[嬉しい?]

                                                                                  

この日もブラムはもはや暗黙の了解とでも言わんばかりにルシフェルと相部屋だった。

とはいえこのところずっと一人部屋が続いていた所為で久しぶりのことなのだが・・・。

何はともあれ、せっかく同じ部屋なのだ。一刻も早く、そしてできる限り長い時間ルシフェルとの『ほのぼのタイム』を

洒落込みたいというのに・・・生憎ルシフェルの姿は部屋には無かった。先ほどからどこかに出かけているのだ。

(・・・・早く帰ってこねーかなぁ・・・)

雑誌を読みつつ、ブラムは何度も扉に目をやっていた。

ガチャリ。扉が開く。

そしてトタトタと気の急いた様子の足音と共に、ルシフェルは部屋の中へと入ってきた。

「おかえり、ルシ君」

雑誌を閉じ、ブラムは微笑む。気分はそう、ご主人様の帰りを待っていた犬である。

「ただいま」

ルシフェルも笑みを返し、そのままブラムの隣に腰掛けた。

(なんか・・ルシ君、やたらと機嫌良いな・・・・)

ルシフェルの態度を不思議に思いつつもブラムは早速チョッカイをかけようと試みる。不意を付いて

ガバッと肩でも抱き寄せよう・・・そう思っていたのだが・・・・。

「・・ブラムさん・・・」

「・・へ? 」

ブラムから仕掛ける間もなく、ルシフェルはピトッと身体を寄せてきた。ブラムの腕に縋り付くようにして、それはもう

ピッタリと身体を摺り寄せてくる。

(・・・ど、どうしたんだ・・? )

ブラムの反応を盗み見ているようなルシフェルの上目遣いに当然ブラムは困惑。そして葛藤。

ただただ唖然とするばかりだった。

「あのね・・・」

少しばかり言い辛そうに、ルシフェルは甘い声を発する。仄かに染まった頬が可愛くて・・・ブラムは思わず息を呑んだ。

「えっと・・・『命令してください、ご主人様』・・・・です」

「はい? 」

ルシフェルの台詞に、ブラムは一瞬脳が抜けた。

「・・・嬉しい・・・・ですか? 」

飛び切り甘い表情で恥ずかしそうに尋ねられ、ブラムは更に硬直する。ルシフェルがこういう時は・・・間違いなく、

あの男に何か吹き込まれてきた時だ。

「・・・今の台詞・・・・所長に教えてもらったの? 」

自らの予想を恐る恐る口にしてみる。すると案の定ルシフェルは誇らしげなほどのニッコリ笑顔ではい、そうですよ≠ネどと

答えた。これを言ったらブラムさんが喜んでくれるって教えてくれたんです≠ニ。

(あの野郎・・・)

ブラムは頭を抱え込みながら顔中に怒りマークを浮かべていた。

(まだ俺がセーラー服よりメイド服推したこと根に持ってんのかよ・・・・)←『大人の事情』参照

所長が『ブラムはルシフェルにご主人様≠ニでも言わせたいのだ?』と言っていた事を思い出したのだ。

確かに悪くは無いシチュエーションだとは思うが・・・・・・・

(・・・実際に吹き込んでくれてんじゃねーよ・・マジで)

ブラムは更に項垂れた。

所長やブラムの意図する事が分からないルシフェルは、ただ純粋にブラムを喜ばせてくれようとしているのだろう。

そんなルシフェルにロクでもないことを吹き込むとは・・・たいした狼藉者である。

「・・・嬉しくなかった・・・? 」

黙り込んでしまったブラムに、ルシフェルが不安そうな表情を浮かべつつ尋ねた。何か間違えていたのかと心配になったのか

耳まで紅く染まっている。眉は八の字に下がり、瞳は揺れて・・・泣きそうにすらなってしまって・・・。

そんな表情を見せられてしまえば・・・

(・・・可愛い・・超、マジ、すっげー可愛い・・・・)

ブラムがKOされているのはもはや言うまでも無い。

「いや、あの・・・嬉しかったから・・・・・もう一回だけ、言ってみて」

バツの悪そうな表情を浮かべつつも、ブラムはルシフェルにそんな事を耳打ちする。

こんな滅多に無いシチュエーション、もう少し味わってみてもいいかと思い直したのだ。

                            

――― 結局は所長の思惑通り・・・?

                 

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