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天保の柿泥棒 其の五 大川弘光 |
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| 科人(とがにん)が荒縄でくくられ、三日三晩、飲まず、食わずで風に晒(さら)され申したら、いかばかりか。おおかた大方、正気を失う、泣こうが、喚(わめ)こうが、縄を解かれる事なし。山犬が近寄ったり、運悪ければ凍(い)て死ぬこともあり、幸い耐え抜いたとしても、足腰立たず、山坂を転げ落ちるしか御座無く候。 このお仕置き、正義が肝要(かんよう)なり、無暗に使うにあらず。伝え聞くところによると、近頃、バテレンはびこり、アラブの油欲しさに、イスラムに攻め入っているとか、幕府におかれても、俄(にわか)に蝦夷(えぞ)地の民、百姓をかき集め、出兵せよ、との号令をお下(くだ)しなされたとか、将軍様はもっぱら江戸城内で采配(さいはい)をお振りなされているとか、噂なり。昔の侍大将は自ら先陣を切り申した、武士道も地にお堕ちたり。バテレンの黒船それほどに怖いか、合点(がてん)がいかぬと、下賎(げせん)の者共うるさい事に御座候。いやはや、これは 御奉行様、将軍様は 御奉行様のお上にあらせられ候ほどに、平(ひら)にご容赦(ようしゃ)のほど願上げ奉候(たてまつりそうろう)。 さて、件(くだん)の渡世人一統(いっとう)に懲罰(ちょうばつ)を下す事、村三役、及び、与之介、合意により次なる條々(じょうじょう)をもって対したく 御奉行様の格別のご配慮を願上げ奉候(たてまつりそうろう)。 なお、この書状は三田の住人利左衛門(りざえもん)≠ネる商人(あきんど)に託したく、万事(ばんじ)よろしく申し上げ候。われら、もとより大坂の公事宿(くじやど、訴訟人が泊まる定宿)に泊まる路銀(ろぎん)なく、止むを得ざる事と存じ候。利左衛門は長年、西谷へ香茸(こうたけ、香りが高いキノコ)を買付けに来る商人で、道修町(どしょうまち)の薬種問屋へ卸すとの事。秋口に、村人好きずきに山へ入り、香茸を持ちかえり、軒下にワラ縄でゆわ結え候。ほど良く干し上ったら、香茸買いに渡すので候。貴重な収入であり申す。薬種問屋はこれに手を加え、ヘチマ水や白粉(おしろい)に混ぜ込み、香りを付けて売るのだそうで、町人の娘子や、天満、松島のお女郎衆が競って買うとの事。 訴状受け取った利左衛門の申すには、西谷は幕府直轄領(ちょっかつりょう)故、丸く治まっているはず、この訴状は解(げ)せんと申し候。たしかに近辺の大名、たとえていえば篠山の城主、青山殿は参勤交代で江戸へ出府(しゅっぷ)以来、二年経っても国元へ帰館なさらず、江戸っ子たちは、その藩邸(はんてい)の周りを青山通りと呼び候。国元ないがしろこの上なし。又、三田の九鬼(くき)殿は、その昔、熊野灘の水軍であられ、熊野古道を詣(まい)る道筋には関所を設(もう)け、海と陸に睨(にら)みをきかせていたが、幕府これを嫌い、三田へ封じ込め候。九鬼殿やるせなく、三田の大池に小舟を浮べ、家来ども集めては海賊ごっこをなさっている由、領民にとって頼りなき事、この上なし。まこと、幕府の直領は有難きかな。 しかしながら、うち続く凶作と、たび重なる盗っ人(ぬすっと)の跳梁(ちょうりょう)、それに渡世人たちの所業、われら、もはや立ち行きがたく、せめて、渡世人たちへの取締りと、賠償を求めるものに御座候。なお、渡世人たちの頭(かしら)らしき者、即ち、一人は好助と名のり、一人は清兵衛と称し、共に、大坂は淀川の中ほどと、下流に住み分けおり候。分別なき輩ゆえ故、手代のお侍様、用心に越した事御座なく候。それでは次なる條文、 條々(じょうじょう) |
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| 一、 |
渡世人一統、村の手配の下、一〇〇日の間、労役に処す。即ち、池さらえ、田おこし、灰小屋の肥料運び、カヤ場の刈り取り、屋根の葺替(ふきか)え、与之介方の柿、栗、タラの枝払い、畑の草抜き、牛の世話、 | ||
| 一、 |
打出の浜より、歩荷(ぼっか)にて、水揚げの品々、即ち、タイ、ヒラメ、タコ、アワビ、それにナマコ、ハマグリ等、その日の内にて、魚屋道(ととやみち)を経て、武庫の川を渡り、西谷まで運び込む事、生ものゆえ故、急ぎに急ぐ事、この道程十里也。 丹波篠山の酒「鳳鳴(ほうめい)」を四樽、運ぶ事、この道五里也。 |
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| 一、 |
女どもは、われらの酌婦を勤めるべし。期間は酒肴(しゅこう)の果て申すまでとする。正月用の晴れ着を身にまとい、髪に香油を塗り込み、顔、首にいたるまで白粉(おしろい)をはたき、唇(くちびる)に紅(べに)を引く事。 歌舞音曲を奏(かな)で、たとえ、われら、膝枕(ひざまくら)で眠り込んでも止めるべからず。一番鶏が鳴けば、静かに村を立去るべし。 以上 |
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| 天保七申(さる)の年 一月吉日 |
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| 訴人 大川端の 庄屋 年寄 百姓代 |
与之介(よのすけ) ○印 惣(そう)次郎 ○印 喜 介 ○印 久 蔵 ○印 |
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| 川口御奉行様 | |||
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其の壱へ 其の弐へ 其の参へ 其の四へ 其の五 あとがき |
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