台詞にあった言葉に耳を疑った。それはブラムも同じようで、唖然

とした表情をしてる。

「どうする事も出来ないでしょう?早くその子を私の視界から消して頂戴。

汚らわしい・・・冗談じゃないわ」

───────バタンッ。

女性に扉を思い切り閉められ、ルシフェル達はその場を立ち去るしかなく・・・。

(信じられない・・・・まさか・・・ネヴィームだなんて・・・)

ルシフェルは困惑を隠せず、腕の中の赤ん坊をぎゅっと抱き締めることしか出来なかった。

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