危ない体験談 −7−
 
 

 
 ヤセ尾根を安全に辿るために出したザイルではあったが、結果的には支流の左岸壁を降りていた。 ザイル二つ折りでの懸垂下降4ピッチ目だったか、先に降りていった私は立ち木の支点を求めて斜めに下降しいき、手を伸ばし岸壁の突起を掴んだ。不用意に手にしたその突起は脆くも剥がれ落ち、身体は振り子のように岸壁の上を転がった。 手のなかでザイルが幾らか走行し、身体が止まったときには遥か上の支点から垂直真下に伸びたザイルの末端処理した結び目が手に触れていた。 宙に浮いた足元からどのくらい下になるだろうか、外れ落ちたヘッドライトが光を放っていた。
手足頭、とりあえず身体に痛い箇所はない。
 「おーい、落ちた、宙吊りだ」 「そのまま待っててくれ」
とりあえずはザイルにシュリンゲを巻きつけて自分の身体を確保する。
やっちまった感のなか暗闇で状況を把握。
かろうじて爪先が岸壁に触れるが、足を乗せることはできない。 手を伸ばせば壁に触れる事はできるが凹凸は見えず、触れられる範囲には掴めそうなカバもクラックもない。ただ草のような枝のようなものが岸壁から生えていた。強いな植物は。 気休めかとも思いつつも、この植物の根元にシュリンゲを括りつけてもうひとつの自己確保をした。
 ここまでの暗闇での一連の動作は山岳会で叩き込まれた視覚に頼らないザイルワーク訓練のおかげで思いのほか出来ていた。
 まずは左右に身体を振って、手探り足探りで岩の凹凸を探すがガバもステップも見つからず、次に上方への脱出を試みた。 登降器をザイルにセットして昇っていこうと試みるが、いたずらに握力を消耗させただけだった。 続いてシュリンゲを巻きつけたりアブミを連結したりしてザイルを伝って身体を上へと移動しようとしたが、わずかにせり上がったのみで左手の握力をほとんど使い果たしてしまった。
 上への脱出をあきらめて宙ブラリンのまましばし休憩、上の支点に留まったままの寸又さんからの声に返す言葉は小さい。 浮いた脚の下の暗闇からゴォゴォと連瀑音が響き不安感を煽る。 背負っているザックを肩から外し、なかから手探りで一本のザイルを取り出した。
 この無造作に丸められたよじれたザイルを落とさぬよう手探りで解く作業に手間取り時間がかかった。 休みながらもやっとのことでザイルを連結し、下に光るヘッドライトに向かって投げ落とす。 投げたザイルはどこかの草か枝葉にスサッと触れたような気がしたが、その場所までどれほどの距離でどんな地形なのかは全くわからない。 とにかく降りていくしかない。 宙吊りはもう嫌だ。このハーネスが食い込んでしびれた足をとにかくどこかに着地させたかった。
 着地した岩肌は拍子抜けするほどに近く、まばらに草の付く岩斜面でした。 結果論ではあるがが、見えてさえいればシュリンゲとアブミ2つを連結すれば脱出できていたと思う。
相変わらず下は暗く、ゴーッと滝の音が響いていて、この斜面ですら足を滑らせ転がれば奈落の底へと落ちていくことだろう。 遠くみえたヘッドランプの光であったが、足元から少し下の草付きに留まっていて、これを拾い上げて久しぶりに光を取り戻した。
 長らく待たせてしまったうえに下降手段を難しくしてしまい申し訳ないが、寸又さんに合図して降りてきてもらった。 ようやく合流して協議の結果、正確な現在地点と地形を把握することができないので、無事帰還への万全策をとりビバークして夜明けを待つことにした。
 急斜面のわずかな窪地に自己確保をしたまま横になって一夜を明かし、翌朝下山した。
 
 
  [みっちゃん]
 

【教訓】■陽が落ちてからの先の見えない懸垂下降は危険 ■片斜面の下降は慎重に ■ヘッドランプは落ちないように固定 ■ザイルはすぐに使えるようにしておこう
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