翌日早朝、秋能瀬高校の生徒達は凄まじく動揺していた。 彼らの目に飛び込んでいた現実がとてもじゃないが信じられなかったのだ。 ある者はコレは夢だと必死に自分に言い聞かせ、またある者は何か天変地異が起こる前触れだといつでも避難出来る ような準備を始める。 とにかくまぁ、多くの生徒達が当人達を見つめてはヒソヒソ話に花を咲かせた。
一方その当人達≠ヘといえば、周囲の反応を楽しむかのように二人で笑っていたりする。 「みんな随分驚いてるみたいだね」 「そりゃそうだろ」 周りに見せ付けるように稀が光希の耳元で囁き、光希もクスクスと笑みを零した。 二人は勝負≠フ始まりと称して一緒に登校して来たのだ。史上最悪的に仲の悪いこの二人が。 顔を合わせれば緊迫した雰囲気のみを発するほど険悪な関係であるこの二人が。 普段の稀と光希を知っている生徒達にしてみれば正にありえねぇ¥態なのである。 「いっそここでキスでもしとくか? 」 冗談っぽく稀の顎を引き寄せ、言ってみる光希。口説きモード全開で。 そう、勝負≠ヘ始まっているのだ。光希の心のうちには絶対に勝ってみせる≠ニいう決意の炎が燃えさかっている。 「いいね、交際宣言って感じで」 ふふっと微笑み、稀も光希の首に腕を回してくる。挑発的な上目遣い・・・・こちらも臨戦態勢はバッチリのようだ。 互いに誘い合うような湿度の高い視線が絡む。 けれどそこには確かに散っているのだ。バチバチと火花が。
「・・・稀」 背後から不意に呼びかけられ、稀が光希から目を逸らした。 光希もそれに付き添うようにして声の聞こえた方を振り返ってみると、そこには普段から見慣れた英語教師が 立っている。サラリと流した色素の薄い髪と切れ長の目が特徴的な優男・・・・歳は確か29歳くらいのはずだ。 光希はふと嫌な予感がした。まさか≠ニ。 一応仮にも教師が稀を名前で呼んだのだ。しかもそれが若い男だとすれば尚更・・・何もないと思えるほうが おかしいだろう。相手はこの高司稀なのだから。 十分にあり得る話だ。二人がデキていた≠ネんてことは。 「付き合ってるのか? 二人は」 特に表情を変えるわけでもなく、英語教師は尋ねる。光希は少しばかり戸惑いながら稀を横目でチラリと見やった。 一体何と言うのだろうか、と。 「まぁ・・・そうかな。今朝から」 思いがけないほどサラリと稀は答える。すると男はそうか≠ニだけ言って頷き、光希を見て微笑んだ。 よもやまさか稀をよろしく頼む≠ネんて言われるのだろうかとドキドキしたが・・・・しかも言われたらハッキリ 断ろうなんて企んでいたのだが・・・・その心配は要らなかった。 英語教師は何も言わず、スタスタと光希の横を通り過ぎて行ったのだ。 「もしかし・・・なくてもアイツ、お前の彼氏だったのか? 」 男の姿が見えなくなったのを確認した後で、光希は少しばかりげんなりしながら尋ねた。 案の定というべきか、悲しいかな稀は平然と頷く。 「そうだけど、何か問題ある? 」 光希は益々項垂れた。 問題はあるだろう、色々と。教師相手だとかそんな事はどうだっていい。それはいいけれど・・・・ 「お前不倫までしてたのかよ・・・・アイツ確か既婚者だろ? 」 呆れたように光希は言った。それは問題あるだろう、と。こういう意味での交友関係が広いのは自分にも 言えることである為口出しはしないが、稀がまさか既婚者にまで手を出していたとは・・・・。 「徹底的自由恋愛主義なの、俺は。結構好みだったし、あの人」 好み≠ニいう言葉を妙に強調しながら稀は言った。 自分に言い寄ってきた相手なら誰彼構わず手を出していく光希への嫌味なのだろう。 光希も負けじと意地の悪い笑みを浮かべ、言葉を返した。 「年増がお好きって訳だ」 「同い年のガキよりよっぽど良いから」 すぐさま稀の反撃。光希もムッとしてしまい、ついついいつも通りのピリピリした視線が行き交う。 ・・・が、 「あの人、セックスめちゃめちゃ巧かったから。今まで寝た人の中で一番」 挑発するように稀がそんな事を言ったため雰囲気は一転。光希もふっと微笑んだ。 そういうことか≠ニ言わんばかりに。 「じゃあこれからは二番になるな」 稀の腰に手を伸ばし、いやらしく撫でる。稀も光希の首に腕を回して甘い声で言った。 「ちゃんとテクあんの? 取り得は若さだけなんて、俺満足できないよ? 」 頬に触れ、辿るように首筋に指先を流す。誘うようなその仕草に光希も余裕の笑みで応えた。 そして囁く。 「これから試そうぜ。満足なら幾らでもさせてやるよ」 惚れさせるには身体から堕としていくのが一番手っ取り早い・・・・・・これは光希の持論だ。 そうなるように話を持ちかけてきたということはおそらく稀もそう思っているのだろう。 そしておそらくは光希と同じく、自分のテクにそれ相応以上の自信を持っている。 絶対に負けない。・・・・というよりは負けるわけにはいかない。 光希のプライドがそう叫んでいるのだ。 熱を含ませた視線がねっとりと絡んだ。 それを合図に二人は身体を離し、歩き始める。当然その足が向かう場所は教室ではない。 第一勝負=E・・二人の脳内にはこの言葉のみが過ぎっていた。
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