■彼の正体■
「・・・ってぇ・・」
「ブラムさん・・血が・・」
左目の上を少し斬られたらしいブラムは左目を瞑り、倒れこんだ時に打った頭を擦りながら起き上がる。その傍らに
いたルシフェルはそれをオロオロした様子で見つめていた。
「兄ちゃんたち綺麗な顔してんなぁ・・・そんな顔持ってると、俺がさぞ醜く見えるだろぉ?」
頭と呼ばれる男はそう言いながらルシフェルとブラムの傍へゆっくりと歩いてくる。
(・・・この人・・すっごく分かりにくいけど・・もしかして別人なんかじゃなくて・・・ダルテ本人・・・?)
男が近づいてくるに連れ、ルシフェルは彼の顔がダルテと一致している事に気がついた。皮膚が変わってしまっている所為で
顔の形そのものが分からないがよく見れば、独特な目や薄い唇が賞金首リストのダルテの写真と一致している。
「あ、貴方・・ダルテですか?」
ルシフェルが意を決して男にそう尋ねると、男はただでさえ弛んだ皮膚で細く見える目を尚いっそう細めて答えた。
「なんだお前たち・・賞金稼ぎか?そうさ、俺がダルテ様よ。俺は賞金稼ぎが大嫌いでな、賞金稼ぎなんかクズ野郎ばっかりだ。
酷いもんだろ?前来た奴らは俺をこんな顔にしやがった」
「・・・賞金稼ぎにやられたんですか?」
ルシフェルはなるべく刺激しないように質問を続ける。わらわらと他の盗賊たちも集ってきてしまったため、下手に動くのは危険だと
判断したのだ。
「あぁ、そうさ。そいつらは10人近くのチームでな・・何日にも渡って来やがったと思うと、今度は俺たちのアジトに火をつけ
やがった。おかげで子分が三人死んだ」
(・・・ダルテ程度の賞金首にそこまでするなんて・・・死者が出れば賞金だって減額されるのに・・それじゃあまるで、
ただダルテを殺すためだけに乗り込んできたみたい・・)
ルシフェルにすぐに攻撃する意志がないことが分かったのか、それとも絶対的な人数の差に余裕を感じているのか、ダルテは尚も
話し続ける。
「そいつ等の使っていた武器がこういう大振りの剣だった。俺たちのナイフじゃ太刀打ち出来なくてなぁ・・やっとの事で追い返しは
したけどよ。あの時思い知ったのよ、やっぱり良い武器をつかわねぇとやられちまうって事をな」
(それで急に鍛冶屋を襲って武器を集めたりしてたって事ですか・・)
「ざけんなよ」
(・・・・へ?)
ルシフェルの傍らで俯いていたブラムが急に立ち上がったかと思うとダルテを一睨みしながらそう言い放った。
「てめぇが弱い事棚に上げてんじゃねぇっての。そんな理由で俺の愛刀盗むなんざ、馬鹿だろ?お前」
「ブラムさん、言い過ぎで・・・」
今までの余裕が嘘のようにブラムは冷ややかな眼差しを盗賊たちに向けている。ルシフェルはブラムのなんとも挑発的な発言を
止めようとするも、片眼鏡が壊れた事によって明らかになった彼の左目を見て思わず言葉を失った。
「兄ちゃん・・血塗られた民≠ゥ?」
ルシフェルよりも早くダルテがブラムの左目について触れた発言をする。
「・・・だったらどうした」
ブラムは開き直ったように答えた後でルシフェルの方を一瞥した。
(・・・左目だけ・・金色の瞳・・)
ルシフェルは唖然としながらもブラムの瞳を見つめている。血塗られた民が今目の前に生きている事が信じられなかったのだ。
ほんの数年前に滅びた流浪の民とは違い、血塗られた民は数世紀も前に滅びている筈なのだから・・・。
「こりゃあいい、とっくの昔に滅びたはずの血塗られた民と流浪の民のコンビとはなぁ。お前ら人体収集家に高く売れるぜ。
おい、おめぇらとっつかまえちまえ」
ダルテはそう言って盗賊たちを嗾け、持っていた縦長の袋から一振りの刀を取り出した。
「昨日手に入れた剣だ。変わってるだろう?すっかり気に入っちまっててな」
「って、俺の刀じゃねぇかっ!!」
「ブラムさんっ!ちゃんと周り見てください!!」
ルシフェルの注意も虚しくブラムは刀を取り戻すべく真っ直ぐにダルテに向っていく。
(・・・あぁ〜、もぉ・・)
「せめて自分に当たらないように避けてくださいよっ!永久と無限の象徴、全ての魔の源。吾汝の力を借りて、今ここに水の神の加護を見出さん」
とりあえず周りの盗賊だけでも蹴散らそうと、ルシフェルは詠唱を唱えた。ルシフェルが全て言い終わると、突如地鳴りがし始め、
印を結んだルシフェルの手に光が集まる。そして次の瞬間、蛇のような形を持ち七色の光を帯びた水が一気に発せられた。
それは盗賊たちの足元を何度も往復し刃物のような鋭さで文字通りの足止めをしていく。
「サポートさんきゅね♪」
ブラムはルシフェルに手を振っているかと思えば、急に真面目な顔をして左手の包帯をはずし、その手で印を結んだ。
(・・・?ブラムさんも魔法を・・?)
「アンタ光栄に思えよ、その名刀・雨踰(さめごえ)相手にするのに流石の俺も素手じゃ分が悪いからな。本気で・・戦ってやる。
悪夢の戒めより解き放たれし、虚ろの刃。今こそ吾との契りを交わし、新たなる枷となれ・・・・全ては等しき滅びの道を与えんがために」
聞いた事もない詠唱にルシフェルは好奇心に似た感覚すら覚える。そんな事を思いながらも、しっかり盗賊たちの足止めはしているのだが・・。
(・・・!?・・・あれは・・・・・剣・・?)
ブラムの左手がまるで剣に憑依されているような形へと変化したのだ。
「さっさと逝かせちまいたいトコだけど・・・今回はこっちの事情が事情だし?精々手加減してやるよ」
冷徹な笑顔を浮かべてそんな事を言うブラムを、ルシフェルはただ不安そうに見つめていた。
(・・・ブラムさん・・・勢い余って殺したりしないかなぁ・・・手加減するとか言ってるけど目が座ってるし・・・)
そういう意味での不安らしいが・・・。
■テスト終了■
「ブラムさん大丈夫ですか?」
「あぁ。アリガト」
ブラムの負った唯一の怪我、目元の小さな傷をルシフェルは魔法で治療をしていた。そして不意にルシフェルは何かを
思い出したように自分の荷物を開ける。
「ユディト、もう出て来ても良いですよ」
「くぅ(・・?きゅぃ〜\(^o^)/」
ルシフェルの呼びかけにユディトは嬉しそうに飛び出し、すぐさま森の中を飛び廻ろうとした・・・のだが・・、
「きゅ(◎◇◎)!?くぃーっ!!」
とある物を見るなり一目散にルシフェルに飛びついた。そのとある物≠ニは、
「・・・んだ?この妙な生き物は・・・」
ブラムにボロボロにされたあげくグルグル巻きに縛られたダルテ・アリュールである。他の盗賊たちも縛ってある・・
という事はルシフェルとブラムは名目上、ダルテ盗賊団を一網打尽にしたと言う事なのだ。
「僕のペットです。妙な生き物だなんて言ったら可哀相でしょう?」
「・・・・・・」
ルシフェルにムッとした表情でそんな風にお説教され、ダルテは眉を顰めて黙り込む。
「まぁまぁ、ルシフェル君。さっさとコイツ等連れてディガルザの街に戻ろうじゃないの」
刀が戻って来たためかテストがクリア出来たためか、それともただ単に大暴れした後だからなのか機嫌のいいブラムは新しい煙草に
火をつけながらルシフェルの肩をポンポンっと叩いた。
「そうですよね、早く戻って登録して貰わなきゃですから」
ブラムの言葉を聞いて、ルシフェルは嬉しそうに返事をする。
(とりあえずは順調な滑り出し・・・ですよね)
「きゅ〜(;_;)」
ダルテ達を一緒に車に乗せる事をささやかに反対している者がいたりもするが、ユディトの意志はここでも無言の却下を
されるのであった。
「あ、そうだ。ブラムさん、ちょっと待って下さい」
「なに?」
ルシフェルはダルテを車に乗せる(詰め込む)為に担ぎ上げようとしていたブラムを呼び止める。
(このまま持っていってもダルテだって信じてもらえなさそうですからね・・)
「ダルテの顔の傷跡を治しておきたいんです」
「・・・・そっか・・なるほどねぇ」
ブラムもルシフェルの意図を理解したらしく賛成をする。・・けれど、ダルテ本人だけは解釈を誤った様で・・・。
「お、お前・・・。すまねぇ、そんな気遣いさせちまって・・・」
そんな事を言いながら泣きじゃくり始めてしまったのだ。
(・・・・なんか勘違いしてますね〜)
ルシフェルは苦笑いをしながらもダルテに回復魔法をかけた。