糸月
別に何も求めて居らぬさびしさにペットボトルをぐしゃりとつぶすはったりで乗り切る授業するときはひりつくまでにグリーンミント眺め居るエスカレーターひとときも速度を変えぬことの不可思議
不要者意識が空を覆う夜は『法窓夜話』をアジールにする
知らされぬことを知り居る振りをして仄かに笑う円卓会議
ゆっくりと引きずられ行く感情に我より軽きダフネを思う
守秘義務の多さに夜も疲れ果て生煮えのまま喰らうラーメン
嫉妬また怒り伴うさびしさはひりひりとした海のようだね
私がこのまま潜り込めそうな大学校舎上の糸月
春猫は夜通し鳴いて芳一の耳をとうとう見つけたようだ
紫の藤の花房風を受け穏やかならぬものをばらまく
さびしさはねんね根来の子守歌五月雨の中聞こえ来る時
遠き世の刑罰理論読み終わりそしていきなり雨が降ります
もっと外を見るのだ見よと梅雨空に押さえ込まれて過ごす一日
重要な術語に論者それさえも私は不意に忘れてしまう
一人とう孤独に引きずり込みたくて私は星に不幸を渡す
我が知らぬ夜明けの雨の激しさを聞きつつかじるパンの耳
海を越え時越えなおも触れ合えぬ人に執着し始める夏
赤目四十八滝暗くくらくらと水の流れに支配されいつ
これよりはもはや戻れぬ心持ち通り過ぎゆく布引の滝
万物が未だ形を持たぬ真夜あなたは森の声で囁く
オレンジに指を染めつつ読む古書に私がさがすものはまだない
日本人妻とつい呼ぶ我らにて日本人たる定義の甘さ
オルフェウス、耳に囁く声は誰。倫理・論理の狭間が見える。
秋空は銀の刃物を振りかざしそこで銀杏が震えているよ
言葉無く我押しのける女あり私も世界も凡て邪魔者
頬撫でる風は余りに軽やかで夢に微睡むように微笑む
テンペスト 遭難しつつある人を海の底から眺める私
夕闇に溶け行く我の輪郭を取り戻す様に腕を伸ばせり
賑やかでどこか寂しい大阪の屈折感を少し好めり