■おかしな街■
ファレスティアの街に着いたブラムとルシフェルは、すぐさまその異常さに気が付く。
それは何故かって・・・人々の多くは黒い布で体を覆い、さらに確実に気のせいではなく
旅人であるブラム達に目を合わせないようにしているのだ。
「・・なんなんでしょう・・この街・・」
「・・う〜ん・・・街中でお葬式・・とか?」
ルシフェルの呟いた言葉に、ブラムは冗談交じりで答える。ルシフェルには呆れられてし
まったがユディトは本気にしたらしく、オドオドしながら泣きそうな顔をしていた。
「きゅい〜(・◇・)?」
そんなユディトが、突然ルシフェルの懐から顔を覗かせて前方を指差す。
(・・・?なんかあんのか?)
不思議に思いながらブラムがその方向を見てみると、そこには・・・・・・・・道端に置
き去りの赤ん坊がそれはもうすごい勢いで泣きじゃくっている・・・。
(す、捨て子!?)
あまりの事に対処出来ず、ブラムが呆けている間にもルシフェルはユディトをブラムに預
け、すぐさまその子に駆け寄っていった。
「よしよし、いい子ですから泣かないで下さいね〜」
赤ん坊をひょいっと抱きかかえ、ルシフェルは今まで一度も見せていないほどの優しい表
情をしている。しばらくルシフェルがあやしていると赤ん坊は今までとは比べ物にならな
い程に楽しそうにはしゃいぎ始めた。
(・・・ほ〜ぉ、ルシ君やるねぇ・・・)
ブラムはそんな風に呑気に考えているが、その腕に抱かれているユディトはご主人様を取
られて少し悔しそうな様子を見せている。
「・・・すごい熱・・・。ブラムさん、この子一緒に宿屋に連れて行っちゃダメですか?」
「・・・へ?」
(・・・ルシ君、なにをイキナリ・・)
ブラムはルシフェルの意外すぎる言葉に唖然・・・。すると赤ん坊を抱いたままのルシフ
ェルが、おずおずと歩み寄ってきた。
「わ、我儘だって分かってるんですけど・・。でも、この子まだ赤ちゃんだし・・・熱だってあるし、
こんな所に放って置く事なんて出来ない・・・です。ダメでしょうか?」
(・・・・・う・・可愛い・・・)
ルシフェルの控えめな上目遣いにたじたじになりながら、ブラムの下した決断は勿論・・・
「・・・まぁ、ルシ君がそこまで言うなら、ね」
「ブラムさん♪」
(ルシ君がそういう可愛い表情してくれんなら、どんな事でも云う事聞いちゃうよ)
そんな調子のイイコトを考えながらブラムはルシフェルの肩に顔を埋めた。
そして宿屋。
「・・・・・・・・・・・・・・(しーん)」
「あの〜、ツインの部屋・・空いてる?」
「・・・・・・(しーん)」
(なんなんだこの店員、商売する気あんのかよ?)
宿屋に着き、フロントで部屋を用意してもらおうとしているブラムは店員の態度に呆れ返
っていた。先程から何度も呼びかけてるのだが、店員は何か考え事をしているかの様にブ
ラムの声などうわの空で・・・。
「・・・おい、いい加減にしろよ!?泊まれる部屋があんのか無いのか聞いてんだろーが!!」
たまらずブラムが怒鳴りつけると店員はやっと反応を示した。
「いやぁ、ホンマすんません、そないにいきり立たんといて下さい。六時はお祈りの
時間やさかい、今の十分間はお相手する訳にはいかんかったんですわ」
店員はやはり黒い布に体を覆っていたため、おそらくはこの人も自分たちと目を合わさな
いのだろう、そう思っていたブラム達は意外過ぎるほどによく喋る店員に驚く。
(・・・なんなんだこの喋り方・・・なまり?)
「あの・・お祈りの時間ってなんなんです?僕達にはただボンヤリしてらした様にしか・・」
ブラムは店員の変わった話し方に気を取られていたが、ルシフェルは店員の台詞にあった
気になる言葉を聞き逃しはしなかった様でそんな事を尋ねた。
「なんやお客さん知らへんのですか?お祈りっちゅーてもキリスト教みたいに
長々した言葉なんぞ言う必要あらしまへん。ただ一日十分だけ自分の未来を
思い浮かべて天に願いを捧げる、これが本当の祈りなんやて。教祖様の教えですねん」
(・・・教祖?)
店員の言葉に、ブラムは思わず表情を顰める。
「まさか、その黒い衣装もその教祖サマの教え・・ってヤツな訳?」
ブラムが尋ねると店員はその衣装を自慢するように指で摘まみ、顔を綻ばせて答えた。
「これでっか?そうでっせ、えぇですやろ。教祖様がお清めしてくださった品です。
これを着てたら必ず誰もが救われるんや」
(う、胡散臭い・・)
店員の話を聞いてブラム、ルシフェルをはじめユディトすらそう感じる。
「そ、そうなんですか・・。この子が起きちゃうといけないので早くお部屋の方を・・」
(ルシ君NICE)
これ以上話を聞くのが苦痛に感じられていたブラムはルシフェルの言葉に有り難さを感じ
つつ後に続いた。先程ようやく寝ついたばかりの赤ん坊が起きてまた泣き出してしまう事
も確かに恐ろしいのだが・・・。
「そうそう、俺たちも旅してきて疲れてるから・・早く休みたいんだよね」
「・・・そうでっか?残念やなぁ、もっと教祖様の素晴らしさをお伝えしよう
思たんですけど・・・。まぁ疲れてんのやったらしゃあないですわ。
また旅立つ前にでもゆっくりお聞かせしますさかい」
(いや、いい。いらない)
誰もがそう思いつつもニッコリと笑顔を浮かべる。
「ほな、ツインのお部屋にご案内いたしますよって、こちらへどうぞ」
「は〜い」
変な街だ。この街に着いてからすぐに抱いた感想を、一行は再び強く思うのだった。
■突然の来訪者■
「ルシくーん、また泣き出しちゃったよ!?」
「はい、今出ますから」
部屋に着いた二人と一匹はすっかりリラックスモード♪と思いきやルシフェル入浴中の今、
ブラムは子守に奮闘していた。ルシフェルが抱っこしているとまったく泣かないのに、ブ
ラムが抱きかかえてさらにルシフェルが赤ん坊の視界から消えてしまうとスイッチが入っ
たかのように泣き出すのだから困りものである。
「きゅ〜・・・<(`^´)>」
ユディトは大好きな2人の飼い主が赤ん坊に掛かりっきりの所為で不貞腐れているし・・・。
「ルシ君早く〜っ!!」
赤ん坊がいくらあやしても泣き止んでくれず、ブラムはこっちが泣きたい・・・等と思い
ながらルシフェルに助けを求める。
「はいはい」
ろくに髪も拭かないまま、ルシフェルはバタバタとバスルームから駆け寄って来た。
「よちよち、ごめんね。お腹すいちゃったのかな〜?」
「ミルクならさっき飲ませたばっかだよ?オムツも替えたし・・」
ブラムは疲れ果てた様子で、タオルを持ってルシフェルの濡れたままの髪を拭き始める。
「そうですか・・・。じゃあ、寂しかったのかな?このお兄さんは遊んでくれなかったの?」
「ひっで・・・お兄さんはちゃ〜んと遊んで上げてたよぉ」
ルシフェルに意地悪っぽく言われてしまい、ブラムはルシフェルの肩に首を
埋めて講義した。実際、ブラムは赤ん坊のご機嫌取りに必死になっていたというのに・・・。
「あはは、冗談ですよ。ねぇ〜?」
(・・・赤ん坊も泣き止んでるし・・・ってか笑ってるし・・・)
ルシフェルの問いかけに泣いていたはずの赤ん坊が嬉しそうに同意(?)をしている。
その様子を見ながら、なんとなく悔しくなってしまうブラムだった。
「・・・ルシ君ってさぁ、何でそんなに子供の扱いとか慣れてんの?」
赤ん坊の抱き方、ミルクの飲ませ方、ルシフェルは何から何まで手馴れている
としか思えない。普通若い男がこんなに子供の扱いに慣れているのはおかしいだろう。
「修道院にいた頃、よく施設とかに奉仕活動をしていましたからね」
(・・・・奉仕活動で施設に・・?)
「・・・ルシ君、でもさ・・・」
──────ドカッ。
「・・・・!?」
ブラムが何か言いかけた時、突然ドアが乱暴に開けられた。
「お前ら、赤ん坊連れてっただろ!?」
そして入ってくるなりブラムとルシフェルを怒鳴りつけたのは、見るからに
ルシフェルよりも年下の白い帽子をかぶった少年・・・。
「赤ん坊攫ってどうする気なんだよ!?どうせじんしんばいばい≠ニかする気なんだろ!?」
「おいおい、待てよ。お前だれ・・」
「・・るっさい!この人攫い野郎!!」
少年は頭ごなしに叫び続け、当等有無を言わさずブラムに殴りかかってくる始末・・。
(・・・このクソガキ・・)
「暴れんじゃねぇっての」
ブラムはそれを簡単に避け、少年の腕を掴むとそのまま後ろにまわして押さえつけた。
「いってぇ、離せよ!人攫い!!」
「うるせぇなぁ、人聞きのわりぃ呼び方してんじゃねぇよ」
尚もジタバタとする少年にブラムはぐったりしながらも力を込めて押さえ込み続ける。
(・・ったく、ただでさえ赤ん坊の相手で疲れてんのによ・・)
「もぉ、この子が怖がるから騒がないで下さい!!」
赤ん坊を抱きかかえているルシフェルに一括され、ブラムとその少年は途端に黙り込んだ。
「この子、貴方の弟さんなんですか?」
ルシフェルに優しく問いかけられ少年は黙って首を横に振る。
(・・・・・なんか、ルシ君って・・・赤ん坊といい、年下には甘くないか?)
自分への態度とは微妙に違うルシフェルの対応にいまいち不満なブラムだった。
「大体、俺らがこの子の事攫ったとか言ってるけどな・・・道端に置き去りにされてたか
ら捨て子じゃないかって心配になってここに連れて来たんじゃねぇか」
ブラムは不機嫌さを丸出しにしながらルシフェルの傍らに立ち、赤ちゃんを
撫でつつ少年に言う。それを聞いた少年は顔を顰めて食って掛かった。
「オレは、コイツのために薬を買いに行ってたんだ!なのに戻ってきたら居なくて、
すっげぇ焦ったんだ!!」
「・・・だから、道端に置き去りにしてんのがそもそもの間違・・」
「この子が怖がってるでしょ?二人とも、もっと優しい表情で話してください」
ブラムがすぐさま言い返そうとするとルシフェルにそれを止められる。
(・・・・だってホント事なのに・・・)
ルシフェルに言われてしまうと何も言い返せないブラムは少し不機嫌な態度を
見せつつも黙り込んで後方にあるベッドに腰掛けた。
「だってオレは・・・・」
「良かったら、詳しく話してくれませんか?兄弟でもない貴方がこの子の面倒を
見ている理由・・・。この子の・・掌の印と何か関係があるようですし・・・ね?」
何かを言いかけた少年に、ルシフェルは赤ん坊の小さな手を開かせながらそんな事を言う。
(・・・掌の印・・?)
不思議に思ったブラムが目を凝らして赤ん坊の掌を見てみるとルシフェルの言葉通り、そ
こには黒の逆十字が描かれていた。
(・・・・あれって・・・まさか・・)
ブラムは不意に自分の右の掌を見つめ、すぐにそれを隠すかのように強く握り締め・・・。
(・・・・あんな赤ん坊が・・?)
少年に話しかけるルシフェルの背中を見つめながら、ブラムはそんな事を考えていた。