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始めに
今年の春山は史上まれに見る程雪が少なく温度が高い、言うなれば春山と夏山が同居している状態で、東尾根も上部に至るまで薮漕ぎと雪のミックスが続いた。通常の春山に比べ特殊な条件にあったといえる。私はそうした北アルプスの情報を仕入れずに電車に乗る直前に知ったが、今更変えるわけにも行かないのでほぼ計画どうりに行動をした。他には随分計画を変更したパーテイーもあったと聞くが、結果的には我々にはこれで良かったようだ。
差し入れの多さにびっくり
30日夜、席取りのため7時前に大阪駅ホームに並ぶ、自由席は昨年迄と変わって後ろ寄りになっていた。やがて木―さん、栄田君、栄子さんとメンバーが集合、見送りも生信先生、奥くん、中川さんと来て頂きそれぞれ差し入れを一杯頂く、とても飲みきれない分量である。ホームで、車両で次々と頂くがいっこうに減らない。同じ車両に乗ったぽっぽの会の4人にもおすそ分けする。
大阪を9時9分出発、大津で内田さんが合流、さすがにこの日は乗客も少なく床に足を伸ばして快適に寝る事ができた。
5/1
信濃大町駅5時2分着、計画書を提出して雪の状況を聞く。20年振りの雪の少なさで尾根は薮漕ぎになるとの事、すぐにタクシーで出発する。窓から見る後立山連峰は黒々としている。
鹿島山荘前で木下さんを降ろし大谷原に5時30分着、靴をはきかえゆっくりと出発する。道端にはコゴミが既に葉を開ききり、蕗の董も花をさかせている。
7時、1番荷の重い栄田君を先頭に東尾根に取付く、爺ヶ岳東尾根末端によく似た薮を3ピッチ漕ぐもほとんど雪が見られない。薮に跳ねられた腕がヒリヒリと痛い。
4ピッチ目、やっとまとまった雪が現れるが依然薮漕ぎが続く。ピッケルを出し、所々緩んだ雪をだましだまし渡る、結構ヤバイ。
10時50分、広々とした見晴らしの良い一沢の頭に着く。先には長い尾根が続き第T、U岩峰から荒沢の頭、鹿島南峰が望まれ、スケールの大きさを実感する。
体力的にはここでビバークしたかったが明日の事を考え先に進む。痩せた尾根を薮と雪を漕ぎ、12時50分、あまり広くない二沢の頭に到着。私はかなり疲れていたが栄田君は涼しい顔をしている。内田さんも1年間中級で鍛えた成果か、余裕がありそう。栄子さんは入山前1週間かなりハードな仕事をこなして疲れていたのでバテル事を心配していたが経験でカバー、但しバテル寸前だったようだ!。
取りあえず差し入れのビールを出し乾杯。“美味い” 五竜から爺ヶ岳に続く稜線を楽しみながらゆっくりと味わう。その後、ブロックを切り出し設営するも時間が早いため全員外で1時間ほど昼寝を楽しむ。快晴無風、そのままではミミズ腫れになりそうな程強烈な日射だ。
4時内田さんが天気図を取る。今だ高気圧も日本を広く覆い、低気圧の東進も遅れている。明日の行動中は何とか持ちそうだ。その後、栄子シェフの豪華な料理?と1人突っ込み漫談で宴会、盛り上がる。就寝は7時半であった。
春味を(蕗の董) 散らす楽しさ 寿司太郎
5/2
1時間寝過ごして4時半に起床、急いで支度をして5時55分出発する。今日も温度が高く、雪は柔らかいざらめ状で崩れやすい。朝、上部を覆っていたガスも少し薄れたが、天気は確実に下降しているようだ。薮漕ぎと雪を交え暫くリッジを進む、荒沢側の雪庇もほとんど見られない、物足りないが気は楽だ。
三沢の頭への長い雪面で初めてアイゼンを付け、8時過ぎ第T岩峰の取付きに到着、岩は完全に乾いているのでアイゼンを外す。この頃から風が強くなってきた。
ルート解説では第T岩峰は右のルンゼを登るとなっており栄子さんもかって5月に下降した時、ルンゼを降りたとの事であるが、今回、正面のフェースを登る事とする。
正面フェースは15mと短く、ホールドも豊富で傾斜も緩く見えたので最初ノーザイルで行こうと思ったが、大事を取ってザイルを出す。
栄田トップで取付く、途中アンカー2本をとってスット上に抜ける、調子は良さそうだ。内田が続くが2本目のアンカーの下で詰まる、暫く頑張った後、ヌンチャクを掴んでぬける。
2ピッチ目、森本が取付く。ウン!見た目以上にホールドが少ない、1本目のピンはグラグラしているし、2本目までの斜上は更に細かく、重荷では簡単に行かない。ザイルを出してよかったなーと反省する。ラストの栄子が「エー、見るんと登るんとでは全然ちがうなー。」と言いながらA0で登ってきた。
ザイルをしまい先行パーテイーを追う。ピークから暫くナイフリッジが続く、突風でよろけ荒沢側に振られる。慎重に行動して10時、第U岩峰基部に到着。シュルンドが発達しているのでトラバースせず、第T岩峰と同じオーダーで真っ直ぐ取付く。
1p:U〜V― リッジ状50m 2p:U〜V―(1ポイントA0)凹角30m
2p目の核心部は正面がハングになっているが、足を左右に突っ張り、残置シュリンゲでA0すれば容易に越せる、へたにアブミを使えば完全なハング登りになってしまう。右上の稜線の縦走者が立ち止まりこちらを見ている。
11時登攀終了、木下さんと今日3回目の交信をする。
「木下です、さっき西俣にテントを張たんやけど、庄司がしんどい言うて1人で寝てるから、わし1人で本谷にはいっとんね。それから鹿島山荘の息子がゆーてたけど、北俣本谷も鎌尾根も滝が出てる可能性があるらしんで気―つけていってな。」
「分かりました、よお確認して、やばっかたら赤岩尾根から西沢の方にいくようにします。又連絡します。」
荒沢の頭を過ぎ12時半鹿島槍北峰到着。大休止を取る。黒部側の雲は未だ薄く剣、立山が望まれるが、こちらもかなり雪か少ない。すぐ隣の五竜岳、遠見尾根に至ってはほとんど雪が見られない。
「あの3月の雪はどこに行ったのかしら?」
内田さんが感慨深そうにつぶやく。
北俣本谷は所々亀裂が入り、シュルンドも発達しているため下降をみあわせ冷池に向け出発、稜線にはまったく雪は見られない。風はますます強くなり信州側から上がるガスが吹き飛ばされる。
途中、鎌尾根を偵察しょうとしたが全く視界が効かないため取り止め、赤岩尾根〜西沢下降とする事に最終決定を行った。
冷池小屋に3時10分着、ここだけはたっぷりと雪が残っている。雨がぽつりぽつりと降り出し寒いので小屋に入り大休止後、冷乗越にむかう。
中岩沢、雪のトラバースでは中央にインゼル状にブッシュが露出している。赤岩尾根の稜線も雪が無く、西沢への下降地点が分からないまま高千穂平まで降りてしまった。やむなく薮をこいて雪渓に出て急坂をキックステップで下降、途中で木下さんに無線連絡する。長い西沢を終え、西俣出会いにでると木下さんが迎えに来てくれていた。
テン場では庄司君が六甲から持参した見事なウドとタラの芽、蕗の董等の豪華な天婦羅が山盛りにされていた。差し入れのビールで乾杯、山菜天婦羅を有り難く頂く、その夜は雨の中、遅くまで宴会が続いた。
5/3
ゆっくりしていくという庄司君、栄田君の言葉に甘え、4人雨の中を下山、鹿島山荘に向かう。鹿島山荘ではおいしい山菜料理を出してもらいつい長居をしてビールを重ねる。若奥さんに気に入られた内田さんは請われて貴重な山行記帳表紙に「登高記」と筆で記入、達筆であった。
軽トラの荷台で雨の中、薬師の湯に送って頂く、濡れついでであめは気にしない。入浴後、大町駅前でおいしい店を見つけ食事後、駅にいくと庄司君、栄田君が来ていた。雨が止まないので下りてきたとの事、ご苦労様です。
その後はいつものように飲み続けて帰阪した。
今回の山行では、東尾根隊のサポート役になってしまった木下さん、庄司さんには気の毒な事をしてしまいましたが、無線交信のおかげで安心して山行が出来ました。又、終始、余裕をもってトップをつとめた栄田君に頼もしさを、内田さんからは1年間頑張ってきた成果が出ている事を感じました。栄子さんはムードメーカー役を演じてくれました。皆さんのおかげで楽しい山行ができ、無事に下山できた事を感謝いたします。
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