■目的地へ■
「この車・・・ブラムさんの持ち物なんですか?」
一夜明けて、ルシフェルとブラムは車の中にいた。てっきり歩きか
ヒッチハイク、または公共の交通機関(笑)を使っていくものだと
思っていたルシフェルは朝になって突然宿の前に停められていた
高級車に思わず目を疑ったのだった。
「いや、これは借り物。今朝頼み込んで借りてきたんだ。
資格取ってから稼いだら、ちゃんと自分の車買うけどね」
ルシフェルの問いにブラムは煙草に火をつけながら答える。
(こんな高そうな車、よく貸してくれる人がいるなぁ・・・)
落ち着かない様子で車内を見回しながら、ルシフェルは初めての車に
大はしゃぎで後部座席で飛び跳ねていたユディトを膝の上に抱きかかえた。
「シルザシューダの森っていったら、確かサンディアキュールの街と
ルギャンシスタの街の間にあるはずですよね?」
助手席で地図を見ながら目的地の確認をしていたルシフェルは不思議そうな顔
をしてブラムに確認をする。テストに課せられたのは三日の期限で200万フ
ェン(1フェンは約0、9円)の賞金首・ダルテ・アリュールの捕獲。(200万足
らずの賞金首は殺してしまうと値が下がるので捕獲・・・)そしてそれが親玉
を務める盗賊団の住処がその森にあるのだが・・・ルシフェルの見ている地図
にはそんな名前の森は描かれてはいない。
「その地図は最近のだろ?シルザシューダの森は4年前に閉鎖されてるからね。
人が近寄らないように最近のには名前すら載せられてないんだよ」
ブラムにあっさりと答えられ、ルシフェルは素直に感心してしまう。
「お詳しいんですね」
「今までの俺の生活が生活だったからねぇ・・・情報は嫌でも耳に入って
来てたんだ。でも、ルシフェル君だって場所を知ってるだけすごいと思うよ?」
あんなマイナーな所なのに、ブラムはそんな事を言いながらルシフェルの髪を
子供を褒める時のように撫でた。
(・・・今度は子ども扱い・・)
少しムッとしながらもユディトを撫でながらルシフェルは何も言い返す事をし
ない。黙って外を眺めていると、遠くの方にこじんまりとした街が見えてきた。
「流石に車だと早いですね」
見えてきたのはサンディアキュールの街。ディガルザの街と違い、観光と言う
言葉とは程遠いこの街は偏屈な職人ばかりが集る街であり、そのため少しばか
り閉鎖的な特色があると知られている。
「俺さ、この街にちょっと用があるんだけど・・・いい?」
「構いませんよ。時間はたっぷり有りますし」
ブラムにそう言われ、ルシフェルは迷うことなく答えた。200万足らずの、
ランクD程度の賞金首など今までなんども相手にしてして来たルシフェルはこ
のテストに三日もかからない事を確信していたのだ。おそらく、ブラムの方も
相当腕が立つに違いない。テストを発表する際に店主が発した言葉がそれを物
語っていただろう。
『ランクD・・アンタはこの程度じゃ物足りないだろうけど、
あくまでもテストだからね。くれぐれもやり過ぎんじゃないよ』
「でも、この街に用って・・・?」
ルシフェルが尋ねるとブラムは後部座席においてある自分の荷物を指差して答
えた。
「鍛え直してもらおうと思ってね」
(・・・・?)
ブラムの言っている意味がいまいち分からないルシフェルは、とりあえずは街
に着けば分かるのだろうと再びボンヤリと窓の外を眺め始めるのだった。
■寄り道■
サンディアキュールの街に着いたルシフェルとブラム、それにユディトはとり
あえず車を停め、街の中を闇雲に歩いていた。・・・闇雲というわけではないの
かもしれないが、ただブラムの後を付いて歩いているルシフェルは目的地が分
からず珍しい街並みに、ただただ落ち着かない様子でいる。
「この辺でいいかな・・・」
不意にブラムがその足を止めた。そしてなにやら古い建物へと入っていってし
まう。
(・・・ここは・・・鍛冶屋さん・・?)
その古い建物には木で出来た大きな剣の形をした看板が掛けられていた。
「くーっヽ(^o^)丿」
ユディトに袖を引っ張られ、呆けていたルシフェルは慌ててブラムの後を追っ
てその建物の中に入った。
「この刀なんだけど、叩き直してもらえる?」
(・・・ブラムさんの武器・・・随分珍しい剣ですね・・・)
中に入ると、剣を差し出しながら刀鍛冶らしい50代後半くらいの男性に頼ん
でいるブラムの姿。ルシフェルはブラムの持っている剣が見た事もない形をし
ている事に驚いていた。華美な装飾は一切無く、片側にしかない刃にシンプル
なデザインの柄、鞘にも一切装飾は施されていない。
「日本刀≠ニは珍しいねぇ。アンタ、何処でコレ手に入れたんだ?」
刀鍛冶はブラムの刀を手に取って目を輝かせながらそれを見ている。
(ニホントウ=H)
ルシフェルが元々こういう物に詳しくない所為もあるが、聞いた事すらない
響きに思わず首をかしげていた。そんなルシフェルの様子を見て、
クスクスと笑いながらブラムは刀鍛冶の質問に答える。
「前に・・・とある闘技場で景品にされてたんだ」
「へぇ・・・コイツはいい刀だ・・・。喜んでやらせてくれよ。
明日には出来ると思うからよ」
刀身を鞘から抜き、刀鍛冶はそれを数回振ってみながら大はしゃぎといった様
子でブラムにそう言った。
「わかった。明日のアサイチに取りに来て構わないかな?」
「あぁ。なんとかやっとくよ」
そんなブラムの急な申し出にも刀鍛冶は嬉々として答える。
「よし、じゃ行こっか」
「あ、はい」
刀鍛冶と数回やりとりを済ませたブラムに促がされ、ルシフェルは刀鍛冶に軽
い会釈を済ませ、薄っぺらい木製の扉を開けて外に出た。
「くーぅ(^.^)/~~」
ユディトも刀鍛冶に向かって一生懸命愛想良く手を振ってバイバイのご挨拶。
「ブラムさんの剣、随分珍しいものなんですね」
店をでてすぐにルシフェルがそう言うとブラムはその整った顔を無邪気に綻ば
せて答える。
「剣・・って言うよりは刀だね。東方の品らしいんだけどさ、闘技場で
あれが賞品になった時は俺もう絶っっ対欲しくてさ。実力も及ばない
って分かってんのに必死で挑戦して、何回も瀕死状態になりながら手
に入れたんだ」
子供のように嬉しそうに話すブラムを見て、ルシフェルはクスクスと笑いなが
らもそこまで夢中になれることを持っている彼に、まるで羨やむかのような感
情を抱いていた。
「じゃあ、ブラムさんにとってあの刀が宝物なんですね」
「う〜ん・・・まぁ、そうかな。ここらで作られた剣なんかよりよっぽど使い
勝手がいいってのが一番の理由だったりもするけどね。
どんなに切っても刃こぼれしないから」
「へぇ・・・僕、剣とか使った事ないから分からないんですけど・・・。
普通はそんなにすぐに刃こぼれなんかしちゃうんですか?」
ルシフェルの質問にブラムの表情が一瞬だけ変わる。それまでの子供っぽい表
情からは想像も出来ないような、陰りのある表情に・・・。
「あぁ。人を切ったら・・・もう、すぐに使い物にならなくなるよ」
「くぃ〜、く〜ぅ。くっく〜、きゅ(>_<)」
突然、真剣な雰囲気をぶち壊すようにユディトが鳴き出す。
「あ、お腹が空いちゃったみたいですね・・・」
「そういやぁ、もう昼とっくに過ぎてるもんね。どっかで食事にしようか?」
「きゅ、く〜ぅ(^^♪」
いつもの表情に戻ったブラムの提案に、勿論ユディトは大喜びで賛成。
(・・賞金稼ぎなんて仕事を志願してるのに・・・ブラムさんは人を切ることに
罪悪感を抱いている・・・?・・・なんだか矛盾した人ですね・・・)
ルシフェルの抱いたさりげない疑問は口に出される事はなかった。ブラムの中に
潜む何らかの闇を感じながらも、そこまで深く知り合う必要はない・・・ルシフェルは
そう思っていたのだ。・・・この時はまだ・・・。
■ブラムの生活術・・・?■
食堂に入ってからブラムとルシフェルはボックス席に向かい合わせになって
座り、ユディトはテーブルの上に乗っていち早くメニューを見ている。
「ルシフェル君、何食べる?」
「んーと・・・僕はAランチを」
ブラムに差し出されたメニューを見ながらルシフェルがそう答えると、
ユディトが身を乗り出してメニューをペシペシと叩いた。
「きゅ〜(^O^)/」
「ユディトはホットケーキがいいそうです」
「オッケ。じゃあAランチ二つとホットケーキ一つ」
ブラムはウエイトレスを呼び止めて早速オーダーをするが・・・
「そのリボン・・・黄緑もよく似合ってるけど、俺的に・・・赤とかの方がいいと思うな・・・。
君のその白い肌にはもっと情熱的な色が映えるよ?」
(・・・へ?)
ブラムの態度に、ルシフェルは思わず目を見開く。ウエイトレスにオーダーし
終えた後、すぐにそのウエイトレスの髪に触れながらそんな台詞を口にし始め
たのだ。しかもその次に出た言葉は・・・
「ね、今日仕事何時終わり?良かったら俺と酒でも飲みにいかない?
月光に照らされて美しく輝く君の肌も見てみたいんだ・・・」
「え・・・」
(・・・ブ、ブラムさんって・・・)
ルシフェルが呆気に取られている間にもブラムはウエイトレスを堂々と口説き
続けた。ウエイトレスの方も、満更ではない・・・いや、大歓迎という風に頬
を紅く染めてブラムを上目遣いの媚びた目で見つめている。
「これでよしっと」
ウエイトレスが奥へ戻った途端にブラムは確信的な笑みを浮かべながら
煙草に火を点け、寛ぎはじめた。
「・・・・・・」
ルシフェルが怪訝な表情でブラムを見つめると、バツの悪そうな様子も
見せることなく声を潜めてルシフェルに耳打ちをする。
「あーやっとけば後でいい事あるんだよ?」
「・・・いい事、ですか?」
ルシフェルは訳が分からないというように不思議そうな表情をするが
ブラムは後で分かる、といって意地悪な笑みを浮かべて見せるだけだった。
そして会計時・・・。レジにいるのはさっきブラムが口説いていた
ウエイトレスである。
「全部で2480フェンになります」
「2480フェン・・・あ〜小銭ねぇな・・。ルシフェル君小銭貸してくれる?」
「え、あ・・・」
ルシフェルが財布を出そうとした時、ブラムはそれを確認することなく言葉を
続けた。
「え、ない?じゃあ札くずすか・・」
(・・・・?)
ブラムが面倒臭そうに出したのは1万札。チラッと見えた彼の財布の中には
もっと細かいお金があったのに・・・ルシフェルはブラムの行動を
不可解に思ったが、その訳はすぐに分かった。
「あ、あのぉ・・・2000フェンで結構ですぅ。えっと・・と、特別サービスにしますから・・・」
媚びを含んだ目線をブラムに向けたウエイトレスがそんな事を言い
出したのだ。ブラムはといえばその台詞が来る事が分かっていたとでも
言う様に慣れた対応で相手を軽くあしらう・・・勿論、軽くあしらって
いる事が相手には伝わらないような周到な演技で。
「マジ?良かった・・・小銭じゃらじゃら持って歩くの好きじゃないからさ。有難う・・・
君、すっげぇ優しいんだね。俺、めちゃめちゃ好みかも。じゃ、また・・・ね」
(・・・キザ・・・これって詐欺なんじゃ・・・)
ウエイトレスの手の甲に軽くキスまでして丁寧な会釈をしたくせに
連絡先も聞かなければ教えもしない。つまりはまた≠ネど
あるはすがないのだ。
ブラムの見事なまでの手口に、ただ呆気に取られているルシフェルだった。
「ブラムさんって・・いつもこういう事してらっしゃるんですか?」
「うん。そうだよ」
臆面無く答えられてしまうともはやこの手口が正当な気すらして
くる・・・。
「楽に生きるためには何でも利用しないとね」
「・・・そういうもの・・・なんでしょうか・・・」
いまいち納得できないものの、得をするのならいい事なのだろうか・・・
などと思い始めるルシフェルだった。
(・・・真似しようとは思いませんけどね・・・)