――― 独奏的恋愛のススメ ――― 交響的生活のススメ ACT4
ここは五十嵐学院高校、体育館。ちなみに放課後。バスケ部が主に活動しているこの場所で、今日は少しばかり珍しい 顔ぶれが揃っている。 「覇月さん、頑張ってくださ〜い。雪翔さんも、頑張ってくださいね〜〜〜」 銀の髪をポニーテールにした優杏が力いっぱい手を振ってバスケ部の領域であるコート一つをたった二人で 占領している兄たちに声援を送る。 コートでは現在覇月・雪翔の両名が1on1に精を出しているのだ。まぁ、優杏の声援が響いた直後の数秒間は 試合はお預け、二人して愛想の良い笑みを浮かべて優杏に手を振るのだが・・・。 「なんで雪兄も月兄もここ来てんのさ・・」 それまで自主トレをしていたらしいバスケ部員:花眺が所在なさげに覇月&雪翔のマジ勝負を見やり、 げんなりしながら優杏に尋ねる。優杏はクスクスと笑みを零し、言った。 「ホラ、覇月さん今部活出ないことにしてるでしょう? だから運動不足だって話をしてて、そこに雪翔さんも来て 久々にバスケでもしよう≠チて」 「・・・それでなんでココに来るかなぁ。教師が二人揃って何やってんだよ・・」 頭を抱える花眺。なんだかちょっとした父兄参観のような気分で照れくさいらしい。ちなみに覇月が現在部活に出ない ことにしている理由はACT3参照。 「カッタいこと言うなよ、お前。俺ら兄弟じゃねーか」 ドリブルしながらこちらに近づいてきたついでに覇月が言う。 「その通り。たまには俺達の勇姿を見ておくのも悪くないだろ」 ダッシュでそこに回り込み、ボールをカットした雪翔が今度は言った。試合が始まってから早くも5分が経過・・・ 運動量は相当なはずなのにそんな事を言う余裕のある二人に花眺は益々怪訝そうな視線を送る。そして不満げに呟いた。 「二人とも普段は学校では兄弟だって思うんじゃねーぞ≠ニか言ってんじゃんか・・・」
覇月・雪翔のマジ勝負はまだまだ続く。時間を決めずに10本入れた方が勝ち、などというアバウトなルールしか 決めなかったのが災いしたようだ。 「雪翔先生ナイッシュー!! 」 「覇月先生頑張れ〜、負けんな〜っ!! 」 バスケ部員もそのほとんどが各々の練習を止め、珍しく真剣な表情を浮かべている二人に釘付けになっている。 たかが1on1なのにもかかわらず、宛らインターハイの盛り上がりである。 「すごいですね・・・雪翔さんも覇月さんも。二人が運動神経良いのは知ってましたけど・・・こんなに・・」 感心するように二人の動きを目で追う優杏。隣に座り、すっかり観戦モードになった花眺はスポーツドリンクを 口に含みながら得意げに言った。 「兄貴二人とも元バスケ部なんだよ。あ、雪兄はミニバスまでだっけ・・・でもしょっちゅう助っ人とかやってたって 言ってた」 「へぇ・・・通りで」 優杏はさらに感心する。 「・・・・性格も出てるよなぁ・・」 暫く二人を見つめ、花眺は思わずという風にポツリと漏らした。当然?≠浮かべている優杏。花眺は少しばかり 間誤付きながら説明を加えた。 「雪兄はプレイしてても冷静っつーか、身体動かすよりまず頭で考えてんだよ。だから、どうすれば一番効率が良いのか とか結論付けてからしか動かない。明らかに秀才プレイって感じ? 」 「覇月さんは? 」 「月兄はその逆・・・かな。考えるより先に身体が動くって感じ。ずば抜けた運動能力と反射神経があるから出来ること なんだろうけど・・・ガンガン動いて、その後で結果がついてくるっつーか」 花眺の話に、優杏は真剣に聞き入り、頷いている。花眺は聞こえるか聞こえないかと言う様な微かな声で呟いた。 「恋愛とかも・・・そうなのかもなぁ・・・」 「え? 」 「あ、いや・・・なんでもない」 優杏に聞き返され、慌てて誤魔化す。この所優杏に接する二人の兄を見ていて花眺が思ったことだった。 どちらが有効なのかなんてことはよく分からないけれど。 「でも、正反対なんて兄弟なのになんか不思議だね」 屈託なく微笑む優杏。その言葉に、花眺はなんとなく歯切れの悪いような返事をした。 「まぁ・・・ね」 優杏は真剣な表情で雪翔と覇月の試合に見入っている。懸命に二人を目で追って、時折声援を浴びせて・・・。 見蕩れているようなその視線に、花眺は少しばかりの違和感を感じていた。
「おつかれ、月兄」 たかが1on1のクセに一時間はかかったであろう兄弟対決がようやく終わり、汗だくになってベンチに腰掛けた覇月の 元へ花眺がやって来る。その手にはタオルとスポーツドリンクも持たれており、珍しく気を利かせたらしい彼を素直に 褒めてやった。 「試合中、優杏すっげー見蕩れてたぜ」 ニヤニヤしつつ、花眺が言う。わざわざそれを言うために来たのかと、覇月は思いっきり呆れて見せた。 「別に、俺に′ゥ蕩れてた訳じゃねーだろうよ」 少しばかり拗ねたような表情をして花眺と同じくタオルと飲み物を持って雪翔のもとへ行ったらしい優杏を見つめる。 何やら楽しげに話している二人に苛立ちが募っていた。 「ンな卑屈になることねーじゃん・・・いくら負けたからってさぁ」 花眺の言葉に覇月はピクリと反応する。そんなことにも気付かず、花眺は更に続けた。 「しかも負けっつってもたかが1本差じゃん。大して変わんねーよ」 ヘラヘラと笑う花眺。けれど覇月はニコリともせず、グイッと飲み干したスポーツドリンクのボトルを思いっきり 花眺に投げつけた。 「イッテ!! 何すんだよぉ!? 」 「るせー」 花眺はぶつかった所を擦りながら涙目で抗議する。覇月は悪ガキのようにんべっ≠ニ舌を出して見せた。 そして一転、真剣な表情で呟く。 「一歩足りなくて負けたから悔しいんだよ。・・・これならいっそ、ボロ負けした方がずっとマシだ」 覇月の視線は優杏を捉えていた。優杏は雪翔と話している。嬉しそうに、楽しそうに微笑んで・・・。 この前の可笑しなダブルデートの時から、雪翔と優杏は妙に仲が良い・・・気がする。 今の様に楽しげに笑い合っている所を近頃よく見かけるのだ。 「9戦4勝4敗1引き分け・・・・か」 口をついて出たのは雪翔との戦績=B 今は大切な10戦目の最中・・・覇月の心は、荒れていた。
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