昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴り響く。 この日もまた授業をサボり、生徒会室で濃密な時間を過ごしていた二人は行為を終え、服装を整えている ところだった。 「そろそろメシでも食うか。購買にでも・・・」 キュッとネクタイを締め、ソファから立ち上がろうとする光希。けれど稀は光希の腕を引き、首を横に振った。 「今日は持って来た」 そう言って微笑むと自分のサブバッグの中から使い捨てタイプの弁当箱を二つ取り出した。 そう、二つ・・・稀は自分の分だけでなく、光希の分も持って来ていたのだ。 「アンタいっつもパンばっかじゃん? そういうの見てるとこっちが気になるんだよね」 如何にも不満そうに言い放ち、片方を差し出す。 光希は戸惑いつつもそれを受け取り、恐る恐るという風に視線を落とした。 「・・・玉子焼き焦げてねぇ? 」 とりあえず一番に目に入ってきたものについてボソリと呟く。稀はキッとこちらを睨み、ムキになって言葉を 返した。 「仕方ないだろ、砂糖入れ過ぎちゃったんだから!! 贅沢言うなよ、馬鹿」 噛み付くように怒鳴った稀を唖然としながら見つめ、光希はハッとする。 稀がこんなことを言うということは・・・ 「手作り・・? 」 弁当を指差し、尋ねてみる。稀は更に不貞腐れるような顔になり、俯いた。 「俺週に一回は寮の台所借りて自分で作るようにしてて・・・それで、ついでにアンタの分も用意しただけで・・・」 いい訳のように言う。 その様を見ているといつの間にか頬が緩んでいた。素直に嬉しい。手作り弁当なんて古典的な手立てでこんなにも 心を揺さぶられるとは思わなかった。 「文句あるなら別に食べなくて良いんだけど」 「あ、食べる食べる。いただきます」 ジロリと睨んで光希から弁当を取り上げようとする稀に、慌てて笑顔を向けてペコリと頭を下げる。 何よりもいつものような計算では無い稀の態度を好ましく感じていた。いつもパンを食べている光希が気になった、 なんて意外と面倒見の良いことを言ってくれたことも嬉しい。 光希は上機嫌になりつつ、稀手製の弁当を賞味した。 「ニヤニヤしてんなよ、気持ち悪い」 稀が剥れながら呟く。それでも光希は緩んだ顔を直そうとはせず、からかい口調で言い放った。 「喜んでやってんだよ、美味い美味い≠チて」 焦げた玉子焼きを口に含む。砂糖を入れ過ぎたと言っていただけのことはあり、それはすごく甘かった。 けれど光希はそれにだって文句は無い。鶏肉のケチャップ煮もほうれん草の白和えもベーコンとエリンギの炒め物だって 本当に美味しかったのだから。
「ご馳走サンでした。コレも、サンキュ」 全てを平らげ、稀があらかじめ買ってきていたのだというペットボトルのウーロン茶を飲みながらニッと微笑む。 稀も少しばかり照れくさそうに頷いた。 ウーロン茶をグッと飲み干し、光希は息をつく。そして意を決したように言った。 「これのお礼にさ、今度の日曜・・・とかどっか行かねぇ? 」 それはデートの誘い。 稀は少しばかり目を見開いた後でふわりと妖艶に微笑んだ。 「いいよ。けど、休みの日まで俺に会いたいなんて・・・・もう堕ちちゃったってことかなぁ〜? 」 悪戯っぽい問いかけをされ、光希はそういえば≠ニ気が付いた。堕ちた≠セのなんだのという話はひとまず置いておいて、 学校や寮以外で稀と会おうとするのは確かに初めてのことなのだ。こんなにいつも一緒に過ごして、こんなに何度も身体を 重ねているのに稀の制服姿か裸だけしか見たことが無いなんて・・・・・本当に妙な話だけれど。 光希は唇の端を吊り上げ、不敵な笑みを作り上げて言った。 「そろそろ俺の私服姿も見せてやろうかと思ってさ」 「そんなに勿体付けておいてダサダサだったら笑っちゃうよ? 」 稀も負けじと言葉を返す。 暫く挑発的な視線を投げ合って、二人はふっと笑みを漏らした。
そして日曜日。 光希はバタバタと走り、稀との待ち合わせ場所である駅前に向かっていた。 待ち合わせ時間は1時。現在の時刻は12時58分だ。どう考えても間に合いそうにない。 今まで誰かとデートする時は5分や10分時間に遅れたところで別に悪いとも思わなかったが、今回は事情が違うのだ。 稀へのお礼だと称したものなのだから遅刻なんて持っての他だろう。 光希は全速力で駆け進んで行った。
「遅いんだけど。時間も守れないなんて最っ低」 やっとの事で辿り着くなり、不機嫌度全開という風な稀にガミガミ怒鳴られる。ぜいぜいと肩で息をしながら自分の腕時計に 目をやると1時12分・・・惜しいっ!$Sの中でそう叫び、素直に頭を下げた。 「スミマセンでした」 「この俺を待たせるなんて超贅沢。あと3分経ったら帰ってるトコだよ、バカ光希」 下げた頭をベシッと叩かれ、横柄に怒られ続ける。 けれど何より、光希は稀に初めて名前を呼ばれたということが気になった。今まではずっとアンタ≠セとか生徒会長さん だったのだ。よくよく考えてみれば光希もお前≠セとか寮長≠セとしか呼んだことがない。 初めて名前を呼ばれた瞬間。正直なところ何も今呼ばなくても≠ニいう感じがいなめないが・・・何となく胸の中が ざわついたような気がした。 「この俺が走ってきたってだけで超絶価値あることなんだからいいだろ」 誤魔化すように言い、トドメとばかりにホンットごめん≠ニ頭を下げる。稀もようやく許してくれたらしく、溜息を漏らして 言葉を放った。 「さっさと行こ。今日は勿論奢ってくれるんだろ? 」 「・・・一応お礼だしな」 確信的な物言いに光希は渋々ながら頷く。けれど稀はその返答に満足しなかったらしく、ムッとしたような表情で光希の顔を 覗き込んできた。 「お礼プラス遅れたお詫び、でしょ? 」 至近距離でビシッと指をさされる。溜息をつき、光希は観念した。 「・・・分かったよ」 悪戯っぽく舌を出しつつ両手を上げ、降参のポーズを取って見せる。稀は微笑み、光希の腕を取った。 「行こ」 自然な流れで腕を組む、その瞬間光希はドキリとした。いつも見ているはずの稀の笑顔が妙に可愛らしく見えたのだ。 やはり服装が違う所為かとも思ったが、とてもそれだけでは無いような気がする。 ヤバい=E・・光希は心に訴えかけた。警告した、といっても良いだろう。このままでは稀に本気になってしまう、と。 「光希? どうかしたの? 」 黙り込んでしまっていた光希に稀が首を傾げる。決して挑発的なものではない、ただあどけない表情に胸が弾んだ。 「いや、なんでもない」 しっかりしろ≠ニ自分に言い聞かせ、光希は首を横に振った。
|