月は上弦
熊蝉が消えて蜩鳴く頃は疎開子のような夏を思えり
泉州のサ行さらさらしたたかに私は今日もここで微笑む
忘れ貝ひとわすれぐさ忘れ水わたくしが今欲しいものたち
集団は強し個人は弱しとは言わないけれど少し俯く
ナショナリティ、属籍等を乗り越えて誰にでもある善意と悪意
うらうらと晴れたるキョンジュ黙々と仏の前を通り過ぐ我
石段を登る百まで数えつつ百を越えたらまた始めから
ただ遠く仰ぐ花火はあっけなく仰ぎ見るものみなあっけなく
受話器より黒き毒薬入り込むああハムレットの父王のよう
自家製の梅酒の瓶を這うような澱ならばまだ救われるけど
わたくしの心の澱をかき立てる声があります 逃げられません
日が沈み夕闇色の大布であの日のことをそっと隠そう
ぬえどりの片恋に似て味気なくホームページの閉鎖相次ぐ
私がどこの誰でもない空の月は上弦あなたは遠い
ゆっくりと私の中で溶けてゆく君の言葉はあめ玉なれば
満月がしらじら溶けて水底で魚になりゆく夢を見ている
龍王となりてあなたを待ちましょう吉祥凶事もてあそびつつ
何か重いものをおまえも背負うらむ時雨ぼとぼとまとわりついて
真夜中の風呂に一日思うとき氷雨は遠い太鼓響かす
寂しさをからだいっぱい実らせて枯れ木も我もまっすぐに立つ