雪翔の言動にイライラさせられ、優杏がもしかしたら本当に雪翔に想いを寄せているのかもしれないなどと ヤキモキし、そうこうしていたらあっという間に週末はやって来た。
土曜の朝、昨晩は興奮のあまり眠れなかったのではないかというほど年甲斐も無く大はしゃぎの両親が温泉に 向かい、花眺は相変わらずバスケ部の練習に出かけた。しかも今日はそのままバスケ仲間の家に泊まってくるのだと 行って大きな荷物も持っていた。 昼になり、クラシックコンサートの前に買い物をするのだと言って雪翔と優杏も出て行く。シンフォニーJrと二人で それを見送る、覇月の虚しさと言ったらない。 予定の無い週末・・・・覇月の気分は益々沈んでいた。
そして夜。 覇月は『Voyage』にいた。以前行きつけにしていた、割と小洒落たバーである。 覇月の両隣には肌をやたらと露出した派手な女の子たちが座っている。ちなみにその隣にも、またその隣にも いるのは流行に彩られた女の子達。そしてその中にポツリポツリと男が二人。皆派手に遊んでいた頃の覇月の友人だ。 「久々じゃない覇月ぃ、覇月いないと超つまんなかったんだからぁ」 「メールとかしても最近付き合い悪いしぃ」 茶髪と金髪の中間のような髪の色をした、ファー付きのキャミソールを着ている女と黒髪でロングヘアの甘ったるい香水が キツイ女が話しかけて来る。 一人で飲もうと思っていた覇月としてはこれは真に不本意な状況だった。初めはこの中の一人に発見されて、まぁ一人 くらいなら良い話し相手になるかと愛想良く接していたのが間違いだった。 久々に覇月が来ている。 そんなメールを次から次へと仲間達に回し、あれよあれよと言う間に集まってきた。 大勢で騒ぐのも普段ならば嫌いではないのだが、今日はとてもじゃないがそんな気分にはなれない。 まして女の子達にちやほやされたところで何となく虚しくすらなってしまう・・・。 やはり自分が好意を向けて欲しいのは優杏だけなのだとあらためて思い知らされるような気がして・・・。 「・・・ンだよ、覇月ぃ〜〜、久しぶりだってのにノリ悪いなぁ」 身を乗り出してまで向かいの席の覇月の顔を覗きこんできたのは緑色の髪をした男。一応は高校の時からの同級生という 間柄なのだが、コレといって親しいわけでもない。覇月が抜けて以降このグループのリーダー格になっていたらしい。 先ほどから妙に仕切りたがり、妙に覇月に馴れ馴れしく接してくるのがいい加減鬱陶しかった。 「悪ぃ、俺やっぱ帰るわ」 少しだけ残った津軽りんご酒を飲み干して、覇月はゆっくりと立ち上がる。 一斉に抗議の声が上がったが、それに好意的に反応を示してやれるほど今日の覇月に余裕は無かった。
飲酒運転、だのなんだのと騒ぐほどは飲んでない。だってジュースのような酒をたった一杯だけなのだ。 そんないい訳をして、いつものように車を走らせた。途中何軒かのコンビニに立ち寄って適当に酒を買いあさる。 こうなったら家に帰ってヤケ酒だ。そんなことを考えていた。 雪翔と優杏も夕食を済ませて帰ってくると言っていたからきっと遅いだろうし。・・・と思ったのだが、 「・・・・? 」 家に着くと、なぜか明かりがついていることに気がついた。雪翔達が帰っているのだろうか。だとするとヤケ酒を煽ることが 出来なくなる・・・。覇月は大きなビニール袋いっぱいに入った缶ビールやらチューハイやらを見やり、眉を顰めた。 部屋に篭もって飲むにしても余計に虚しいし・・・。深々と溜息。
「あ、覇月さん。お帰りなさい」 リビングに入るなり、片付けをしていたらしい優杏が笑顔で迎えてくれる。雪翔の姿はどうやら無い。 しかもよくよく見れば優杏が片付けているのは食事の後だ。一人分の。 「雪翔と・・・デートなんじゃなかったのか? 食事もしてくるって・・・」 ソファにドサッとビニール袋を投げ置き、自分もその隣に腰掛けながら尋ねる。自分でも刺々しい物言いであることに 気がついたが、発してしまった言葉を今更言いなおすことも出来ず。 優杏もさして気に留めなかったようで、あっけらかんと答えた。 「コンサート行かなかったんです。お買い物してる時に雪翔さんに電話がかかって、それで雪翔さん呼び出されたみたいで」 至極簡単な説明に覇月は思いっきり顔を顰める。 「呼び出されたみたいって、それで雪翔のヤツお前置いてそいつのトコ行ったのか? 」 怒鳴るように尋ねる覇月。優杏はやはりあっけらかんとした顔をして頷いている。 覇月は唖然とした。そんなこと、デート中に最もしてはいけないことなのではないだろうか? 少なくとも覇月ならば絶対に しない。どうして優杏がこんなにも平然としていられるのかが分からなかった。 「覇月さんは・・・ご飯食べてきちゃいましたよね? 」 恐る恐ると言う風に問う優杏。先ほども言ったとおり覇月の腹の中には津軽りんご酒一杯のみしか入っていない。 雪翔が優杏とのデートを途中で、しかもかなり理不尽な理由で切り上げたと言う話題がここで終わってしまうのも 気になったが、空腹には勝てず・・・。 「ツマミになるようなモンとか・・・あるとすっげぇ嬉しい」 素直にそう言ってみた。優杏はすぐにじゃあ作りますね≠ニ微笑んでキッチンに向かう。その様子を見送った後で 覇月は缶ビールを一つ、取り出した。 なんで優杏は怒らないんだろう? 優杏の話によれば一番メインだったはずのコンサートにも行けなかったというのに・・・。 悶々と考えが巡る。 相手が・・雪翔だから? だとしたら最悪の結論だ。 覇月はプシュッと音を立てて缶ビールを開けた。そして煽るようにそれを飲む。 せっかくの二人きりだというのに、それを素直に楽しむことが出来ない。 覇月の心は躍るどころか益々迷い、沈んでいった。
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