おそるべし万年青年岩登り団
北アルプス・錫杖岳前衛フェース
MEMBER
==山の虫クレマントクラブ(YMCC)==
川原健一、川原薫、内田祐子
生信良明、中川好治、日野慶三
記録:川原健一


 当会の遠出の岩の合宿は、最近では小川山と屏風岩だけになっている。過去、丸山東壁や剣岳、宮崎の岩場等々、楽しく登ってきたが、実働会員の種々の事情により赴く岩場が変遷してきた結果がこうである。今回、大阪労山中級登山学校で毎年訪れている錫杖岳に会で登ってみようや、たまには違ったところで合宿しようや、と言うことで山行が取り組まれた。月末が絡んで、参加者の都合が思うようにつかず、合計6名の参加者となった。


9/28/THU/晴れ
 茨木駅を予定通りに出発。名神から東海北陸自動車道を経、荘川経由で高山へ。荘川から平湯までの間道を私がガンガン走るものだからナビを車に積んだI先生が感心する。
「何でこんな道知ってんの」
 高速道路でもらった地図のみが頼りの走りです。後は感です。
JR茨木駅 22:00


9/29/FRI/晴れ
 平湯峠を越え、中尾口の駐車場に着いたのは4時。静かに車を降りてビバーク。
 2時間も寝ないのに万年青年のINH(生信さん、中川さん、日野さん)トリオはもう起き出す。
「先に行って下さい。後から追いかけます」
 KKU(健さん、薫さん、祐子さん)トリオはまだ眠い。とも言っておられないので30分遅れで追いかける。
 天狗滝上部渡渉点まで50分。今日は比較的ザックが重い。ビールが6本。6テンセット。その他いろいろ。

 
ブナの木の下にて

大きなブナの木でいつものように錫杖の前衛フェースに一年ぶりの挨拶をし、錫杖沢・クリヤ谷出合へ。先客のテントが3張りほどすでに張ってあり、いい場所がないので先に着いたINコンビが川床を選定する。雨が降ったら引っ越しがめんどくさいからとKKUにHが加わり左岸の岩場の上に固執する。


左方カンテの登攀
 パーティは自然と万年青年組と実質青年組に分かれている。万年は左方カンテと最初から決めていた。我々実質はどうする。北沢を登りきって装備をつけて歩き出したときに決まる。
「私、左方カンテは行ったことがない」と祐子。
「私も左方カンテを行きたい」と薫。
「ほな、そうしようか」と川原。
 生信さんがルンゼ状から取り付いてくれたので、私は左のカンテ状から取り付く。フォローの二人は久々とは言え、登攀技術については何も助言をすることがないので気が楽である。サッサと確保を任せ、登る。生信選定ルートは落石が多い。あそこは冬登ったことがあるが、どん底でもあることから無雪期は浮き石が多く溜まっている。生信さん、それに苦労をしている様子。
 二ピッチ目終了点のピナクルテラス。1978年の12月31日、ここでビバークしたことを思い出す。ジュリーとピンレディーが「抱きしめたい」と「UFO」でレコード大賞を競うのをホエーブスで額を焼きながら聞いていた。その時よりも遙かにここのテラスは広くなっている。そしてピナクルの根元は年月を経たせいか、はたまた地震のせいか、大きくひび割れている。

ピナクルの下にて

 三ピッチ目。ガバホールドで小ハングをのっこしていると、上から懸垂をしてくる3人。兵庫労山のメンバーらしい。
「今週でよかったですね。来週は大阪労山が大挙して押し掛けますねん」
 もとよりそれを見越してこられた様子。少し恐縮する。
 四ピッチ目。スクイズチムニーからチムニーへ。5〜6m程の距離でランニングが採れない。
 五ピッチ目。右岸のフェースから大木を巻きチムニー下テラスへ。ここにも懸垂を掛ける2名パーティ。後で聞くと、生信先生に雪崩講習会で教わった1人がいたらしい。これも兵庫の人。
 六ピッチ目。超巨大岩石と左方カンテのフェースで構成されたチムニーの登攀。ホールドスタンスの採り方によって易くも難しくもなる楽しいルート。カンテからモナカの下に出る。

チムニーからリッジへ

 七ピッチ目。モナカスラブのボルトに沿って直上。本来なら少し左を登るのだが今回は登っていない所を選定。50mいっぱいで終了点となる。

 祐子と薫は初めての左方カンテに感激している。霞んでは現れる遠景に一喜一憂しながら余韻を楽しんでいる。行動食と水をゆっくりと楽しんで、私も余韻を楽しむ。何遍来ても良い所だ。はたして何回来たのかな。6回か、7回かな。

 下では万年隊が頑張っている様子がうかがえる。時折の生信先生のコールが静寂を破る。彼は今夜、齢67を越えんとする。果たしてこの年でアルプスの岩場を終始リードした人間がかつていただろうか。後を努める中川さん60歳、日野さん58歳。平均年齢61.6歳、合計年齢185歳のヴェテランパーティだ。

 夕闇が訪れようとしている。彼らは下降路がわかっているだろうか。生信先生は10年くらい前までここに来ていた。中川さんは3回ほど左方カンテを登ったと聞いた。私は必ずしも夜の歩行を得意としない。2人は手弱女(どこが!?)だ。よし、下ろう。ここまで待ったが限度だ。無線は通じないが相変わらず入れっぱなしにしておこう。

 踏み跡を上部に見える岩壁までまっすぐ辿り、突き当たりを右へ10数m、行き止まりで草付きルンゼを直上すると烏帽子岩へ続く稜線に出た。ここを右から来る踏み跡と交差するまで進み、そこで左へ取ると烏帽子の岩小屋へ出た。

烏帽子岩暮れゆく

 西肩を踏み、裏側のラビーネンツークへ降りる。急な草付きから笹の岩溝、灌木が現れる辺りから暮れかかってくる。ザーッザーッザーッ、すごい勢いで道なき道を行く人あり。
「お〜い」
 とっさに声を掛けながら気づく。熊だ!!私の声を聞いてザーッが止む。笹の中で奴もこちらを伺っている。10秒か、1分か。ラビーネンツークへ近づきながら歩いていた奴は明らかに鈍角に方角を変え、下降路から離れて行った。ホッと胸をなで下ろしながらヘッドランプを出す。なぜかはシラネド、ヨイショ、ヨイショと言いながら歩いている。大きくため息をつきながら歩いている。そうせずにいられないのであった。

 幕営地に着き、無線を入れると中川さんが出た。
「今どこですか」
「只今、烏帽子の見える稜線上...」
 あそこか。下山は22時くらいやな、それともビバークか?そのまま烏帽子へ向かってまっすぐ行ったらいい旨を伝え、無線は引き続き開局しておく旨を伝える。
 心配はしながらもビールを飲み、食事を楽しむ。睡眠が足りてないから横にもなる。5分10分のウツラウツラの中で聞く手弱女らの話も弾んでいる様子。

「オッホー」
 静寂を破る生信先生とおぼしきコール。ラビーネンツークからクリヤ谷に無事降り立ったのだろう。ヘッドランプの明かりはまだ彼らには届かないが、テントから出てそちらの方向に光線を当てる。そう言えば数年前の夏合宿の岳沢でも、畳岩からの下山が遅れたパーティにランタンを振りかざして合図を送ったっけ。早く帰ってこい。

「ヤアヤア」
 そんなに疲れた様子もなく三人は帰ってきた。よかった。無事全員集合。これでもう一度ゆっくりとビールが味わえる。生信先生の68歳前夜祭だ。おめでとう。ありがとう。中川さんも日野さんも楽しそうに今日の一日を語る。よかったね。みんな楽しめて。一日中楽しめて。
4:00 中尾口       7:30
8:10 渡渉点       
9:00 錫杖沢出合    10:00
 左方カンテ取付  11:20
16:20 左方カンテ終了点 16:40
19:00 錫杖沢出合       


10/1/SAT/晴れのち雨、夜に大雨
一ルンゼの登攀
 今日はKKUだけが登攀。INHはキノコ研究となった。
「まだ起きへんのか」
「今日は岩止めるの。キノコ研究か」
 IとNが姦しい。もう少し寝かじでぐで〜〜^^;。

 クリヤの岩小屋から行ったが近いのか、北沢を登ったが近いのか、未だに解決しないこのルート取りを、今日はクリヤ側からと決め出発。キノコ道だが今週はまだ早い。三ルンゼに人影はなく、2・3間リッジもそう。左へ回り込むと兵庫労山の3名と出くわす。1人は黒木さんと名乗り「救助隊ではお世話になりました」とのご挨拶。そう言えば知ったお顔だ。一ルンゼにはすでに彼らの仲間が取り付いているとのこと。かなりゆっくりと出発した我々だから、ちょうどよかったようだ。

 最下部から登るのが一ルンゼの楽しみ方だ。濡れたルンゼの芯を避けて、カンテ横から取り付く。50mいっぱいでルート図2P終了点まで届きそうだが止めておく。
 2P目。10m程延ばすとトラバース道からのテラスに出た。男女パーティが登攀準備をしており、男性が決まり悪そうに挨拶をする。どうやら彼は我々の先に割り込んでしまった、と思っているらしい。気にすることはない。こちらが全く気にしていないのだから。
「本当はここの下2ピッチが楽しいんですよ」
 中級でもよくここから登っているが、全くもったいないことではある。ピッチを切らずに登らせてもらい、ルンゼの中で切る。
 3P目。彼らが流芯を登っていくので右岸へ出る。少しザレた三級のリッジ。途中で一時立ち止まり、フォローの2人にルンゼから出るよう促す。続けて登り、おおむね60mで窓際テラス着。窓際テラスとは中級登山学校で勝手に名付けたもので、ハング下の6テンが一張りできそうな所のことである。なぜ窓際か、と言うと、ハングの登攀待ちで為すこともなくここで待っているクライマーの状態を例えてのものなのであります。なお、ここで佇むクライマーをwindowsと呼ぶことにしましょう(来週見られるかも?)。


一ルンゼハング上の二人

 4P目。左のクラック状を行こうと思ったが、長くwindowsをやっていて登ったことのないハング(本来ルート)を行くことにする。ちょうど先行の2人が抜けきったころだし。庇まで突き上げて左へトラバース。中級受講生はどうやらこの辺りで毎年苦しんでいるようだ。頼みの綱のトラバース先のアングルピトンは、よく見ると剥げ落ちそうな岩に噛んでいて何とも健気である。
 3人がハングを抜けるとポツポツと雨粒が落ちてきた。終了点まで抜けるのは今回はあきらめよう。あっさりと合意し、懸垂を掛ける。トラバースルートで可憐なカラマツ草を愛で、もと来たキノコ道をゆっくりと下る。
錫杖沢出合  7:00
8:00 1ルンゼ取付  8:30
12:00 ハング上から懸垂 12:30
14:30 錫杖沢出合   16:15


コスモス畑にて


表紙へ 岩へ  祐子の錫杖岳へ


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