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はじめに
地震の影響で、昨年は南アルプス・北岳で行われた中級登山学校だったが、今年はまた錫杖岳で行われることになった。
二年ぶりの錫杖は懐かしく、また、昨年の受講生のほとんどが初めての錫杖岳であり、彼らもことのほか興味を持って望んだことだろう。
全日快晴に恵まれた中で行われた中級登山学校修了山行の模様を述べる。
10/7/THU
職場から直行の出発は慌ただしい
職場から集合場所の森ノ宮へ直行の時は慌ただしい。妻が一緒の山行の時はここまでザックを持ってきてもらえるのだが、今日は中級なのでそういうわけにはいかない。朝一で近くの駅のコインロッカーに預けたザックを回収し、汗だくで到着。革靴を脱いで、ネクタイを外し、カッターシャツを脱いで、身も心もやっと山行きモードとなる。
10/8/FRI 快晴
明け方から睡眠が深くなる私としては、奥飛騨温泉の道の駅で仮眠をする頃が一番眠い。しかし、中級では夜も明けきらない内からバスを降り、錫杖岳への登山道を歩き出さねばならない。幸い、歩き出す頃にはしっかりと目は覚め、夜も明けてくる。
クリヤ谷の渡渉点にいつものようにザックを置き小休止。顔を洗ってリフレッシュする。水はあくまでも清く透き通っている。飲めばおいしいのだが、上流でかなり汚されているので止めておいたほうがよい。
ブナの広場で錫杖岳の偉容を眺め、ひと歩きすると錫杖沢出合のベースに着いた。
今日はどこを登ろう。左方カンテと1ルンゼは中堅層に譲れ、古株は登ってはならない、との伊東校長のお達しがある。まあ、全員出払ってからゆっくりと出発しよう、と坂本君と山岡さんには言っていたので、ゆっくりとベースを設営する。しかし、歩き出すと、上流の岩小屋にベースを設営した小寺パーティに続き二番目を歩いている。まあいいか。
心入れ替えたんか
北沢を詰めて左方カンテの取り付きを窺うと誰もいない。ここを真っ先に登っても誰にも迷惑は掛からないかも、と思っていると林パーティがやってきた。仕方がない。ここは彼らに譲ろう。一ルンゼ左ルートは青木パーティ、鳥居パーティが取り付くと言っていたがこれも空き。よし、ここにしよう。
靴を履き替え、取り付こうとすると青木パーティが着いた。
「川原さん、えらい早いなぁ。心を入れ替えたんか」
「そうでんねん」
決してそう言うわけではないがそう言うことにしておこう。
「ハヨ行きや」
「よっしゃ。けどあんまりせかしたらあかん」
青空の下で快適な登攀
一ルンゼ左ルートの取り付きはいつも濡れていて気色悪い。ピンも欲しいところになく、手も足も決めにくく結構手強い。しかし、取り付きさえ抜ければあとは快適な登攀が楽しめる。
二ピッチ目は坂本君に行ってもらう。小さな落石が起きて青木さんの手にあたる。
「痛っ。気い付けや」
「すみません」
坂本、必死に謝るも青木氏、
「ワシ、執念深いネン」
三ピッチ目。
フェースを右上。リッジ伝いにルンゼの中のハング下まで延ばす。
二人を呼ぶが如何にも狭い。
サッサと確保を任せ、四ピッチ目を伸ばす。
「登ってんの誰?」
下から鳥居さんの声がする。快適なオポジションでジェードル状を登る。ピンが多く、プロテクションは取り放題と言ってもいい。
ブナの木で確保を取り、二人を呼ぶ。ダブルザイルを連続三回引いたらビレー解除。ザイルアップの後、どちらかのザイルを連続三回引いたら登ってこい、だ。声は補助的に掛けるが、必ずとは限らない。これで意志の疎通に問題はない。
五ピッチ目。
スラブを登ると一ルンゼ本流ルートと合流する。一昨年はここで大勢の中級のメンバー合流したが、今日は誰もいない。そのギャップに何とも言えない寂しささえ覚える。
スラブからルンゼを登ったところに誰かいる。このはな・稲田パーティだ。
稲田さんは終了間近のルンゼの分岐を左から抜けようとしている。私は右に採る。二人を呼ぶ。
ここを抜ければ横断バンド、慎重に行こう、と六ピッチ目を延ばす。隠れているハーケンを有り難く使ってバンドへ出た。
坂本、山岡と続くが坂本の時にまたもや今度は大きな落石。
ど〜ん!
ガラガラ
ガキ〜ンンンン
思わず体が縮こまるような音をたてて岩は本流の方へ落ちていく。
「ラ〜〜ック。ラ〜〜ク」
硝煙の臭いが確かに岩が落ちていったことを知らせる。岩にザイルが絡んだらしい。下に誰もいず、大事に至らなかったのは幸いだった。
七ピッチ目。
水のルンゼを登ろうとしていると小寺パーティがV字岩壁を終えて歩いてきた。今年は登攀の終了が例年になく全体的に早い。
終了点でレギュラーコーヒーを湧かし、雲一つない槍穂の稜線を眺めていると、中級での年々の修了山行のことが思い出された。
毎年こうやって眺めていたなぁ。
ある年などは一ルンゼの最終パーティを待ってから帰れ、と言う校長の指令を受けて、ランボー串畑氏やくすのきの小川氏らと暗くなるまでここに佇んでいたこともあった。全員登攀が終わり、帰りなんいざ、と無線でその旨を告げた。遙かなる錫杖沢出合のベースキャンプではそれを待ちかねていたようにファイヤーが大きく燃え上がり、無線から「プシュ〜ッ」という音まで流してくる念の入れよう。
「カンパ〜イ」と言う声を聞きながら苦笑いしつつ唾を飲み込んで下山にかかったことがあった。
思いに耽っていると「ピューッ」という甲高い口笛。左方カンテの林パーティも終了。COWACの酒井さんが終始リードしたようだ。
時計を見ると13時30分。いい時間だ。これからゆっくりと茸など観察しながら下山すれば16時にはベースだろう。ほとんど毎回、暗くなってから到着していたことを考えれば夢のような時間だ。
ラビーネンツークはブナの倒木が目立ち、その面では例年より茸発生の条件はあったが、残念ながら湿り気がもう一つ足りなくて例年よりは若干少な目の発生だったろうか。それでも多くの茸を観察した。ぶなはりたけ、ヒラタケ、ぬめりつばたけもどき、ナラタケ、ならたけもどき、アシグロダケ、さんごはりたけ、ナメタケ、つきよたけ(これは毒)他。
中尾口 5:40
− 7:00 錫杖沢出合 7:30
− 8:10 一ルンゼ左取付 8:30
− 12:30 終了点 13:30
− 16:30 錫杖沢出合 *
10/9/SAT 快晴
ゆっくりと出発
基本的に暗いうちから歩くのは苦手なので、坂本君、山岡さんの了解の上で、ゆっくりとベースを発つことにする。
朝食のアルファ雑炊をおいしくいただく。結構おいしいので二杯いただいた。
コーヒーを味わって6時過ぎに出発。ベースにまだいる林パーティに声をかけ、クリヤの岩小屋を経由して行くが、ここにはさすがにもう誰もいない。いくら何でもこんな時間までテントにいる人はいない。
「Hさん、Nさん。現在位置をお知らせ下さい」
本部が呼んでいる。
「はい、ノブです〜。あの〜ぉ。まだテントにいます」
いた!!
あまり悪びれた様子もなく元気な返事が返ってくる。
「平信さん、今どこですか」と聞くと返事はない。後で聞くと、結構恐縮していたらしい。
二・三間リッジの登攀
二・三間リッジを登るのは二回目である。
青木氏に言わせると、ようあんなガラガラのとこ登るわ、となるが、そうでもないですよ。しっかりとした壁です。
基部につくと川田パーティ、稲田パーティが三ルンゼ登攀の準備している。私はここを登る機会になかなか恵まれない。田中パーティがやってきた。彼らも今日一緒に二・三間リッジを登ることになっている。
「あ〜れ〜っ!?」
先に我々がいることが納得いかないらしい。ベースでクリヤの岩小屋から行くように声をかける間もなく、彼らは錫杖沢を詰めていってしまったのである。
本来の取り付きを田中パーティに譲り、我々は三ルンゼすぐ左のブッシュから登ることにする。
二・三間リッジの取り付きは結構わかりにくい。二ルンゼははっきりしているのだが、ピンが見あたらず田中氏もルートを探しあぐねている様子。しばらくして方向が決まったらしく、快調ににザイルが流れる様子が窺えた。我々の一ピッチ目終了点から彼が伸ばしたザイルが見えている。
二ピッチ目はそれを跨いで二ルンゼに突っ込む。ブッシュからガレ場となる。まともなピンはない。比較的緩傾斜である。5m程下に二人が来て確保する。
三ピッチ目。
ルンゼを詰める。
田中氏は右の脆いスラブからスカイラインへ出ていく。
チョックストーンを越してからルンゼを離れる。前回これをまっすぐ登り、脆いチムニーに手こずったので今回はそれを避けたい。
起ったリッジの有り難いスタンスを使って回り込み、狭いチムニー状に肩を強引に押し込んで登る。スカイラインに出ると三ルンゼの登攀者が目に飛び込んできた。
四ピッチ目はジェードルからフェース。三〜四級の快適登攀だ。
五ピッチ目。
リッジの今にも崩れそうな小さい岩頭にスタンスを求めフェースを登る。
小さなハングを二ルンゼ側へ回り込むがあまり芳しくない。手前の丸いスラブ状の小さなスタンス使って五級の一歩、と書かれたところを乗っ越す。そこからわずかでしっかりした木のビレーポイントに出た。
六ピッチ目。
取り付きに水が滴り落ちてくるが登攀には影響ない。
上部が黒ずんでいるところを目指して5メートルをフリーで登り、その後あぶみ登攀となる。25mを登ると垂壁は終わる。有り難い腐れシュリンゲを優しく掴み、木の根っこに縋り付いて緩傾斜帯に出た。
緩傾斜帯の踏み跡のついた笹藪を20m程歩いてバンドに出る。風雪や登攀者にいじめられて縮こまってしまった灌木にビレイ。ごめんな。
七ピッチ目の取り付きはバンドを15mほど右へ回り込んだ所にある。
被ったクラック状に張り出した太い木に縋り付き、脇を載せて強引にせり上がる。苔むしてはいるが乾燥した岩のホールドを拾い、枯れた木の根に誤魔化されないよう慎重に登ると終了点に出た。
ああ、やっと終わった、とはどんな思い?
ここは針葉樹の葉っぱに刺されて半袖の腕が痛いので緩傾斜をもう少し登る。20m上部の独立した灌木に確保。山岡、坂本を呼ぶ。
三人揃って握手。握手。
「ああ、やっと終わった」
「終わりましたね」と山岡と坂本。
「何がどうヤットやね」と聞くと
「う〜ん。いろいろと...」
そうか。それは感慨深いものがあるだろう。私は中級を経験したことがないのでわからない。
岩小屋で山賊?に会う
田中氏に、終了点はここがいい、と無線で伝えたので彼もここまで登ってきた。それを確かめて下山を開始する。
吉田の周ちゃんと船田さんが烏帽子岩東稜を登っている。
「先に帰るよ。気をつけてな」
「は〜い。ありがとうございます」
小寺君といい周ちゃんといい、いつも快活な好青年達だ。私にもこういう時代があった?
烏帽子の岩小屋には思いも掛けず青木、鳥居パーティがいる。
「やあ、やあ、ご苦労さん」
にぎやかな再会の挨拶。しかし、この人達にここで夜いきなり会ったら怖いような気がする。西肩では林・酒井他のパーティが休憩していた。烏帽子登攀組の帰還を待っているのだろう。
「暗いのは苦手だから、先行きま〜す」
ワシのビールあれへんやんか。S井、大いに怒る
思いも掛けず早くベースキャンプに着いてしまった。今年も歩荷人夫K君他が中尾口からここまでビールを上げてくれていた。全員が帰るまで、と思うが登攀は終了したと言うことだし、と言うことで、昨日、今日とベースで二日間本部をしてくれた杉山氏を交えてやむを得ず乾杯。
今日もキノコがたくさん観察された。ビールがすすむんだことは言うまでもない。事務局がせっかく計算し尽くした量のビールを、(飲まない人の分を戴いてもいいだろうなどと)よけいな再計算をし、足りなくしてしまった人もいたようだ。(飲まないからと言うKBさんの分を1本いただき、私もk畑さんやS井さんにご迷惑をお掛けいたしました。すみません。ところであと4本は誰ですか?)
錫杖沢出合 6:15
− 6:45 二・三間リッジ取付 7:15
− 13:30 終了点
13:45
− 15:30 錫杖沢出合
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10/9/SAT 快晴
中尾口にて露天風呂入浴。砂防会館を見学して説明を受ける。ここに勤めておられたOBの方々が作成された模型などがリアルで興味深い。
広場でビールを握ってくつろぐ。茸観察の情報も多く、これらの話を肴にビールが進んだことは言うまでもない。
帰りのバスはそこそこにいつものように楽しみましたが、やはり岩登りの疲れのせいか、はたまた良識派が増えたのか、一時ほどの勢いが伺えず、少々残念でした。
おわりに
今年は例年になく登攀終了時間が早く、また岩場も混雑せずに快適に登れました。事務局やスタッフの皆さんの苦心の成果だと思いますし、コーチの皆さんの心配りや生徒の皆さんの努力の結果だと思います。
伊東校長、スタッフの皆さん、一年間ほんとうにご苦労様でした。
END
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