The sun shines upon all alike or shines everywhere .
(太陽はすべてものを分け隔てなく照らす)
人は誰しも必ずや心に暗がりを持っている。
例えば、憎悪、悲哀、憤怒・・・・。
暗がりに覆いつくされてしまった者は二度と救われない。
本当にそうか・・・・?
闇に踏み込んだ者はもう絶対に、
真っ黒な空間に留まっている事しか出来ないのか?
そうじゃない・・・・きっと。
ただ、その者が救われるためには必要不可欠なものがある・・・それだけだ。
それさえ見つける事が出来たら・・・
もう一度見る事が出来る。
美しい空を。
いつか、胸を張って誇れるくらいの美しい空を見ることが・・・
いつか・・・。
SILVERY SKY
プロローグ
物語はここから始まる。
ここ≠ニは『スティングレイ大陸』、『リングファット』領地。
とりあえず、初めに断わっておかねばならぬ事が幾つかあるので
了承してもらいたい.
まず、この世界には太陽が二つ、月が三つあるという事。それらはこの地の
魔力の結集であり、人々は人生に終止符を打つと魔力の強いものは太陽に、
そうでないものは月へとその御霊を預けると考えられていた。
・・・この地ではすべてのものが魔力を持っている。遠くに見える星も、
人々の歩く大地も、青い空を写す透明な海も・・・。
そのために、ほんの少しの歪みが生じればすぐに異端の存在を生んで
しまう・・・。
この世界には幾つかの人種が存在する。まず一般的な民族が中部の陽を
鳴らす民(ひをならすたみ)、北部の永雪の民(えいせつのたみ)、
南部の海陽の民(かいようのたみ)。他にも獣役の民(じゅうえきのたみ)、
血塗られた民(ちぬられたたみ)、流浪の民(るろうのたみ)、
魂植の民(こんしょくのたみ)等々。
この世界の人々は皆黒髪に黒い瞳を持っている。しかし、中には
ごく少数ではあるけれど例外と呼べる者たちがいた。それが
"血塗られた民"と"流浪の民"。血塗られた民は金色の瞳を、
そして流浪の民は銀色の髪と瞳を持っていた。人は、異端なものを
嫌う傾向がある。それはかつての古き時代も同じで・・・。古き時代から
ずっと忌み嫌われる存在とされ、迫害を受け続けてきた異端の民達は滅びを
余儀なくされた。血塗られた民が滅びたのは数世紀ほど前であるが、
流浪の民にいたっては、ほんの数年前に滅亡した・・・とされている。
けれど・・・実際は・・?
彼らが本当に滅びさったという確証など何処にもないのだから・・・。
彼らの異端の"色"がこの地から完全になくなったことなど言い切れる
わけがない。
A C T 1 やがて来る日の昔語り @ 偶然は必然となる。
■ルシフェル・ユアン・リヴァース■
彼はパートナーを探していた。
彼≠ニはルシフェル・ユアン・リヴァース。一人旅をしている十九歳の
青年である。今宵は二つの月が三日月、そしてもう一つが満月という、
ありふれた晩であった。ルシフェルは淡いベージュのケープを身につけて
すっかり気温の下がった森林での野宿に備えるべく、火を起こしている。
「・・・・く〜っ?」
ルシフェルの懐から耳をピクピクさせながら妙な動物がひょっこりと顔を
出した。どうやらルシフェルの懐に入って眠っていたようだ。・・・と、
いうことは先程ルシフェルが一人旅であると言ったのは間違えだった
らしい・・・。
このルシフェルの小さな相棒はユディト。この子は以前は悪徳な人体収集家の
下に使い魔として飼われて(?)いたのだが、その賞金首となっていた主人が捕
えられたためにルシフェルによって主人交代となったのだ。・・・とはいっても、
ルシフェルにはユディトを使役しているつもりは毛頭無く、単に可愛いペットの
ようなものという認識しかされていない。ユディトが寒くないようにと懐で暖め
られているのがその証拠といえるだろう。
「大丈夫ですよ。まだ出発するような時間じゃありませんから。
ゆっくり寝ていて下さいね」
「くーっ」
ルシフェルがその端整な顔をほころばせ、ユディトを優しく撫でながらそう言
うとユディトは嬉しそうな声を上げ、すぐにまた落ち着いた寝息をたて始めた。
先程、ユディトは賞金首の所にいたと説明したが、その賞金首を捕えた張本人
がルシフェルである。しかし、ルシフェルの本業はあくまで修道士であり賞金
稼ぎではない。けれど、彼は一人で生きていく手段としてその道を選んだのだ。
稼ぎが良い事と多方面からの情報を手に入れやすいという事を理由に・・・。
そして、これこそがルシフェルが現在パートナーを探している理由だった。ル
シフェルは今までも賞金稼ぎを行っていたが、それはいわゆるフリーの賞金
稼ぎ≠ニいう事であり、それではこのリングファット領地内でしか活動を認め
られないのだ。ある目的のために、全国を旅しなければならないルシフェルに
とってこの事は都合の悪い事この上ない。ならばどうすればよいのか?その答
えは簡単だった。賞金稼ぎ登録≠おこなって賞金稼ぎの正式な資格≠
取ればよいのだ。登録は実に簡単であり、テストと評して登録所が提出した賞
金首を指定された期間までに捕える事が出来れば、晴れて資格≠貰う事が
出来る。ルシフェルにはその自信が無いわけではなかった。だが、登録する事
は出来ない。なぜなら、その資格≠取るには二人以上のチームである事が
絶対条件なのだから・・・。
「ディガルザの街・・・か」
ルシフェルは一人呟いた。ディガルザの街=E・・ルシフェルの明日の目的
地・・・その街にはこのリングファット領地で唯一、賞金稼ぎ登録が出来る場
所があるのだ。否応なしに冒険者が集っているであろうその街で、ルシフェル
はパートナーを探そうと考えていた。
■ブラムシヴァーズ・リーツェフォード■
彼はパートナーを待ち続けていた。
彼≠ニはブラムシヴァーズ・リーツェフォード。現在ティガルザの街に滞在
中の二十歳の青年である。
「アンタ、いつまで居座ってる気だい?こんな所で油売ってる暇があんなら、
さっさと相棒でも探しに行きゃいいだろ」
アンティークショップのような風変わりな店の中、4、50代と見られる恰幅の
良い店主と見られる女性が窓際のテーブルに座って煙草を吸っている男に声を
掛ける。
「まぁまぁ、いいじゃないの。ここに俺好みの可愛い娘が立ち寄るまでの間
だからさ」
その男・ブラムシヴァーズは店主の言葉をそう軽く受け流すが、彼女に布巾を
投げつけられ、笑いながらも慌ててそれをよけた。
「こんな危なっかしいご時世に好んで賞金稼ぎになろうなんざ考えてる
若い女がいるわけないだろ」
「ははは・・・・ちったぁ夢見させてよ・・・」
店主の現実的な言葉に苦笑いをしながら、先程投げつけられた布巾で自分のい
るテーブルをさっと拭いてみせる。
もうお気づきかもしれないが、この風変わりな店こそがリングファット領地で
唯一賞金稼ぎ登録の出来る表向きはただの喫茶店であり、情報屋という裏の顔
を持つ店であった。ここに来たということはブラムシヴァーズも勿論賞金稼ぎ
希望者なのだが、彼は随分長い期間パートナーを探す事もせずにこの街に滞在
している。このリングファット領地内を転々としていた彼の資金源はほとんど
が賭けポーカーや闘技場破り、暇つぶし程度の賞金稼ぎ、食事と宿は各町でナ
ンパした女のところに転がり込む・・・そんな生活を繰り返して本人は至って
平和(?)に暮らしていたのだが、とある街に立ち寄った事で事情が変わった。そ
の街で聞いた情報により、彼は世界中を旅しなければならないような目的を手
に入れたのだ。それでなぜ、ここにずっと居座っているのかと言えば・・・単
にパートナーの選り好みをしている所為だったりする。先程の彼の台詞にもあ
った様に彼は自分好みの可愛い娘≠ェ現れてくれるのを待っていた。適当に
ナンパで引き抜いてきても良いのだが、どうせなら足手まといにはならない相
手がいい。
「そこの窓のカーテンもうちょっと開けときな」
店主に言われ、ブラムシヴァーズはその通りに自分のいるところの窓のカーテ
ンを全開にする。
「他のカーテンは閉まってんのに・・・なんでいっつもここだけ開けんの?」
ブラムシヴァーズが尋ねると店主は不機嫌そうに目を細めて答えた。
「見た目だきゃあ上等だからね、アンタが来てからこの喫茶店≠ノ
女の客が増えてんだよ」
それを聞いて、ブラムシヴァーズは思いがけない賛美の言葉に一瞬驚いたよう
な表情をした後で冗談っぽく返答をする。
「へぇ〜え。なんだ、俺ってば結構この店に貢献してんじゃん。
いなくなったら寂しいでしょ?」
「・・・・・いい性格してるね」
店主は呆れかえったように溜め息をついた。