――― It isn't worth vying ―――
12月24日―――― クリスマスイブであるその日の早朝、隣同士の家に住む二人の妊婦が産気づいた。 二人は同じ病院に運ばれ、一分一秒と違わぬ時間に男の子を産んだ。 運命とすら呼べるようなその偶然に二人は喜び、子供たちを双子のように育てることを決めた。 お揃いの服を着せたり、同じオモチャを買い与えたり、いつも一緒に遊ばせた。 きっと二人は親友になるわ≠ネんて言いながら二人の子供の未来に思いを馳せたりして・・・・。 けれど残念なことに、母の願いは叶わなかった。 二人の子供は親友になるどころか、さっさと他に友達を見つけては別々に遊びに行っていた。 二世帯が一緒に食事をする機会を設けた時も、子供達は一緒に遊ぼうとはしない。お揃いの服を着せているし、 同じオモチャで遊んでいるのに決して仲良くはしないのだ。 母親達は不思議に思い、どうして一緒に遊ばないの?≠ニ聞いたこともある。もっと露骨にどうして嫌いなの?≠ニ 尋ねてみたことだってある。 その度に子供達は首を傾げるのだ。わかんない≠ニ。 別に喧嘩をするわけではないため咎めることも出来ず、親達も徐々に何も言わなくなった。 とはいえ家族ぐるみの付き合いは続き、母親同士の仲の良さも変わらない。幼稚園・小学校と二人の子供は同じところに 通わせることにした。ずっと一緒にいれば少しは仲良くするのではないか、と考えてのことだったのだが・・・・・ やはり子供達の関係に変化は見られず。 どうにも気が合わなかったらしいのだ。
そして数年後、二人の子供がどうなったかといえば・・・ 二人とも秋能瀬(あきのせ)高校の三年生。ちなみに一人は生徒会長、そして一人は秋能瀬寮に入って寮長という立場 になっている。 そんな職務をしていれば人前に顔も名前も出るし、ただでさえ二人は成績優秀・スポーツ万能、それに加えて 眉目秀麗・・・・当然ながら二人の人気は高かった。 タイプは違えど生まれながらの遊び人体質、とでも言うべきか二人の周りには常に浮いた話が付いてまわる。 高校内ではちょっとした有名人になっているのだ。 驚くほどのローテーションの速さで恋人をとっかえひっかえ。好み≠ネんて気の利いたものが二人の中に果たして 存在するのかどうか・・・。誰でもいい≠ニいうのは少しばかり言い過ぎかもしれないが、 とにかく数をこなすことに情熱を燃やしているという感じなのだ。
けれどそんな二人も幼馴染であるお互いにだけは決してそんな気にはならなかった。 というよりも、それ以前に二人は仲が悪い。 言うなれば存在が近すぎたのかもしれない。双子のように育てたいという二人の母親の意思が全くの裏目に出たといっても 過言ではないのだ。互いの母親の前でこそ仲良く振舞ってはいるものの、その他で顔を合わせようものなら すぐさま口論が始まる。 実のところ幼稚園の頃からずっと、勉強でもスポーツでも男の数でも何でも競い合っているのだ。 いわゆる史上最悪のライバル、とでも言ったところか・・・。
そんな状態なのだから、この時の二人が近い将来お互いが付き合うことになるとは・・・・とてもじゃないが 思っていたはずもない。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ここは私立秋能瀬高校会議室。 行儀良く向かい合うような形で並べられた長机に生徒会役員らがズラリと座り、室内の一番奥に置いてあるホワイト ボードには本日の議題と既に決定した幾つかの事項が書かれている。只今生徒会主催の会議の真っ最中なのだ。 参加している生徒達は皆真剣な表情を浮かべて手元に配られた書類に目を通している。 ホワイトボードの一番手前にある机、しかもその真ん中に座っている生徒会長の雨宮光希(あまみや こうき)は 何の言葉も発しようとはしない生徒一同に視線を移し、深々と溜息を漏らした。 書類を見ながら自分の意見を考えている・・・・フリを必死にしている彼らには虚しさすら感じる。彼らが実はただ単に 自分に話を振られないようにと努めているだけだということに光希は気付いているのだ。 それと共にまぁ仕方ないか≠ニも思っていたりする。 なぜならば・・・ 「部活動時間の延長要請は却下しろと言ってるんだ。というより、俺は短縮すべきだと思うね」 「分からないヤツだな。延長願いを出されているのに短縮なんかしたら暴動でも起きかねない」 「だったらせめて延長はなし、今までどおりで良いじゃないか」 本日の議題である『部活動時間延長願を許可するかどうか』ということについて、光希と寮長の意見が見事なまでに 真っ二つに分かれているのだ。二人はピリピリした雰囲気を纏い、先ほどからずっと口論にも似た意見の交換を 続けている。そのあまりに緊迫した状況に誰しもが我関せずを決め込んでいるという訳なのだ。 「部活時間を延長して欲しいというのは前々から、しかも色んな部活から出てる希望だ。生徒会長として 聞き入れてやりたいと思って何処が悪い? 」 許可派の光希が寮長をジロリと睨み、言い放つ。そうすれば、すぐさま寮長が反論。 「何処が悪い≠セって? 寮長として、部活動をしている寮生が度々門限を破っているという現状を 放って置けないんだよ」 それぞれがそれぞれの立場から考えた意見であるため、当然といえば当然なのだが・・・二人とも全く譲らない。 「生徒が門限を守れないというなら門限の方を動かしたらどうだ? その方が生徒の意見も通ってるし」 「門限を動かせばその分食事の時間だって変わってくる。それに部屋別にユニットバスが付いてるって言っても 夜遅くに使えばその隣の部屋に迷惑がかかるんだ」 真っ直ぐに見据えられた互いの視線が絡む度にバチバチと火花が散っているような気がするほどだ。 「別に何時間も動かせって言ってるわけじゃない。十分や二十分くらいどうにかなるだろう? 」 面倒くさそうに光希は言う。いい加減苛立ちが募り、ブチ切れ寸前なのだ。自分の言うことに的確な反論をされる所為か 単に彼と気が合わないからか・・・とにかくカンに障って仕方がない。おそらくは彼もそう思っているのだろうが。
寮長である高司稀(たかつかさ まれ)とは生まれた時からずっと一緒に育ってきたという列記とした幼馴染なのだが・・・ 小さい頃からずっと、遊び仲間≠ニいう存在ではなかった。当時から嫌いだったのかどうかは自分でも覚えていないし よく分からない。ただ何があっても何においても負けたくないと思っていた。 歳を負うごとにその気持ちは強まっていき・・・そして今、ハッキリと言うことが出来る。 自分は稀が嫌いだし、稀も自分を嫌っている。 光希は溜息を漏らした。
「生徒の意見ばかりを取り入れて規則を曲げろっていうのはおかしいんじゃないか? ルールを守ろうって 生徒に働きかけることもアンタの仕事じゃないのか? 生徒会長さん」 これでもかと言うほど嫌味臭い言い回しをしてくる稀。苛立っているのはこちらも同じようだ。 「そっちこそ、生徒の意見を反映させて寮での暮らしを少しでも良いものにするためにいるんじゃないのか? 寮長さんは」 こちらからも言葉を返し、またも二人の間に火花を散らす。そして背後には暗雲と轟く雷鳴が・・・・ 「あ、あの・・・」 恐る恐るという風に、光希の隣に座っている生徒が挙手をした。ちなみに彼は副会長である。 光希と稀は一斉に鋭い視線を向け、その他の生徒達は彼の勇気ある行動を賞賛するような眼差しを送った。 「今日はもう遅いですし・・・結論を出すのはまた次の会議で、という事にしたらいかがでしょう? 」 副会長の発したのはそんな提案。その瞬間に光希と稀以外の全員が良くぞ言ってくれました≠ニ思ったのは もはや言うまでもない。 そして光希も・・・ 「そうだな。とりあえず保留という事にしておこう」 このまま話し合いを続けたところで同じような押し問答を繰り返すだけだろうと考え、副会長の提案に乗ることに した。 「寮長さんも、これ以上長引いて門限に間に合わなかったら大変だろうしなぁ? 」 稀に嫌味をぶつける事も忘れずに。稀はジロリとこちらを睨み、そうかと思えば副会長に笑顔を向けた。 「俺もそれで構わないよ。今日はコレでお開きにしよう」 かけていた眼鏡を外し、カバンから取り出したケースに仕舞う。その一連の動作を見やった後で光希は言った。 「じゃあ解散」 それを合図として生徒たちはわらわらと立ち上がって会議室を出て行く。 光希も手早くホワイトボードに書いた文字を消し、帰る準備を始めた。
|