夜でも輝きを失わない・・・いや、夜にこそ輝きを増す歓楽街。 その中でも特に煌びやかな、簡単に言えば成金趣味なデザインの建物、それがホストクラブ『月―ユエ―』 数々のクラブ、キャバレーなどが立ち並ぶこの街において絶対的な存在感を持つ場所である。 「おつかれ〜」 「お疲れ様で〜す」 明け方近くの閉店時間、派手なスーツに身を包んだ青年達がわらわらと店から出ていく。ある者は欠伸を、ある者は 背伸びなんてしながら。そして今夜は覇月もその中の一員だったりする。 「お疲れ様です、覇月さん」 「はいよ、お疲れさん」 新人なのだという若干18歳の青年にペコリと頭を下げられ、覇月は適当に手を振って見せた。 覇月にはまだまだ帰る気などサラサラ無い。ふんぞり返ってソファに座り、客がプレゼントだと称して いれてくれたボトルを次々とあけていく。残りは月ちゃん飲んじゃって良いわよ≠ネどと嬉しいことを 言ってくれたおかげで遠慮はナシだ。 久々にやったバスケ・・・雪翔に負け、しかも優杏と雪翔の仲の良さを見せ付けられたストレスの発散をしようと 必死なのだ。少し言い方を変えれば、それはまぁ・・ヤケ酒。 「飲みすぎだぜ、覇月」 ドサッと力なく覇月の隣に腰を下ろし、呆れたように言う一際派手な風貌の男。キャラメル色の髪と泣きボクロが 特徴的な彼は生活のほとんどを客からのプレゼントで補うことが出来るというこの店のナンバー1ホスト。 源氏名はユキ。本名は紀貫 拓人(きのつら たくと)。ちなみに覇月の中学の時からの友人だ。 彼はこの店においてオーナーとほぼ等しい権限を持っているため、ちょくちょく人手が足りないなどと理由を 作っては覇月を一日限りのバイトとして導入する。一応なりとも教師なのだから、と再々言ってはいるのだが・・・・・ 友達のよしみでもあり、良い小遣い稼ぎにもなるため結局はOKしてしまう。主な理由は当然後者だが。 「俺の客から貰った俺の酒だろ。ほっとけよ」 また新しく一杯を注ぎ、一気にグイッと飲み干す。拓人は苦笑しながら覇月のグラスを奪った。 「確かに極々たまにしかいねぇ月ちゃん*レ当ての客も多いけどな。だからってベロベロに酔っ払ったお前を 送迎してやるほどうちの店は親切じゃねーんだよ」 窘めるようなその言葉に、覇月は少しばかりムッとしつつも所在なさげにグラスを奪われたばかりの手を下ろす。 かわりに煙草を取り出し、銜えた。 「ご自慢のベンツだかフェラーリだかで送ってくれりゃあいいだろ。俺のコブラには劣るだろうけど、今日くらい 我慢してやるぜ? 拓人ちゃん」 酔っ払い特有の締りの無い顔で言う。ナンバー1の顔に煙草の煙を吹きかけながら。 「バーカ、俺だって飲んでんだぞ。っつーか、本名呼ぶなよ。ここでは・・」 ユキだ=E・・・そんな言葉を返されるよりも早く、覇月は目の前の男の口を塞いだ。 「お前の源氏名なんざ、だぁれが呼ぶかってんだ」 苦々しい表情を浮かべ、顔全体で冗談じゃねぇ≠ニ言い放つ。拓人は益々困ったような顔をして覇月の手を退かした。 「俺が客にユキ≠チて呼ばれる度にお前微妙な顔してるもんなぁ・・・ってことは、お前が今日みょ〜〜〜に 荒れてんのは雪翔さんの所為って訳だ。また」 からかうようなその口調に覇月はよりいっそう顔を顰める。これだから昔馴染みは嫌だ。心からそう思った。まぁ実際は 中学の頃から進歩していない自分が問題なのだが・・・。 「るせーなぁ・・・あんなヤツ兄貴に持ってみろ、そしたら俺の気持ちが絶対ぇ分かる」 断言する覇月。そして深々と溜息を零した。 「結局俺はアイツに勝てねぇのかって思うと・・・メチャメチャ悔しい。ムカつく」 ワックスで無造作に跳ねさせた髪をグシャッとかき上げ、そのまま頭を抱える。考えるのは優杏のことばかりだった。 雪翔に嬉しそうに笑いかけていた・・・・その程度のことでこんなにまで自信をなくすなんてどうかしてる。それは 分かっているのに、心がかき乱されるのをどうしても止めることが出来ない。 もっと優杏と話したい。 もっと優杏に笑いかけて欲しい。 もっと・・・雪翔なんかよりもっともっと、自分のことを見て欲しい。 覇月の頭の中は子供じみた嫉妬でいっぱいになっていた。 「大変みてぇだな・・・よく分からんけど」 自らも煙草を取り出し、拓人が言う。そうかと思えば不意に胸ポケットを探り出した。 「ほら、これやるよ」 二カッと笑い、差し出されたそれは二枚の紙きれ。一体何かと覇月が受け取ってみれば、それは思いがけないにも ほどがあるものだった。 「温泉・・? ペア? 」 怪訝な顔をしてそれに書かれている文字を声に出して読む。そう、それは温泉旅行ペア招待券だったのだ。 覇月は視線だけで問いかけた。なんで温泉? なんでこんなモン持ってんだ? 俺にどうしろってんだよ? ≠ニ。 「今日客に貰ったんだけど・・・ホラ、あのホテルとか旅館とかいっぱい経営してるオバちゃん。俺は店休むわけには いかねーし、今カノジョいねーし、男同士で行くのもどうかと思うし」 言い訳がましく説明を施す拓人。 ようするに厄介払いか・・・そう察し、覇月は眉を顰めて受け取ったそれを見つめた。 「俺だって別に一緒に行く相手なんて・・・」 言いかけて、覇月は言葉を止めた。ピンときた。 優杏を誘おう。 「サンキュー、拓人! 貰っとくわ」 突然パッと明るくなり、拓人に微笑みかける。しっかりとペア招待券を握りしめて。 温泉旅行なんて、なんとも良いキッカケではないか。この前のデートがダメになったお詫びだとでも言って誘えば これといって不自然でもないような気もするし、第一2人っきりで旅行というのが良い。 雪翔の邪魔が入らないところで、今度こそゆっくり優杏と話が出来るのだ。 「じゃ、俺帰るわ。タクシーでも拾って。バイト代は絶対ぇ今度取りに来るから、忘れてんなよ」 さっさと煙草を灰皿に押し付け、ちゃっちゃかと残っていた酒を一気に飲み干し、ドタバタと荷物をまとめる。 「・・・あ、あぁ・・・じゃあな〜」 ヒラヒラと手を振り、取り合えずとばかりにそれを見送る拓人。彼がかなり唖然としていることなど全く気にせず、 覇月は鼻歌混じりで店を後にするのだった。
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