災恋とNIGHT。 後編
「はぁ?ルシ君が所長に?」 今日はクリスマスイブ。午後の麗らかなティータイム・・・・ブラムは フィアルから聞かされた言葉にその耳を疑う。 「えぇ。所長に何やら良からぬ知識を植え付けられているものと思われます」 言うべきか悩んだのですが・・・≠ネどと少しばかりの迷いを見せつつ 報告してきたフィアルにブラムは頭を抱え込んだ。 「どおりで最近やたら所長と二人で何かこそこそしてるとは 思ってたんだよなぁ・・」 ここ数日間のルシフェルを思い出せばよりいっそう項垂れる。 「クリスマスプレゼント・・・って・・・・別に何もしてくれなくて いいのにルシ君・・・」 本来ならば嬉しいこと限りないルシフェルの心遣いなのだが・・・そこに 所長が絡んでくるとなると話は別だ。ルシフェルが大人の¥報に疎い事に つけこんで、所長は絶対にペラペラペラペラと余計な事ばかり教えているに 違いない。 「私が知っている段階ではセーター1枚しか着ていない状態でベッドの中で 待ち伏せをする≠ニいうものでしたが・・・」 「マジで・・?」 口ごもりながら語るフィアルに、ブラムはげんなりとする。 やはり所長の教える事は彼の少しばかり曲がった趣味にひた走ったもの であるらしい・・・。 (まぁ嫌いじゃないシチュエーションだけどさ・・・) ブラムは一瞬とはいえ想像してしまった自分を戒めつつ再び深いため息をつく。 おそらく所長はルシフェルに迫られブラムが理性を切れさせてしまう事を 期待しているのだろう。どこかに盗聴器、もしくは隠しカメラでも 設置するつもりに違いない。 「サンキュな、フィアル。教えて貰って助かったぜ」 事前に知っていれさえすればそれも防げるだろう、ブラムはそう思うと素直に フィアルに礼を言った。あとはもう、いつルシフェルが来ても冷静に対処 できるように心構えをするだけである。
一時間後。 ――――――――トンットンッ。 ブラムがこの日与えられた自室でボンヤリと雑誌をペラペラと捲っていると、 なにやらノックの音が聞こえてきた。 「どーぞ」 視線もずらすことなく軽く言葉を返すと遠慮がちにノブを回す音が立ち、 小柄な影が部屋に入った。 「あの・・・ブラムさん。ちょっと・・いいですか?」 そう、ルシフェルである。 (・・・き、来たか・・?) その存在を確認するなり、ブラムは寝そべっていた体を起こして雑誌を閉じ、 ベッドから降りた。それなりの警戒体勢とでもいったところか・・・。 「あの・・・今日、クリスマスイブでしょう?だから・・」 ルシフェルの言葉にいつも通りの笑顔で耳を傾けるフリをしつつも、 ブラムは全神経を集中させて注意を払う。しかし・・・ (・・・・これといってコスプレはなし。いつもとおんなじ服だよな・・。 大人のおもちゃ・・とかも別に持ってねぇし・・・) 所長の趣味に飾られて来るかと思っていただけにブラムは少しばかり 拍子抜けした。どうやら視覚的に攻める戦法は取らなかったらしい。 「あの、クリスマスツリー・・・見に行きませんか?」 「・・・へ?」 ルシフェルのにっこり笑顔と共に発せられたほのぼのとした提案に ブラムは唖然とした。 (く、クリスマスツリー?あれ・・?) ブラムが暫らくポカンとしていると、ルシフェルはしゅんとして ダメですか?≠ネどと聞いて来る。 (・・・そ、そうか。リギィたちにせがまれたのかも・・まだイブだし・・・) 数秒の間に色々な思考を張り巡らせた結果、そんな結論に至ったブラムは 気を取り直してルシフェルの髪を撫でた。 「うん、行こう。準備するから、ちょっと待ってて」 (・・・ちょっと身構えすぎだよな、俺も) 嬉しそうに返事をして部屋を出て行ったルシフェルを見送り、 ブラムは苦笑いをしながら溜息をつく。そして外に出るための 身支度を始めた。
「ブラムさん、準備できましたか?」 「んー」 自分も身支度を終えたらしいルシフェルが再びブラムの部屋に顔をのぞかせる。 ダッフルコートを羽織ったブラムは出かける準備が済んだ事を伝えようと ルシフェルに歩み寄った。・・・すると・・・ (・・・な・・・めちゃめちゃ可愛い・・・) ブラムはルシフェルの服装に思わず目を見開いた。ファー付きの白い コートに黒のホットパンツ、そしてふわふわの白のセーター・・・ それはルシフェルがその外見を気にして滅多にする事などない、 実に女の子らしい≠ニいう形容詞が当てはまるような服装・・・。 ブラムはついつい見入ってしまった。 ルシフェルにもそれが分かってしまったらしく少しばかり頬を染めて俯いた。 「あの・・・こういうの・・・・変ですか?」 上目遣いでそんな風にブラムの反応を伺うルシフェル・・・・・当然、 ブラムは悩殺されてしまった。 「いや、全然変じゃない。ってか可愛い。いや・・と、とにかくすっげーイイ」 わたわたとしながら慌ててブラムはルシフェルを褒める。 ・・いや、褒める≠ニいうよりも素直な意見を言っているだけなのだが・・。 「ホントですか?・・・・・良かった・・」 (・・・はっ・・・・) ルシフェルの照れくさそうな笑顔を見ながらも、ブラムはあることに 気が付いた。もしかしたらこれが所長の手≠ネのでは?という事に。 しかし・・・ 「どうしたんです?早く行きましょ」 「あぁ・・・うん」 ルシフェルに急かされ、ブラムは素直に従った。一瞬よぎった考えを 振り払うようにして煙草とライターをポケットにねじ込み、 宿の玄関口へと移動する。 (きっと俺の考えすぎだな。ツリー見に行くだけだし。リギィとかもいるし) 結局そんな考えに落ち着いたのだった。
「へぇ・・・すっげぇ。昼間とじゃ全然違うね」 この街に着いたばかりの昼間の姿とはまったく異なっているそれに ブラムは感心した。街中の家、木々たちに付けられた電飾の数々が とても美しく輝いている。クリスマスムードたっぷりの景色に、 ルシフェルも見とれるように柔らかい笑みを零していた。 「メインはツリーなんですから。早く行きましょう」 平凡な街並みでさえこうなのだからと期待が高まったのか、 ルシフェルはブラムの袖を軽く引っ張るようにして移動を促す。 そんな様子がとても可愛らしく感じて・・ブラムもゆっくりとそれに合わせて 止めていた足を再び前へ進ませ始めた。 (あれ・・・?) そうこうしていると、ブラムは不意に気になる事を発見した。 それは絶対に放っては置けないことであるため、ブラムはルシフェルに キッパリと聞いてみる。 「・・・あのさ、リギィ達は?どっかで待ち合わせとか?」 しかし、ブラムの意に反してルシフェルは不思議そうに首をかしげながら キッパリと答えた。 「リギィたちは今頃僕が作っておいたクリスマスパーティ用のお料理 食べてると思いますよ」 頑張っていっぱい作りましたから≠ネどと言っているルシフェルに、 ブラムは呆然とする。 それはつまり、彼らはこの場にはこないということで・・・・更に言うなれば ルシフェルはブラムと二人っきりでツリーを見に来た、と。 「そ・・そうなんだ」 ブラムは一応の返事をしながらも必死に思考回路を働かせていた。 二人っきり≠ニ言う条件がついている・・・こんな事をルシフェルが 自分で考え、行動に移すわけがない。という事は・・・所長の差し金である 可能性が高いのだ。ブラムはあっさりそれに乗ってしまった事を後悔した。 そしてすぐに警戒を強める・・・。 (・・外だから・・大丈夫だとは思うんだけど・・。気分を散々盛り上げてから 宿に戻ってルシ君に迫らせるって魂胆か?) そう考えれば、今日のルシフェルのなにやら可愛らしい様子にも説明がつく。 (・・いや待て、相手は所長だぞ。そんな生ぬるいもんか?・・もしかしたら 青姦狙いってのも考えられる・・・) ブラムは所長の趣味を必死に思い出し、よりいっそう深い思案を 廻らせていった。 「あ、ブラムさん。見て」 「は、はいっ!?」 突然ルシフェルに腕にしがみ付かれ、ブラムはかなり上ずった声で返事を してしまった。慌ててルシフェルの言う方に視線を向けると、 そこには色とりどりの電飾によって飾られた大きなクリスマスツリーが あった。 「・・・すげぇ・・・」 「ね?すごい・・綺麗・・・」 電飾の明かりがツリーに付けられている他の飾りに反射されて更に 大きな輝きを生み出す。高く聳え立つその頂上を飾る銀色の大きな星は、 夜空に輝く本当の星達の中でも色あせることなく堂々とその姿を見せていた。 昼間に見たときには全く存在感のなかったそれであるのに、 今はこんなにもはっきりと暗闇を照らしている。 目の前に広がった夢の中のような煌びやかな光景に、二人は暫らくの間 何の言葉もなく見惚れていた。 「・・・ブラムさん・・・」 「・・ん?」 不意に未だブラムの腕にしがみ付いていたままだったルシフェルが それを離して声をかけてきたため、ブラムは思わず身構えつつ返事をする。 しかし、ブラムのそれに反してルシフェルはしゅんとして俯いていた。 (・・・どうしたんだ?) 当然ブラムは不思議に思い、ルシフェルの顔を覗き込もうとするが・・・ 「・・・あの・・・ごめんなさい」 「・・・へ?」 ルシフェルは突然泣きそうな表情でブラムに謝ってきた。 勿論そんな心当たりなどないため困ったようにルシフェルを 見つめ返すブラム。しかしルシフェルは尚も俯き加減で言葉を紡いだ。 「僕・・ブラムさんへのクリスマスプレゼント・・・何も用意できなかっ たんです・・」 あまりに真剣に謝ってきていたため一体何かと思っていれば・・・ブラムは 大した事のないその理由に思わず柔らかい笑みを零す。 「そんなの・・・別に・・」 「フィアルさんや所長さんに色々アドバイスしてもらったのに・・・ やっぱり決められなくて・・・」 別に構わない<uラムがそう言い切る前にルシフェルは更に続けた。 「だから・・・これ・・・」 ルシフェルはようやく顔を上げブラムを見つめると、自分の耳に つけていたピアスを片方はずし、ブラムに差し出す。 それはブラムがルシフェルにクリスマスプレゼントと称して買った、 あのピアスだった。 「来年、僕がちゃんとブラムさんにプレゼントあげるまで持っててください。 あの・・えっと・・・担保です」 (・・・担保って・・・借金じゃあるまいし・・) ルシフェルの台詞に密かなツッコミを入れつつ、ブラムはそれを受け取る。 ルシフェルの真っ直ぐな気持ちを純粋に嬉しいと感じたのだ。 「来年、楽しみにしてるね」 「・・・はい・・」 ブラムが受け取ったピアスをルシフェルに見せつつ、ルシフェルの髪を ふわりと撫でた。ルシフェルもそれをくすぐったい様な表情で受け入れる。 気が付けば二人は周りのカップル達に紛れていた。 彼らもまたツリーの発している光の中でそれぞれの世界に入り込んで いるらしい。人目も憚らず抱き合ったり、キスをしたりする姿が 目立っていた。 (・・・なんか俺らって場違いって感じ・・かも) ブラムは少しばかり後ろめたいような気になりながらルシフェルに 帰ろうという意志を伝えようとする。 「ルシ君、そろそろ帰・・」 しかしルシフェルはブラムの言葉が聞こえているのかいないのか、ふわりと ブラムの腕の中に納まってしまった。 (・・・へ?・・ルシ君・・?) 「・・・あったかい・・・」 ブラムの戸惑いを後目に、ルシフェルはそっと目を閉じてブラムの体温を 感じている。 「ルシ君・・・」 ブラムはおずおずとルシフェルの髪を撫で、背に腕を回してその細い体を 抱きしめた。するとルシフェルは突如顔を上げ、少しばかり背伸びをして ブラムに顔を近づけてくる。 (・・・え・・・・ちょ・・・この体勢って・・・まさか・・) ブラムがオロオロわたわたしている間に、ルシフェルはその柔らかい唇を そっとブラムの頬の少し下の辺りに触れさせた。 まさに唇ギリギリのところに・・・。 「・・・ルシ君・・・?」 ブラムは体裁ぶる間もない程の不意打ちに顔を赤らめてルシフェルを 見つめ返す。 するとルシフェルは当然のようににっこり笑顔で言葉を放った。 「クリスマスにはこうするのが挨拶なんでしょう?」 (・・・はい?) ブラムは呆気に取られるが・・ルシフェルの次の言葉により それは呆れにも似た怒りに変わる。 「所長さんに教えていただいたんです」 (・・・・あの・・・野郎・・・・・) 周りから見れば、ブラムとルシフェルも他のカップルと同じ風に見えているの かもしれない。 ・・たとえルシフェルは意味が分からない故の行動を起こしているだけで あったとしても・・。 (・・・所長に入れ知恵された割にコレくらいで済んだんだから・・ ・・いいのかもな・・) ブラムはガックリと肩を落とした。やはりルシフェルの恐ろしいほどの 無頓着さはブラムにとって災いなのかもしれない。 「ね、ブラムさん」 「んー?」 今度は一体何なんだろう#シば諦めのついたブラムは気の抜けた返事をする。 するとルシフェルはブラムの腕にぎゅっとしがみ付いて言った。 「宿に帰る間、こうして歩いてもいいですか?」 「・・え?」 (・・・・これも所長が仕込んだのか・・?) 意外な申し出に、ブラムはついつい警戒心を露わにするが・・・・ 「さっきブラムさんにくっついてたらすごく暖かかったから・・・ ・・・ダメでしょうか?」 ルシフェルは恥ずかしそうにそんなことを言ってくる。 (・・・仕込みじゃ・・・ない・・・?) ブラムが答えずにいるとルシフェルはオロオロと戸惑った様子で手を 離そうとした。自信なさ気なこの態度から察するに・・・これは ルシフェルの本心からの行動であるようだ。 「・・いいよ。俺も・・・ルシ君がくっついててくれた方が暖かい」 ルシフェルの髪を撫でながらブラムが言うとルシフェルは嬉しそうに頬を 染めて再びその身を寄せてくる。 「メリークリスマス、ルシ君」 「メリークリスマス」 思い出したようにブラムが囁けば、ルシフェルも照れくさそうに言葉を 返した。どちらからともなく、帰ることを惜しむようにゆっくりとした足取りに なった二人は本当に恋人同士に見えたことだろう。 (・・・コレが本当に全部所長の入れ知恵じゃねぇことを祈ろう・・・) たった一つの切なる願いを抱きつつ、ブラム困惑の一夜は終わりを 告げるのだった。 ―――――――――Merry Christmas |