■登録完了・・・なるか?■
「おや、早かったねぇ。まだ期限まで一日あるってのに」
ディガルザの街に着いて即刻賞金首受け渡しを済ませ、その証明となる明細書を持って例の喫茶店に行く。そこには
相変わらず無愛想に迎えてくれる店主の姿があった。
「なんか久々だね〜、おばさん」
「何言ってんだい二日しか経ってないよ。で、クリアできたんだろうね?」
ブラムがいつも通りの気の抜けた挨拶をすると、店主はこれまた相変わらずの様子でブラム目掛けて布巾を投げつける。
「あ、これが明細書です」
「ふむ。賞金首ダルテ・アリュール捕獲成功・・か。よっしゃ、じゃあ登録するけど・・・このパートナーで異存はないね?」
(・・おばさん、今更そういうこと聞く訳?)
店主の意外すぎる言葉に、ブラムは思わず溜め息をついた。意外すぎる言葉と言うよりは、まさしく確信犯であると言える
言葉なのかもしれない。一緒に条件をクリアしたというのに、ここで駄々をこねて今からまた新しいパートナーを探して条件も
一からやり直す・・・そんな真似を好き好んでやりたがる人間など居ないといえるだろう。
「僕は・・無いですけど・・・・」
「くきゅぃ〜ヽ(^o^)丿」
ルシフェルとユディトに先手を取られ、ブラムは答えるタイミングを失った。異存がないと答えたルシフェルは、
ほのかに頬を紅く染めて不安げにブラムの表情を伺っている。
(・・・そんな表情しなくたって、今更ごねたりしないっての)
「俺は・・・・っのわ!?」
「きゅぃ、きゅぃ、くぅ〜(>_<)」
中々返事をしないブラムに業を煮やした様子のユディトが突然ブラムの頭の上に乗ってきた。
(・・・・な!?)
そしてブラムの頭をペチペチと叩き始める。
「ユディトの・・おねだりの仕方なんです。それ・・」
ルシフェルは苦笑いしながらユディトの行動を説明した。
(お、おねだりって・・・・俺に異存なしって言って欲しいって事か?)
そんな自分の想像に呆れたような溜め息をつきながらも、ブラムは答えを決めたのだった。それは勿論、
「異存なんかあるわけないっしょ。さっさと登録してくれって」
それを聞いて、ルシフェルは心底嬉しそうに笑ってくれたし、ユディトも大はしゃぎで早速とばかりにブラムにしがみ付いて来た。
そして店主はと言えば、
「まぁ、パートナーも美人だしねぇ。・・・だからって、男なんだから変な気起こして襲ったりするんじゃないよ」
そんな事を言ってくる。
「冗談キツイなぁ、おばさん」
「この二日間、ただの一回もふらふら〜っとそういう気になった覚えはありませんって言い切れるのかい?」
ブラムが軽く笑い飛ばそうとすると、店主は尚も食い下がり、鋭い目でそんな事を尋ねて来た。
(ふらふら〜っとって・・・ただの一回もって言われると・・そういえば・・・)
「あ、あはは、あはははははははぁ〜・・・」
「はははは・・・・(図星だね、ありゃあ)」
ブラムは、いっそ笑って誤魔化せといわんばかりに引きつった笑い声を上げる。店主はそれに合わせながらも、ブラムの微妙な心境を確信していたり・・・。
「・・・・?・・・何のお話してるんですか?」
当のルシフェルは2人の会話の意図がまったく分からずただ首を傾げるだけであった。
■月のない夜に思う事■
またもや場所は変わってここはディガルザの街宿屋。車を返して旅立ちのための買出しをして・・・そんな事を
していたらすっかり時間が経ってしまっていたので今日はまだこの街に滞在し、旅立ちは明日の朝という事になったのだ。
取り返したブラムの刀・雨踰を再度鍛冶屋に預けてきたから、と言う事も理由の一つだったりもするが・・・。
(・・・変な気起こすな・・・ってねぇ・・。確かにルシフェル君は可愛いけど。男だし、顔が良いってだけで・・・そこまでは別に、ね)
風呂から上がったばかりのブラムはタオルを首に掛けたまま、ビール片手に昼間店主に言われた言葉を気にしていた。
(・・・・・・確かに可愛いけどね)
そんな事を考えながらビールを一気に飲みほす。そして、
「さ〜て、風呂上りに一服一服♪」
ブラムはそんな事を言いながら自分の荷物に手を伸ばした。
「ブラムさん、今日だけで何本目です?そんなんじゃ体壊しちゃいますよ・・」
ちょうど風呂から出てきたルシフェルに釘を刺され、ブラムはわざとらしく拗ねた様子で振り返る。
「だぁ〜って、俺はこれがないと・・・・」
振り返った後、視界に入ってきたものに目を奪われてブラムは思わず言葉を失った。
(・・・・・マジで、男にしとくの勿体ないな・・)
濡れた艶やかな髪、高揚してうっすらとピンク色に染まった肌、薄着の所為で首筋はおろか鎖骨が見え、さらにいつもの服では
分かりにくかった肩幅のなさと腰の細さが引き立っているルシフェルのなんとも艶やかな姿・・・。
(そうか・・俺、今まではルシフェル君が風呂入る前に寝てたからな・・)
風呂上りを見るのはこれが初めてなのだ。
「ブラムさん、もう少し煙草は控えめにしてくださいね」
「・・・は〜い」
ルシフェルに煙草を没収され、ブラムは恨めしそうな目でルシフェルを見つめるが・・・
「くぅ<(`^´)>」
ルシフェルの背後から飛び出したユディトにまで怒られてしまい、そこから先は何も言い返せなくなってしまう。
かと言ってこのまま良い子に引き下がるのもなんだかシャクなので・・・
「しゃあないなぁ・・・・こうなったら不貞寝してやる〜」
悔し紛れにビールの缶をゴミ箱に投げ込み、ルシフェルに向ってわざとらしくそんな事を言いながら、ブラムは自分のベッドに潜り込んだ。
「きゅいくぃ〜\(^o^)/」
さりげなくユディトがブラムのベッドに入ってきたが、とりあえず踏まないようにしようと言う事を気にしつつ、
ブラムはそのまま眠りにつく。
そして数時間後・時刻にして深夜2時。
(・・・んだよ、まだこんな時間か・・・・・・・ん?)
時計を見るために寝返りをうったブラムは自分の視界に入って来たものを寝ぼけた頭で必死に判断する。
(ルシフェル君・・・こんな夜中に空なんか眺めて何やってるんだ?)
ルシフェルは窓を開けて、ボンヤリと外を眺めていた。
(・・・・・・・?)
ブラムはルシフェルに声を掛けようと試みたが、彼の横顔を見てしまった事でその考えは改められる。
時折溜め息すらついているルシフェルは、まるで何かを思いつめているかの様な憂いを含んだ瞳で真っ暗な
空を見上げて・・・。それは正に、目が離せなくなってしまうほどに綺麗な横顔だった。
「今日、確か新月だったよね。月の出てない夜空なんか見上げて楽しい?」
「ブラムさん・・・」
ブラムはルシフェルに歩み寄り、その髪を撫でながら軽い調子で話しかける。
(・・・ったく、これじゃあ女の子口説いてるみてぇじゃん・・)
ルシフェルの横顔を見て、思わず抱きしめてやりたくなってしまった事にブラム自身が最も驚いていた。
それでも、放って置いたら消え去ってしまいそうなくらいに弱々しく、儚げな表情を浮かべている
ルシフェルを見なかった事にしてしまえる程ブラムはクールではないのだ。
「すみません。寒かったですか?」
ブラムが話しかけてからのルシフェルはいつもの様に落ち着いた表情に変わっている。さっきまでの彼とは
打って変わった屈託ない微笑をブラムに向けて・・・
「いや、そうじゃないけど・・・たださ、寂しそうにしてる美人を放っておけないし?」
「なんですか、それ・・」
ブラムの軽口にルシフェルは呆れたように笑っている。・・けれど、その姿が余計にブラムには・・・
「月・・・三つもあるのにさ、今日みたいに一個も出ない夜だってあるんだもんねぇ・・。真っ暗で・・・一人で見上げてんのなんか寂しくない?」
(可愛いだけなら・・・まだ良かったんだけどね・・)
ブラムは撫でていたルシフェルの頭をゆっくりと自分に引き寄せた。背後から抱きしめる格好になってルシフェルと同じ目線で空を見上げる。
「一緒に見上げてくれるつもりなんですか?」
ブラムのそんな態度を見て、ルシフェルはまた呆れたような笑みを浮かべた。
「美人に寂しい想いをさせないのがイイオトコの務めですから♪」
ルシフェルの髪を再度、子供をあやす様に撫でながらブラムは冗談交じりの態度をつづける。
(・・・こういう自分の脆さを必死に隠してるコが一番始末に終えないんだよな)
ルシフェルは自分を抱きしめているブラムの腕を剥そうとするわけでもなく、抱きついてくるわけでもなく、
されるがままに・・・ブラムがなぜこんな事をしているのか分からないと言う風に少しばかり困惑した表情をしている。
「呼ぶ時さ、ルシフェル君・・・・って長いからルシ君でいい?君も俺のこと略して呼んでるし、ね?」
「えぇ、別に構いませんよ」
(こういうコには、マジでハマっちまうんだよなぁ・・・俺)
ブラムはルシフェルに気付かれない程度の溜め息をついた。
■神の溝を知る■
きっと長くなるであろうと思われるこれから=E・・・・。銀の髪と瞳を持つ流浪の民の生き残り、ルシフェル・ユアン・
リヴァース。そして金の左目を持つ血塗られた民の生き残り、ブラムシヴァーズ・リーツェフォード。思いがけずパートナーと
なったこの2人・・・と一匹は、どんな旅を続けていくのか?・・・それは、神の御心のままに・・・。