98‘中級前期登山学校修了北岳山行・1パーテイーからの報告

記:YMCC 森本

パーテイー編成 コーチ 森本孝司(53)  YMCC

         生徒 柴原 健(36)吉田伸治(31)共にぽっぽ会


10月9日(金)
 バスが予定より3時間弱遅れ広河原にAM10時前到着、すぐに出発する。素晴らしい快晴で北岳が真近にみえる。

 大樺沢沿いに上がると茸が目に飛び込んでくる。行きの土産(?)に少々鑑賞していく。2升+αの日本酒をはじめ共同装備で重たい柴原君そして吉田君共に元気である。
 途中、先行したパーテイを追い越して11時30分、2俣に着いた。予定では4尾根主稜を登り切りビバークの積もりであったが夜間登攀は避けたいので少し迷う。
 今日は白根御池でのんびりして明日はフランケに切り替える等と、甘い考えがよぎるがビバークの経験も大事と思い直し、荷物を1部2俣にデポして予定どうり4尾根に向かう。
 結局、ビバーク組で最終になってしまった。1般道からD沢の水場を越し回り込んで尾根に取付く、沢から離れないようにルートを取ると上部までしっかりした踏み後が続く。D沢の手前から取付いた先行パーテイは薮漕ぎを強いられている。

 2俣から約1時間で下部岩壁につく、アルバイトをした先行パーテイーにここで追いついた。
 青木P(パーテイーの事、以下省略)、吉田Pはピラミッドフェースルートを登り、C沢ルートは我々1パーテイなのでのんびり登れると喜ぶ。
 川原P、鳥居Pはどこに行ったか姿が見えない。この頃からガスがかかり風も出て、冷え込んできた。
 登る直前、伊東Pが登ってきて
「森本さんがC沢を登るとはしらんかったなー」とつぶやく。どうやら彼らもC沢を登るつもりのようだ。
「悪いなー、先に登らしてもらうわ」と取付きに向かうが、ここにはビレーピンが無い、柴原君にハーケンを打ってもらう。どこもかしこも脆いのでしばらく探した後、ハーケンを打ち込む、高い音色が出て良く効いたようだ。


下部岩壁(1時10分取付き)
1P 右の凹角から取付く、傾斜は緩いが良く磨かれ滑りやすい、慎重に登り、ハング手前で確保。

2P 左に回り込むとバンドにビレー用ピンが有った。直上してかぶり気味の岩の右端を抜けブッシュ帯に入り潅木で確保。

3P U級のブッシュ登りを柴原、吉田に先行してもらう、3m程進んだ時、足に触れたのかこぶし大の落石を起こしてしまった。
「ラク―」
1P下のテラスには伊藤P3人が固まっている、その背後30cmをかすめて落ちていった。このままでは又、落としかねないので引き返してもらい右上気味に登ってもらう。ここなら万一落石をしても後続に当たることがない。
 これを反省して以後パーテイー全員で落石には徹底した注意を払った。その後は北岳頂上まで落石無しでいけたのは、この時の学習効果のおかげである。

 

 C沢上部入口でザイルを外し滝上部をトラバース、浮き石だらけで動く石を押さえつけ1歩1歩慎重に行動する。翌日、4尾根中間部から見下ろした時、ここをザイルを付けたまま行動していたパーテイーがいて呆れてしまった。落石を起こすだけでなく、自分のザイルを痛める事も考えていない。

 落石を起こすことなく沢を渡りホットとする。ブッシュ帯の踏み跡をたどり大きなテラスに出ると左のピラミッドフェースを青木Pが登攀中であった。上部から懸垂で降りてきた、他パーテイーとすれ違いブッシュ混じりの凹角を40m登る。そこは長いバンド状で、左はリッジの取付きとなり、右は4天程度の格好のビバークテラスとなっていた。

 左のリッジには既に川原Pが取付き、鳥居Pは取付きで待機していた。彼らはB沢を登り左にトラバースをして早めにここに着いたらし。、予定どうり今日中に4尾根をぬけ上部でビバークをすると言う。

 時間は14時半、微妙なタイムだが我々はここまでとしビバークの準備に入る。右のテラス下部は垂壁の壁でなく60度程の傾斜のブッシュになっていたが落ちれば無事ではすまない。しかし、ツエルトに比べテラスが大きいため、今回はザイルを直接体にセットする方法をとらずツエルトの回りにザイルを張り巡らし、ツエルトを出る時点からフイックスザイルにセルフビレーをセットする事とする。

 その日は北岳特製のきのこ鍋から始まり、両君持参のアテ等なかなか結構な夕食を楽しむ事ができた。天気も回復しツエルト内が明るい程、月が照り輝いていた。


10月10日(土)
 寒さで早めに目が覚めた、ツエルトの中はびっしょりと濡れ外の草は微かに凍っている。氷点下になったらしい。用意を済ませ取付きに向かうが下のテラスでビバークしていた伊藤Pにタッチの差で先を越された。待機中、富士山の左に上がるご来光をのぞみ思わず歓声を上げた。こんな素晴らしいご来光はそうそう出会えるものではない。

4尾根主稜(6時10分取付き)
―2P ルート図の取付き手前2Pから取付く、リッジ状を登りやや被ったフェースを右にまきテラスに出る。

−1P 優しいフェースを登りルート図の取付きテラスにでる。このテラスは大きい。

 1P 凹角奥のクラックに手と足をきめ登る、良く効いて楽しい。草付きからテラスで切る。

 2P 傾斜の緩いフェースを行く。

 3P 白い岩の長いクラックから右のリッジにつなぐ、第2のコル手前3mでザイルが1杯となり、這い松とフレンズで確保。(1P省略)

4P 3m程の細かい垂壁を登り、リッジを行くとマッチ箱のテラスに出た。伊東ちゃん確保してテンションで横山、木浪生徒を下のテラスに降ろしている。我々はその地点より3m程先に有る別の懸垂支点で、同じくセカンド2人を降ろす準備に入る。ここは見透しが良く中央稜を登る鳥居P、Dガリー奥壁の青木P、4尾根上部で取材中の川原Pが真近に見える。

 5P 2人をテンションで降ろし、私は1本のザイルで懸垂をして少し上のテラスで伊東Pと合流する。真近に見るDガリー奥壁は傾斜は緩いが硬く磨かれたスラブで登攀意欲を誘う。ホンチャンでこんな岩場は少ない。
「どおー、そのルート」と青木君に聞くと
「すごく細かいし、ピンが少ないので緊張しますわー」と答える。宮本、豊嶋は大きな荷物を背負い青木君の後を登攀している。
 伊藤Pは計画を変更して奥壁を登る事に決め、ザックをデポして懸垂を始めた。我々も奥壁に変更しようと思ったが、今朝、白根御池から登ってきたパーテイーが続けてDガリー奥壁取付きに登ってきたのが見えたため当初の予定どうり中央稜を登る事とし、枯木テラスへ向かう。枯木テラスから望む中央稜は脆そうで迫力がある。

「森本さん早く来てやー、わしらだけでさみしわー」と鳥居ちゃんが上の方からコール。
「おー、すぐ行くわ」とこたえる。

中央稜ノーマルルート(懸垂開始10:30、登攀開始11:10)
懸垂 枯木テラスから外傾ぎみのバンドを残置ロープにぶらさがって3m進むと懸垂用のシュリンゲが有る、柴原に懸垂のセットを指示、そのまま懸垂をしてもらう。
 20mの空中懸垂の後、浮き石だらけ斜面がガリー底まで20m続く。後続の落石を避けるためにガリー右岸の岩陰に隠れるように指示を出す。吉田が懸垂に取り掛かる直前Cガリーチムニー上部より頭大の落石が10個程落ちて来るのが見えた。

「落―落―」
 煙を立ててCガリーを落石が転がっていった。
「おーい大丈夫かー」
「大丈夫ですー」
 柴原が懸垂する前の出来事であれば終了山行としてはリスクが大き過ぎると判断して中止するところだが柴原1人ほっていくわけにはいかない。又、落石の流れ、通り道は出鱈目に有るのではなく地形によってほぼ同じような道を通るものである。Cガリー右岸に張り付いていけばまずCガリー上部からの落石に当たる事は無いと判断して行動を再開した。
 吉田、森本とCガリーに降り、ザイルを回収して上部に歩き出した途端、唸り音と共に右岸(4尾根)上部からの空中弾に襲われた。慌ててハングした壁に駆け込む、吉田のヘルメットとザックに小さい石が当たるが幸い怪我はない。思わぬ方向からの落石に少なからず動揺が起こった。
「落石が止むまで動かんとこう」と岩陰で身を潜めるが落石は断続的に起こり止む気配が無い。後で分かった事だがこの落石は人為的落石であった。退却する事も考えたがこの場所は安全にエスケープできるルートは皆無であるし、いつまでも待機するわけにはいかない。
 3P目までいけば落石の危険から解放されるためそこまですばやく登ろうと決め1P目を目で追う。1P目は何とか岩に身を隠しながらいけそうと判断して「ほんならいくからなー」と言うと、「はい」と2人から返事があった、なかなか根性があるなーと感心した。

1P ルート図どおり取付けば落石に身を晒すため、5mてまえのかぶり気味の壁に取付き細かい逆層のフェースを右上、通常のルートに合流してかぶったバンドを左上しリンネ(ルンゼ)末端テラスで岩陰に体を付け確保する。かなりの緊張でいつもに比べ息が荒い。

2P このリンネは身を隠すところはないがやさしいのでスピードを上げて登る。この頃から落石はとまった。(先行者が上部ガラ場から抜けきったため。)

3P やさしいバンドを右斜上する。他会パーテイー(加古川労山?)2人が我々が1P目に取付いた時、懸垂で降りてきて後ろにつく形になったため落石を起こさないように非常に気を使う。このバンドも浮き石だらけだ。ハング下でピッチを切る。

4P 上に2ヶ所ハングが切れた場所があり左のハングから乗越し、さらに右寄りに直上するもピンが無くいきずまり下降、第三ハング下で確保。あとで分かった事だが途中で右に抜けると易しく稜角にでれたようだ。

5P 私が登り始める頃、後続のパーテイーが上がってきてしばらくうろうろした後、我々と同じピンで確保を取りたいと言う。ハーケン主体のいま1つ信用できないアンカーなので良い気はしなかったが他に適当な所が無いので「どうぞ」と言って譲った。
 左上のくびれたハング部分を目指して登り、出口下に有る岩の突起に触れるとぐらっと揺れる。胴体ほどの大きさでこれに巻き込まれればまず助からない。他に適当なホールドもハーケンも見当たらないため降りて他のルートを探す。

「森本さん、右、右の稜やで」と4尾根上から青木君がアドバイスをくれる。念のために右にトラバースするも上部はより大きくハングしてピンも見えない。あそこしかないと思い先ほどの地点に戻り再トライする。よーく探すと指が入る横リスが有る。
「よし、これで行ける」
 揺れる岩に触れないよう慎重に乗越しホットする。少し登りテラスで確保体勢に入り、振り返ると何と4尾根上部には30人程の中級メンバーが揃いこちらを注視しているではないか、先ほどまでは数人しかいなかったが最終パーテイーの我々を見に来たようだ。

「オーイ」
 みんな一勢に手を振ってくれる。私も答えて手を振ったが非常に恥ずかしかった。
 セカンドの吉田登り出すもハングで詰ったのかなかなか上がってこない、覗き込もうした時ザイルが引かれる「オー」4尾根上で一勢にどよめきが起こる。すぐに止め、声をかける。幸い怪我も無く登り直してきた。
「森本さんの登った少し右を登ったんですけど乗越しで指を置いた岩が欠けてしまいました。振られたけどどこも打たなかったです。すみませんでした。」と吉田、彼も皆に見られて恥ずかしかったろう。怪我が無くて何よりだ。
 ラストの柴原は私と同じ所を慎重に登ってきた。
「お助けナッツあって良かったですわー」と柴原謙遜する。

6P やさしいフェースをゆっくりと登る。もう急ぐ事はない。広いバンドで確保。

7P 階段状のフェースを登ると泥と浮き石の詰ったルンゼに入る、ここは落石無しでは行けそうも無いので左の這松に突っ込み終了点に出る。後続も同じルートをとってもらう。

「おめでとう。」
 3人揃ったところで柴原、吉田両君と握手を交わす。さすがに嬉しそうだ。(14:50)

 北岳頂上から何人か手を振ってくれる。答えてパキングをし、すぐに頂上に向かって出発。

 頂上までの草付きには浮き石が多い。もう中央稜下部には誰もいないと思われるが1つも落石を起こさないよう3人で気を使う。最後は又、這松に突っ込み頂上直下に至る。(15:15)

 頂上には中級登山学校関係者の大半が集まりこちらを眺めている、なにやら晴れがましい気分だ。その中に本格的なアンテナをたてたアマチア無線者がまるでアナウンサーの様に大きな声で我々の事を実況放送風に喋っていた。
「ただいま、にこにこ嬉しそうに笑いながらクライマーが上がってきました。仲間でしょうか、大勢の人が出迎えています。・・うん・ぬん・・」

 イージーライダーの私は皆を待たせてしまった事も考えず、単純に嬉しくなってしまい「ばんざいー」をして、米沢校長を始め手当たり次第握手をして廻った。

 その夜は、白根御池のテン場でワインやビールの差し入れを頂き大いにもりあがった。いつまでもS井、K下君の奇声が聞こえたがまあー今回だけは許す事としよう。

 今修了山行はまれに見る素晴らしい好天に恵れ、結果的には無事に終了する事ができたが、それぞれのパーテイー内では反省すべき事が多々あったと思います。修了生の皆さん小さな事もきちっと反省と考察をして次回山行に生かしてください。それが自分を危険から守る事に繋がっていくのです。 

中級修了生の皆様、又岩場でお会いしましょう。


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